39・待ち伏せしました
「つまり、復讐心に突き動かされている聖女と雇われ手下どもは、クリスちゃんではなくクリスちゃんの結界を目印にしてて……」
サロメはそこで話を区切り、熱々のお土産にかぶりつきました。
「この青い石で方向を突き止めてると、そういうこったな」
親指と人差し指でつまんだ青い石を顔の前まで持ってきて、リューヤが面白そうにじろじろと見ています。
導き手。
輝きの強弱で目標となる何かがいる方向がわかるよう作られた、シンプルな発想からなる魔道具です。
門外漢なので詳しくはわかりませんが、きっと、条件付けをすることでそれに該当する人や物などを探し当てるというのが正しい使い方なのでしょう。で、今回はそれが私の結界魔法だったと。
「でも、なぜそんな回りくどいことしたのかしらね。意味わからないわ。むぐむぐ…………美味ひいわね、ほれ」
名産豚の串焼きをもっちゃもっちゃ頬張りながら、サロメが首を傾げました。
頬袋膨らませながら食べてる様さえ私の目には美しく見えています。……これもう美とかそんなんじゃなくて何らかの特性の域に入ってねえかな。
「私を狙いにしてもどうせ抵抗されると思ったのでしょうね。呪いなどを跳ね除ける防御魔法や、対象にされないよう身を隠す隠蔽魔法等を使われたら、どうにもなりませんもの」
「あー、なるほどね。本人ではなく本人の魔法に反応する手段を用いたわけかー。なかなか頭を使ってるじゃないの」
「本隊が来る前にタネが割れたのは、私達にとって非常に幸運でしたね。よくやってくれました、サロメさん」
最初は別の意味でやってくれたと絶望しかけましたが、蓋を開けてみれば賢明な大活躍でした。
「そーでしょそーでしょ、もっと褒めなさい。何なら崇めてもいいわよ?」
「それは辞退させていただくとして、このタネをうまく逆手に取りたいですね」
「どーやって?」
「どーやるの?」
「私にいい考えがあります。……なんですかリューヤ、その顔は。不満ですか? 不満なんですね? よろしい叩きましょう」
「おいおい、実力行使までノータイムすぎるだろ。こちらの言い分くらい聞けや」
「どうせ結論変わらないでしょ」
なら聞くだけ時間の無駄ですからね。
「横着すんな。叩かれるほうの身にもなれ」
「なぜ?」
「冷酷すぎる返しやめろ」
ピオとミオの仲介もあってこの揉め事はお流れとなり、リューヤへの軽いムカつきをグッと呑み込んで収めた私は、ある閃きについて説明を始めました。
「──となりますが、どうです?」
「まあ、悪くはないし、妥当だな。バレるとも思えない。成功率は高そうだ」
「問題があるとするなら、どこを選ぶのかってことね。んぐ、んぐ……………………ぷはー!」
サロメは肉を平らげたかと思えば、今度は酒をグビグビ飲んでいます。もはやただのおっさんです。人外の美貌を持つおっさんです。
「あなたの言うように、そこがこの計画の肝ですね。うまく条件を満たす場所があればいいのですが……」
「ないこともないぞ」
「え? 本当ですか、リューヤ? 今この状況でつまらない冗談は許しませんよ?」
平手をぶんぶん振って本気アピールします。
「ンな威嚇すんなよ。相棒だぞ」
「普段やってることがやってることだからですよ。疑わしさの塊じゃありませんか、あなた」
「まあまあここは落ちついて」
「どーどー、はい、どーどー」
なにそのなだめ方。気性の荒い馬ですか私は。
「さっきから双子ちゃんが困ってばかりじゃないの。年上なんだからすぐカチンとくるのを抑えなさいな」
それを言われると痛いですね。
頭を冷やしますか。深呼吸深呼吸。
すー、はー、すー、はー。
…………よし。
「それでリューヤ、あなたには都合いいアテがあるのですか」
「誰も潜ってなければな」
「すんなりいったな」
「そうですね」
数日後の夕方。
我々はリューヤの言っていたアテ──囮となる、ベーンウェルから歩いて一週間くらいかかる場所にある遺跡のそばで息を潜め、その時を待ち続けました。
どうやってそこまで移動したのか。
簡単です。
目的の場所を唯一知るリューヤがサロメに抱えられて、そこまで一日かからず飛行して踏破。
到着したら魔法陣で私達を呼び出します。自宅にあらかじめマーキングされた円が輝きだしたら私と双子がそこに立って転移待ち。
そして魔法陣が発動して私達三人も到着というのが一連の流れです。
そう、転移魔法です。本当にあったんですねこんな大魔法。歴史に名を残してる魔術師とかは使えたそうですが、現代には一人もいないので「こんな魔法あればいいな、使えたらいいな」という夢みたいな架空の魔法だとばかり思ってました。サロメやばい。
そんな魔神の凄さの一端はさておき、私が遺跡そのものに結界を張って準備完了しました。
周りには他に家などもなく、おあつらえ向きに身を隠せる林まであります。おかげで私達も楽に潜めることができて助かりました。
