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ごめんなさいね、もう聖女やってられないんですよ   作者: まんぼうしおから
第一章・聖女をやめて新天地へ

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40・鉄腕聖女と暗黒騎士

 さあ、因縁の対決が始まろうとしています。

 初戦は私の圧勝でしたし今回もそうなるのは確実です。いや、取り巻きを全滅させれば降参してくるでしょうから、不戦勝で終わりますねきっと。


(それにしても、だいぶイカれてきてるご様子ね)


 まさかお隣に忍び込んでまで本人が追いかけてくるとは、私はあの令嬢の執念とお馬鹿ぶりを舐めていたかもしれません。

 聖女たるものが母国を守護する守護結界をほったらかしてどうするんですか。しかも隣国に不法侵入とか立場的に許される行いじゃないですよ。

 ご実家がどれだけ太かろうが、ここまでポカやるともう庇いきれないと思いますね。下手に庇ったら伯爵家がぐらりと傾くくらいの愚行です。でも庇うのかなパパさん。


 いやもうね、マジで後先考えてないわ、あの女。

 ここで潰しておかないと、私だけでなく、いずれは大陸全土がワガママに振り回されてえらい目に合いそう。まだ被害が広まらないうちにやっちゃいますか。聖女の尻拭いを元聖女がやるのは仕方ないことかもしれませんからね。



「おー、見事に引っ掛かってやがる」


「正面の入口からぐるっと半円状に囲んでますね。裏手にも数人回り込んでるようですが……ああ、戻ってきましたか。あっちにも扉とかないか確認したんでしょうね」


「つまり知能はそれなりに残ってるわけだ。しかも、動きもキビキビしている。まとめて襲ってきたら意外と手強いかもな」


「気にしなくてもいいでしょ。どうせサロメの餌食ですよ。彼らも、あの少年もね」


 浅黒い肌の少年が、片手を上げ、前方に軽くチョップする動きに哀れなマリオネット達が反応し、我先にと遺跡の中に次々吸い込まれていきます。地獄と知らず。

 最後に少年が入り、残ったのは、男性二人と馬車とその御者だけになりました。さよなら坊や。次の人生ではもっとまともな職に付くんですよ。


 はい、そちらはもう忘れて残りの面子を気にしましょう。

 長槍を持った男性は戦士タイプ、ローブの男性は魔術師タイプですかね。見た目だけで判断するのは早計ですが、わざわざ擬態する必要ないのでまあ見た目通りでしょう。

 御者は見た感じ戦闘力は無さげですね。問題はあの馬車の中に何人手練れがいるかですが……ぎゅうぎゅう詰めになってるはずもないので、聖女の他にいても、多くていいとこ二人でしょうね。


「おや」


 誰か降りてきました。

 それも二人。どちらも女性です。


「見たことある人と見たことある服装の人ですね」


 一人は黒で塗り潰された喪服の上から真っ赤なケープを羽織り、なんかクロワッサンみたいな形の装飾がついた首飾りを下げています。ピカピカしてますから金ですね。


「あの邪神官の仲間でしょうか」


「そらそうだろ」


 もう一人は馬鹿令嬢にして三流聖女のダスティア様でした。

 何か右腕だけやけにゴツくなっています。

 ……いや、義手ですかねあれ。

 なんか変な、文字らしきものが書かれた鉄の装備が、右肩から指先まで覆い尽くしています。

 それに、やけに堂々としていますね。馬車の中から出てこないものとばかり思っていたのに、これは驚き。


「「あれれ?」」


 喪服の動きにいち早く双子が気づきました。僅差で次に気づいたのが私とリューヤです。


「おかしいですね。私の目には、あの葬儀帰りがこちらを指差してるように見えるのですが」


「奇遇だな。俺もだ」


 これはあれですね。いわゆるひとつのバレてるわこれ。何故わかったあの女。


「こそこそする意味もなくなったから行きましょう」


「チッ、さっさと飛び出しておけばよかったな。不意を突いて一人は仕留めたかったぜ」


「今更ですよ。ほら、さっさとお呼ばれに応じましょう。あの感じなら一人だけ隠れてても多分無駄だと思いますよ」


「クソっ」


 汚い悪態つかないでほら行った行った。



「お久し振りですね。ダスティア嬢。いえ、聖女ダスティア様と言うべきでしょうか?」


「あら、意外に礼儀はまだ残ってるようですわね。エターニアから逃げ出した時に放り捨てたものかとばかり」


「まあ、死にゆく者への手向けとでも思っていただければよろしいかと」


「……前言撤回しますわ。相変わらず、立場をわきまえないブタ女だこと。なぜ神殿も、このような良識と満腹感を知らぬ者を聖女に据えたのか……わたくし、大いに理解に苦しみますわ」


「そこまで太くはないだろ」


 また横からいらんことを口走りましたねリューヤ……そこまでって何ですかそこまでって。豚まではいかなくてもある程度まで太いってことですかこの野郎覚えてろ。


「ずいぶんと態度が大きいですが、もしかしてそのいかつい手袋のおかげですか? そんな陳腐な物に頼らねば脅しひとつできないなんて、聖女の地位が泣きますよ?」


「ほほほ、言ってくれるじゃありませんの。結界張りしか能のない、不細工な壁聖女の分際で……」


 おお、ピキピキしてる。眉間にシワがきましたよ。

 その笑いも、面白いからではなく怒りを抑えるためのものですね。実にわかりやすい。

 元々沸点の低い方ですからね。ちょっと軽く炙ってあげたら、もうこの有様です。その短気のせいで右腕をバッキバキにされたんだから少しは懲りたらいいのにね、全く。


「……地面に額を擦り付けて真摯に詫びれば、楽に殺してあげたものを。どこまでもふざけた女ですわね、あなたは」


「ハッ」


 許す選択肢を用意してない下衆にそんなこと言われても、こっちとしては失笑するしかないんですけど。


「もう問答はその辺でいいだろ。あっちも始まってるみたいだし、こっちもやり合おうぜ」


 リューヤが一歩前に出てそう言うと、遺跡のほうから叫び声が聞こえてきました。爆発音らしきものもです。

 ついに魔神サロメ(かなり手加減)の大暴れが始まったのでしょう。果たしてあの色黒な男の子は生き延びることができるのか。


「好戦的な少年ですねぇ」


「……気をつけろノルス。無造作に立ってるくせに隙がない。こいつはかなりの手練れだ」


「ドリエゴル、あなたがそこまで言うほどとはねぇ。ではその少年はお任せしましょう。私はそちらの双子少女を片付けますか」


 少女じゃないんですよ……。


「となると、私の相手はのぼせ上がった馬鹿聖女になるとして、あなたはどうします?」


 面白いくらい挑発に乗る(いよいよ鬼の形相になった)ダスティア嬢を無視して喪服女に目線を向けると、


「荒事は苦手ですので、見物に終始させていただきます。私が参戦しても役に立ちそうにないので」


 胡散臭さ極まりない返事で辞退してきました。

 これ本当の力を隠してるパターンですよね。昔、そんな相手に遭遇したことあるのでよくわかります。

 その時は向こうが「これなら勝てる」と踏んだのかその場で挑んできましたが、リューヤの奥の手スキルの前に健闘虚しく破れました。

 この女性は……かなり慎重な雰囲気なので、勝敗が決したらさっさと退散しそうですね。できればまとめて始末したいのですが……。


(まずはこのひ弱なマヌケお嬢様を軽くひねってからにしますか)



 と思ってたのですが、これが意外や意外。

 私はまさかの苦戦を強いられる事になったのです。

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