第58話 合宿所
「ちょっといいかしら」
合宿所の場所は、バルムドの中心部。王立ディルモ学院から東へほど近い場所にあった。
前述の通り各地に点在する大きなディルモ寺院の一つで、広いスペースがお祈り用に設けられていた。そこが本番までの2ヶ月間、道場に成り代わっている。
選抜の二十人のうち男十八人、女二人という偏った割合になっていた。
たまたまかと思われるが、ナーバ(僧侶)という階級は男性を重んじる傾向にある。それが如実に出ているとも言えた。
そんな中で女性の大きな声は目立つ。皆の目が一斉にそちらを向いた。
「マディエラさん!」
「カルワ、調子はどう?」
「マディエラさーん!」
「ふふ、ナルワも元気そうね」
「すげぇ!トップ律動師が来てくれたぞ!みんな」
マディエラは有名だ。
クロック王国より連盟の存在感は大きくはないが、それでも拍使いの魅力は若者にとっては輝かしいものがある。
律動連盟のナンバーツーといえば、この国で二番目の実力者のようなもの。それを目の前にして興奮しないものはいない。
「マディエラ、もしかして今日は俺たちに稽古をしてくれに来たのかい?」
「マディエラさん、技を教えてください!今覚えたいリズムがたくさんあるんです!」
若者たちの視線を微笑ましく受け取るマディエラ。だが、彼女の目的は当然それではない。
「みんな、今日来たのは稽古が目的なんじゃないわ
ちょっと紹介したい子がいて…あれ?ティンタは…」
さっきまで、そこにいたティンタは、どこかへ消えてしまったようだ。
そもそも彼女は社交的な方では全くない。その上一番大嫌いなのが僧侶と貴族。
ついてきたのはいいものの、直前になってどこかへ隠れてしまったらしい。
「全く…ティンタ!」
「ティンタがここに来ているの?
あのティンタが寺院に来るなんて、信じられないなぁ」
カルワとナルワは双子の兄弟で、どちらも正規律同師である。よって、普段から聖拍院に出入りしていたティンタとは当然顔見知りだった。
「ティンタ!どこにいるんだい?おーい!」
その時、大きな柱の影からひょっこりとかわいらしい顔がのぞいた。
「ティンタ、来てくれたのか?」
カルワとナルワはティンタが奴隷の階級である事はよく知っている。だが、最近の若者はあまりそんなことを気にしない風潮があった。
とはいえ、全員がそうというわけにはもちろん行かない。
「なんだ、あの汚い格好」
「ここは寺院だぞ…?あんな服で来させていいのか?」
「女の子…なんだよね?髪もずいぶん短いし、もしかして奴隷なの?」
ティンタはうっすらと目に涙を浮かべていたが、心の中には激しい怒りが渦巻いていた。
こいつら何なの?生まれた家柄が良かっただけで、なぜそんなに人を見下す態度ができるのかしら?許せない。
ティンタは意を決した。こんな奴らに負けない。私が代表になるんだ。