遺跡の中ですが、もの悲しくなるくらい静かでした。既に狩り尽くされ探索され尽くされ、誰も見向きもしなくなった場所ですから。
しかも地下への階段は瓦礫に埋もれています。
「同業者でもいたら面倒臭くなりそうだったがな」
「それを気にかけていたんですねあなたは。でも、この様子では……」
もし何かが下にいても、出てくるのは困難でしょうね。これはもうほっといていいです。
なぜリューヤがここについて知っているかですが、本人が言うには「あの金持ちからの依頼受けた後、色々と情報収集してたらそんな話がたまたま聞けた」とのこと。
……ふむ、どうも、あちらの未亡人と関わってから、運が向いてきた気がしますね。これからもいいお付き合いができたら幸いです。
「これから、ここに来るんですよね? 聖女の一派が」
「来る。昨日、様子見したし、今日の午前中もこいつらに偵察に行かせたが、明らかにここに一直線で向かって来ている」
長い筒のようなものを取り出しながらリューヤが断言しました。
筒の正体は遠眼鏡です。
彼が隠匿している道具の中でもかなり貴重なもので、作り手があまりいないこともあり世間にはあまり出回ってはいません。錬金術師や魔術師が作る魔道具バージョンもあるのですが、そちらはさらに高価で貴重なので店売りはされることはないでしょう。
「なんか大勢いたよー」
「みんな黙々と歩いてたよー」
「そんなに大量に雇ったのかしら」
「いや、ありゃ操られてるな。俺も昨日これで見たが、目が虚ろすぎる。死体にしては血色がいいからネクロマンサーの類いではなく、催眠とか精神操作とかだなアレは。先頭の奴が怪しい」
「ねえミオ、確かに先頭に男の子いたよねー」
「そうだねピオ、僕らと同い年くらいのがねー」
「ならその子を狙撃したらいいですね」
私はリューヤの肩をポンと叩きました。
「年下を殺すのは、アンマ気が進まないぞ……」
「手っ取り早いじゃないですか。年下だろうと年上だろうと敵は敵。どのみち生かして帰せないんですよ?」
「んー、でもよ、操られてる連中が全滅したら無力にはなるだろうし、それでよくないか。俺の中にある一線は越えたくないからよ」
「やっぱ優しいねぇ」
「そういうとこ好きぃ」
男に左右から頬にキスされて、露骨に嫌がるでもなく、微妙に困った顔をするだけのリューヤ。
そっちの趣味も悪くないなという思いが芽生えてきた前兆でしょうかね。
「これまで容赦なく殺してきておいて今更すぎません?」
「そこを突かれると痛いが……おっ、来た来た。本隊のお出ましだ」
「貸して」
「ほらよ」
リューヤから受け取った遠眼鏡で見てみると、なるほど確かに、遠くから大勢が一列でこちらに向かっていますね。
彼らが我々の罠に食いついた時が、決戦の始まりです。
そうそう、サロメはどうしているのかと言うと、私達の側にはいません。
あの強烈な魔力の持ち主をもし感知されたら、Uターンしてエターニアに逃げ帰ってしまいかねないからです。それでもいいといえばいいんですけど、根本的な解決にはなりませんから。
じゃあ何処にいるのかというと囮となる遺跡の奥に陣取っています。
「……意味ないじゃん」なんて意見があるかもしれませんが、そこはぬかりありません。
サロメの放つ剣呑な気配や魔力の波動は、遺跡に張られた結界の効果とうまく相殺されてるからです。
本来ならよほど事前に下準備しないと無理なのですが、今のサロメにはだいぶ力を抑えてもらっているのでこの程度の結界でも問題なし。
そのまま、彼女にはまあまあの強さの悪魔を演じてもらうことになっています。あまり本気でやられたら絶望のあまり蜘蛛の子を散らすように逃げ出される恐れがありますので。
私としては、やはりここで一応の決着をつけたいのです。ずっと狙われる人生とかスローライフの真逆すぎますからね。
「あの生きてるゾンビどもが遺跡に群がったら作戦開始だ。ミオ、ピオ、あらかじめ速くなっておけよ」
「「はーい」」
「私達も速くなりたいところですが、致し方ないですね」
ピオの『疾風』は自分にしか効果がなく、ミオの『重圧』は他人にしか効果がないのです。
ならなぜミオを加速できるのかと聞くと、たぶん双子だからじゃないのかなと、彼らは語っていました。本人たちもよくわからないのでしょう。
でも、ミオの重くさせる力もピオには効かないらしいので、案外その仮説で合ってるのかもしれません。
スキルも使いこなしていくと成長する事があるらしいので、今後に期待しましょう。私も素早く動いてみたいし。
これを言うとリューヤが確実に私の体重や体型について腹立たしいことをほざくので絶対に言えませんが……
……ああ、今はそれどころじゃないですね。そんなことより決着つけないと! 元聖女が現聖女に引導渡してやりますよ!




