第55話 旅路
シュンたちは、二人の意外な関係に驚愕した。
「信じられないわ
わたしたちのジャン先生が、ジル様とそういう関係だったなんて
でもなんだか誇らしいわ、素敵な話」
頬を緩めるサビアラ。尊敬してやまない二人の繋がりに、純粋な喜びを感じているようだった。
だが、シュンとライドンにとって、ジルは常に畏怖の対象だった。
彼女の女の顔など、一度として見たことがない。恋人がいる姿など、想像の外にあった。
「サビアラも知らなかったのね
まあジャンはそういう事は話してないのか
まずいわね、ウチらから漏れたと知られないようにしないと
三人とも内緒にできる?」
シュンとライドンは顔を見合わせ、小さく頷く。短期の留学生である彼らにとって、口を閉ざすことは難しくない。
だが…、視線が自然とサビアラへ向く。
サビアラは学院きっての噂好きだ。シュンはなんとなくそのことに気がついている。
「サビアラ、君は黙ってられるのか?」
「シュン、あなた少し失礼じゃない?私の目標であり、誰よりもリスペクトしている存在のジル様のスキャンダルを誰かに漏らすようなことがあるわけないでしょう
その言い方、良くないわよ」
「ごめんごめん、少しからかっただけだよ」
(イストと同じタイプかも、地雷を踏まないように気をつけよう)
「クロニアの聖拍院だと知っている人も多いし、いずれ周知の事となるでしょうけどね
ただ、ジルは有名すぎるからね、ジャンも大変なんじゃないかな」
「いかに大変であろうとも愛があれば、その障壁は逆に二人の愛を燃え上がらせる糧になるのよ
本当に素晴らしいことだわ
結婚式にはわたしを招待してくれるかしら?」
サビアラは想像の世界に飛び立って行ってしまった。
「サビアラ、感動してるところ悪いんだけど、俺たちはここ五日間のスケジュールだけを抑えられてて、どこで何するか大してわかってないんだよ
軽く説明してもらえるか?」
「わかったわ、エイジーン
今回の目的は、ドルリダントの外島に行くことよ
行程の説明をするわね」
現在クロニアを出発したところで、時間は午後4時前。そのまま西へ向かい、テンポスに1泊する。翌朝早く出発すると、午後にはイーサップに到着。
そこで馬を変えて、そのまま西へ進みログレアで1泊する。3日目の昼にはドルリダントへ到着し、外島へ。
そのままタラブ王国からの伝統工芸品や宝石類を積み込む。
そのまま1泊し、馬を乗り換えて、帰路は海沿いの道を東へ。
4日目は、トングストンの有力者フィリップ邸で1泊する。
5日目夕方にはクロニアへ戻ってくる予定となっている。
そういえば、シュンもこの旅の詳細なスケジュールまで把握していなかった。
まるでこのクロック王国を一周するようなルートだった。
そしてまさか、今夜はテンポスに泊まることになるとは。
シュンにとってはこの世界の故郷同然の街。考えてみたらもう3週間近くテンポスを離れていたことになる。
たった一晩とは言え、故郷の空気を吸うのは嬉しいことである。
「ちょっと強行軍すぎやしないか?せめて1週間はかけたいところだが」
「アミリアのスケジュールがこれしか取れなかったのよ
そもそもエイジーンだって、結構仕事断ってくれたんだものね」
「まあな
俺たちはフリーのプレイヤーじゃないから、多少の仕事のより好みはできるんだよな」
シュンはそのエイジーンの話しぶりが少し気になった。
「なぜ律動連盟にいた方が仕事を選べるんですか?
逆じゃないんですか?」
「お前ぐらい若いとフリーのプレイヤー経験も少ないんだろう?
連盟は毎回名指しで仕事を請け負っているわけじゃない
自分が行けなくなったときに、代わりの人間を用意することがすぐできるんだ」
「それに対し、フリーのプレイヤーは何か理由があってタスクに行けなくなったときに、自分の力で代わりの人間を探さなければならない
簡単な気もするが、代わりの人間も、優秀であればあるほど、手が空いていないもんなんだよ
だから責任のある良い仕事は、律動連盟に依頼が来ることが多い
フリーのプレイヤータスクは、やはり危険が伴ったり、報酬が少ないものが多くなってしまうわけだ」
「つまり、フリーのプレイヤーでいると良い仕事が回ってこないから、食い縁が少ない
仕事を選ぶ余裕がないっていうことでしょうか?」
「そうだ、飲み込みが早いな
自分の好きな仕事だけしたいのなら、一番良いのは律動連盟でポジションを上げていくことなのかもな」
エイジーンの話は面白かった。どこの世界でもどこかに所属したりせずにフリーで仕事をしていくのは大変なことみたいだ。
とは言え、まだ社会に出たことがないシュンには実感できることではないが。
シュンはまだジルの話した“泥水に手を突っ込む仕事"が気になっていた。もし自分まで戦さ場に行かざるを得ない状況になったら…。
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ビブラハーネスをつけた馬車は振動はだいぶ少ない。だが、舗装の少ない土の道はまだ場所によっては小さな揺れが感じられた。
心地良い揺れを感じながら、シュンはうつらうつらとしているといつの間にかテンポスの街に到着していた。




