第43話 馬術 3
周囲が騒然とするなか、得意げな笑みを浮かべて語る者たちがいた。
「ジェイス様、何をなさったのでしょうか?」
「ふ、これだよ」
ジェイスはポケットから小さな棒状のものを出した。
「一体なんですか?それは」
「馬笛だよ、かなり高価なものらしいぜ
うちの蔵の中から見つけてきたんだ
おれたち人間にはわからない周波数でものすごい音が出てるらしい
リリィは軍馬じゃないからな、こんな強烈な音に耐えられるようにはできてない」
「さすがです、ジェイス様」
「ふふ、振り落とされたら大怪我じゃ済まないぞ
見物だな」
シュンは慌てていたが、冷静に周りを見ていた。
手綱をしっかりと掴みながら、リリィの首にしっかりとしがみついている。
ダカダッダカダッダカダッダカダッ
体の中で大きくこだまするような蹄の音。
シュンは自然に口でリズムをとっていた。
ドゥクタンドゥクタンドゥクタンドゥクタン
それは蹄の音から、リリィの心臓の鼓動へと変わってゆく。
トゥクタントゥクタントゥクタントゥクタン
シュンの意思とリリィの心が少しずつシンクロしていくようだった。
気づくとリリィの体をほんのわずかに黄金の光が覆い始める。
ピイィイッ!
リリィにしかわからない笛の音が鳴り続ける。
(大丈夫、大丈夫
怖くない、落ち着いて)
リリィは首を振る。何かおかしな態度ではあるものの、少しずつスピードを落とし始めた。
乗り手を振り落とそうとするような事は一切しない。
「リリィ、大丈夫だ
もう少し一緒に駆けよう」
全力疾走していたリリィは、やがてキャンターへと落ち着いた。
まだときおり不機嫌そうな仕草を見せるものの、概ねシュンの意思に従っている。
「シュン!いいわ、そんな感じよ!」
エスカーニャの声が聞こえる。シュンにも徐々に余裕が出てきた。
そのとき、遠くから走ってくる大柄の男の姿が見えた。
「おい!ストップストップ!
この授業、一旦やめろ!」
髪を振り乱しながら走ってきたのはジャンだった。




