第44話 馬術 4
ジャンは普段の授業ではあまり見せない苛立った表情で、こちらに近づいてきた。
「おい、厩舎の馬が何頭か興奮して手がつけられなくなってるぞ
この中に心当たりがあるやつはいないか?」
「……」
皆、なんのことかわからない。
二人を除いては。
「ふむ、シラを切る気か?」
それでも反応する者はいなかった。
「ほう、それではこれから全員の身体検査を行わせてもらおう
何をやったかはわかってるぞ
馬笛を使ったものがいるだろう
何のつもりか知らんが、そいつは停学確定だ
さあ、一人ずつ並べ」
ジャンの迫力にさすがに怖気付いた犯人が恐る恐る手を上げた。
「この野郎っ!」
その瞬間、ライドンが犯人の胸ぐらに掴みかかった。
今にも張り倒さんばかりの形相で睨みつける。
そこへ、ジャンが間に入る。
「待てライドン
ヤミール、貴様か
自分のしたことがわかっているのか?」
怯えた様子で目を泳がせるヤミール。
「どういうつもりだ?言ってみろ」
ヤミールは答えない。ただ、ガタガタ震えていた。
ジャンはヤミールから馬笛を取り上げる。
「……」
それを見つめ何か思案した。ーー次の瞬間。
ドガアッ!!!
強烈なグーパンチだった。
ヤミールは3メートルは吹っ飛んだ。
あまりのことにシュンは面食らっていた。
「これは没収だな
ヤミール、貴様への処分は後ほど言い渡す」
ジャンは去っていった。
もちろん授業などはもう無しだ。
騒然とした様子だったが、エスカーニャは皆をまとめ校内へと促した。
ヤミールはその場にヘタレ込んで動かなかった。
その様子をシュンは心配そうに見ている。
「シュン、あんな奴ほっとけ
お前を怪我させようとした奴だぞ」
ライドンは今もまだ怒りの火を燃やしている。
「ああ、でも無事だったし」
「シュン…」
お人好し過ぎる…。こんな甘ちゃんでこの殺伐とした世界で生きていけるのか?
ライドンは一瞬そう思ったが、同時にやはり自分はこの優しい相棒がたまらなく大好きなのだと確信した。




