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第42話 馬術 2

「エスカーニャさん、この子の名前は何と言うのですか?」


「あぁ、この子はリリィよ

女の子なの、よろしくね」


「ありがとうございます

よろしくな、リリィ」


丁寧に馬に挨拶すると、シュンもライドンにならってあぶみに足をかけ、グッと体を持ち上げた。

リリィは乗馬用のおとなしい牝馬だ。

慣れないものが乗ろうが特に変わった様子は見せない。


「まずは私が手綱を引くわ

歩いてみるわよ」


初めてとは言え、シュンはなんとなく馬の乗り方を知っていた。

シュンの出身である狛江市からほど近い場所に府中の競馬場があり、幼い頃から父親に連れてこられていたし、ポニーなら乗ったこともあった。

それになんといっても、シュンの名は漢字にすると駿。馬の字が入るのだ。なんとなくお馬に対して親近感が湧いていた。


「手綱を離すわよ、シュン

そのまま1周歩いてみて

あなたの行きたい方向に手を引けば、リリィは言うことを聞いてくれるわ」


爽快な気分だった。

シュンはもともと馬に乗ってみたいと思っていた。その希望が、まさかこの異世界の場で現実になったのだ。

シュンはいつの間にかそのまま学院の校庭の向こう側までぐるりと回っていた。


「戻ってきていいわよ

さあこっちよ」


リリィはご主人の言うことをよく聞く、とてもいい子だ。

その声に応えてそのまま皆の前へ戻ってきた。


「ありがとう、リリィ」


馬から降り礼を言うシュン。


「シュン、なかなかやるじゃないの

怖くなかった?」


「いえ、大丈夫でした

リリィがとてもいい子だったので」


「よかったわ

今日はだく足の授業をやる予定だったのだけど、シュン、あなたやれそうじゃない?」


「面白そうです、やってみたいです」


エスカーニャの指導はなかなか堂に入ったものだった。

もともと経験のあった者もいたが、生徒たちはみなそれぞれに綺麗にだく足を乗りこなした。

最後はシュンの番だ。


「シュン、見ていたわよね?

だく足は歩きの状態から横腹を軽く蹴るといいのよ」


「はい、大丈夫です

頼むぞ、リリィ」


シュンはまずリリィのお腹に合図した。

リリィは歩き始める。


「さあ、リリィ

いくぞ、だく足だ!」


歩様を変えるリリィ。


ドッドッドッドッ


一定のリズムで駆け始めた。

想像していたより早く、高さもある分少し恐怖を感じる。シュンはグッと手綱を握りしめた。


(この足音の感じ、なんか太鼓のリズムと似てるかも)


ドッドッドッドッ


なんだかドラムの音が聞こえてくるようで楽しくなるシュン。


(もしかしてジルが馬術を得意な理由ってリズムと関係あるのかな…?)


シュンは何か掴み始めた。


ドッドッドッドッ


そのとき、リリィの耳がピクリと動き、挙動が少しおかしくなった。


「ブヒッ、ヒヒィーン!!」


「うおっ!」


さっきまで大人しかったリリィが大きく立ち上がる。

シュンは突然のことに驚き大きくのけ反るが、強く手綱を握ってなんとか落っこちずに済んだ。


挿絵(By みてみん)


「どうしたんだ?リリィ!」


「ヒヒィーン!」


リリィの目が血走っている。

さっきの様子とは違い、何かに怯えたような強張った表情だ。

途端にリリィは全力で走り出した。


「どうしたのリリィ!?

シュン!絶対に離さないで!」


「まずい、あそこから振り落とされたら大怪我だぞ」


ライドンも焦って走り出す。

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