第45話 サビアラ
翌週の朝、あちこちで例の馬術の授業が話題になっていた。
ジャンとエスカーニャが口止めしても意味はないとして、特に制御しなかったからだ。
噂は尾ひれをつけて瞬く間に広がっていた。
娯楽の少ない学院生活で、噂話に飢えた貴族階級の少女たちがこの好機を見逃すはずがない。彼女たちの耳に届いた以上、もはや誰にも止められなかった。
「ヤミールの話聞いた?今日は来てないみたいね」
「聞いたわ、まあ、戻って来れないでしょうね
大して大きくもない商家の次男坊でしょ?恥ずかしくてここでは生きていられないはずよ」
「馬鹿な奴よね、何が目的だったのかしら」
「…あなた本当にヤミールがそれをやったと思う?」
「どういうこと?」
「隣の厩舎まで届くほどの馬笛よね?
そんな高価なものヤミールの家にあるとは思えないわ」
「……え、じゃあ本当は」
「ジェイスよ、間違いないわ
彼は公爵家の人間よ、家の蔵でも探せばいくらでも宝物が出てくるわ」
「…まあ、でもジェイスがやったというならその気持ちはわからないでもないけど」
「なぜ?」
「わたし、拍の授業に出てるでしょ?
あのシュンってやつ、どう考えても大したことないのよね…
あれで特別扱いされてるのは、意味がわからないもの
レベルだってわたしより高いとは思えない」
「サビアラより高いわけないわ
だってあなたはスーノとデコイの次くらいなんでしょ?」
「そうよ、でもスーノもデコイもなぜかあいつには一目置いてるようなのよ…なんなのかしら」
「…気になるわね」
「でしょ
わたし、ちょっと仕掛けてみようと思ってるの
もう黙ってられないから」
ーーーーーーーー
シュンとライドンは午前中は基本的にギルドのタスクをやっている。
クロニアはやはり人口が多いのもあってタスクは豊富だ。
街中にも任務はたくさんある。
今朝はネズミ型のモンスターの退治だ。
二人は鍛冶屋の廃材置き場でちょうどモンスターを『整えた』ところだ。
「ネズミはさ、正常化した後も退治しておきたいよな」
「たしかに
でもそれはおれたちの役目じゃないかもな」
素早く魔石を回収しながら二人はネズミを逃した。ーーーが、
グシャッ!
「…あ」
「ごめんなさい、こいつら嫌いなの、ほんと気持ち悪いし」
今日のタスクはスーノも一緒に来ていた。
スーノの手にはドゥンバ。
モンスターでなくとも拍の攻撃を受ければダメージは生じる。ましてや小動物ではひとたまりもない。
三人は聖拍院への道を歩き出した。
「今日も午後の授業に参加するのかしら?」
「行くよ!
ドゥンバを叩くのが楽しみでしょうがないから」
シュンにとってはこの新鮮な授業が楽しくてしょうがない。
「あなた昨日、馬に振り落とされそうになったんでしょ?」
「そうだよ、よく知ってるな」
「みんな知ってるわよ!
気をつけなさい、あなたたちのことよく思ってない連中はいるわ」
「えっ、なんで?」
ライドンにはわからない。この最強の自分が拍の授業に呼ばれて行くのは学生たちにとっても誇り高いことだと本気で思っている。
「はぁ、あのね、貴族っていう連中はあなたたちみたいなどこの馬の骨かわからない人たちが活躍するのが面白くないのよ
ずっと自分たちが一番って環境で育ってきたんだから」
「ふぅん」
「とくにシュン、
あなたはドゥンバはまだ初心者じゃない
でもなぜか先生方から目をかけてもらっていて、さらには調べると平民出だと聞く
そんなの面白いわけがないわ」
スーノは自らが貴族階級だけにこういうことは詳しいみたいだ。
「気をつけなさい
あなたとゲームで決着つけようとしてる子もいるようよ」
「えっ、本当に?
それは嬉しいな」
ガクッ。
「あのね、シュン
やられることも考えたら?
あなたのドゥンバは初心者そのもの、ドラムは禁じられてるんでしょ?」
「それでも経験値はほしいよ
死ぬわけじゃあないし、仕掛けて来てくれないかなあ」
「呆れた、バトル狂じゃない
あの冷静なシュンがどうしちゃったのかしら」
「なあスーノ
グレイグの死線を超えたおれたちが、たかが学生に遅れを取ると思うか?」
ライドンはいつも強気だ。
「大した自信だわね
サビアラ、アダム、クライス
このあたりに来られたらわたしとそれほど変わらないわよ」




