41・思わぬ苦戦
・前回のあらすじ
馬鹿が馬車でやってきた。
「さて、小手調べといきましょうかねぇ!」
魔術師ぽい男性(面倒なので以降は魔術師と呼びます。それともう一方の男性は戦士呼びします)がこちらに手を突き出し、無数のつららを発射してきました。
氷槍の縛鎖。
威力はそれほどでもありませんが、当たると凍りついて身動きがとれなくなる足止め主体の魔法です。とはいえ鋭利な氷の塊なので当たりどころ悪いとあっさり死にますが。
この魔法はちょくちょく同じ依頼を受けたことがある魔女さんがよく使ってましたから見覚えあります。懐かしい。大きな魔物が動けなくなったところをバシバシ殴り殺してました……ってそんな浸ってる場合じゃないですね。
「『防壁』っ!」
即座に魔法の壁を作り、一つ残らず防ぎ切ります。
壁にぶつかったつららは冷気を噴出しながら全て砕け、壁が消えたあとは、あちらとこちらを分断するかのような氷の柵が出来上がっていました。
「どりゃあぁ!!」
その柵を打ち砕いて一直線にリューヤに突っ込んでくる戦士。
まさに一本の槍と化しての突撃ですが、リューヤは相変わらずの揺らめく動きで回避して、しかし敵もすぐさま直角に方向転換して追撃、回避、追撃、回避……目まぐるしすぎますよもう!
「異様な切り返し方だなおっさん! さてはスキルによるものか!」
「ふふふ、その通りだ。しかし解ったとてどうにもなるまい。いつまで逃げ仰せるかな、坊主!」
なんか盛り上がってますね。
楽しそうだし、そう簡単にリューヤがやられるわけもないので、ほっといてもいいでしょう。それより双子ちゃんは…………ん?
「死ねえええええっ!!」
「おっと危ない」
『円盾』をかけたバーゲストのお顔で、よそ見してた私にすかさず殴りかかってきた聖女の鉄拳を防ごうとした──のですが。
ビキィ!
「あらら」
嫌な音を立てて円盾にヒビが入りました。
まさかの展開です。周りから絶えずチヤホヤされて育ったお嬢様の拳でどうにかできるようなものではないのですが、これは一体?
「ほほほ、どうかしら今の一撃は? 驚いて?」
「そりゃ驚きもしますよ。この短期間でかなり鍛えられたようですね」
威力も驚きですが、動きが箱入り娘のそれではないです。
練気でしょうか……いや、なんか受ける感じがちょっと違うかな。魔法による一時的な強化に近いような……う~ん、よくわかりません。
「わたくしが鍛えた? ……ほほっ、おほほほほほほっ! 面白いわ、面白いことを言うわねこのブタさんは! そのような泥臭い真似を、伯爵令嬢にして聖女である身でするはずがないでしょう? このみなぎる力はね、神の聖水によるものですわよ」
また言いましたね。
私の中にある慈悲の心がどんどんすり減ってることにも気づかない愚かな聖女め覚悟しとけよコラ。
「……うん、決めました」
「?」
「あなたには豚の泣き真似で必死に命乞いさせるとしましょう」
それと、神の聖水とやらについても吐かせますか。不穏な匂いがしますから。
◆◆◆
「僕らの相手はおじさんかぁ」
「お手柔らかにお願いしますね」
兄であるピオと弟であるミオが、丁寧な仕草でローブの男・ノルスに同じタイミングでお辞儀した。
槍使いの男・ドリエゴルがリューヤ目掛けて飛び出した時、彼らもまた、ノルスへと駆け出していたのだ。
二人は、一足飛びで目の前の敵に剣が届く距離まで間合いを詰めている。既に二人とも背中の剣を抜いており、しかも『疾風』のスキルによる加速中。どう考えてもかなりの優勢だが、果たしてどうなるか。
「……聞いていた話と、どうも違いますねぇ。あの聖女もどきの仲間は、盗賊の少年だけだと聞いていましたが」
「んー、まあ、最近知り合ったばかりだしー」
「知らなくても無理ないと思うよー」
「そうですか。それなら話は早いですねぇ。……どうです、お嬢さんたち? 我々の側に付きませんか? あの雇い主さんの実家はとても裕福なので、金に糸目をつけませんよ? 良い話だと思いますがねぇ?」
やはり性別を勘違いしていた魔術師が、二人に誘いをかけた。
「うーん、パス」
「うーん、ムリ」
「そうですか。まあ、なんとなく無理な気はしていました」
ノルスはさして残念そうではなく、やはりな、という顔だった。
金に縁など無さそうな二流の聖女にわざわざ協力してる物好き達が、金で転ぶはずがないのはわかりきっていたからである。それでも一応は誘ってみたが、やはり、にべもなかった。
「誘いを断ったのを、地獄で後悔──」
彼が言い終わる前に双子は跳んでいた。
ピオが首を、ミオが胴を狙っている。横に走り抜けながら、すれ違いざまに切り裂くつもりなのだ。
どちらか一方が当たればそれでよし。彼らの必勝パターンである。接近戦に長けてない者には到底対処できるものではない。いや、多少腕に覚えがあろうと同じことだ。魔物や盗賊に襲われたときもこのやり方でサクサク屍に変えてきた。
今回もそうだと、双子は確信していた。
ガキキィン!!
「「!?」」
同時に鳴り響く、固いものに刃がぶつかる耳障りな音。
ピオとミオの同時攻撃と揺るぎない確信が、ノルスのローブの陰から突如飛び出てきた鉄の拳に弾かれたのだ。
「何か出たね!」
「ヤバかったね!」
かなりの速度だったが加速している二人はそれにも対応し、とっさに攻撃から迎撃に切り替えることで難を逃れた。
「どうです、素晴らしいでしょう? この『勝利の腕』は。聖女様が使ってるのと違い、祝福こそ与えられてはいませんが、あなた達ごときには充分すぎる逸品ですよ」
嬉しそうに話すノルス。
その間にもローブに隠れていた鉄腕が次々と現れて、ノルスの周りを守護するために飛び交っている。その数、八本。
「ふーん」
「それだけ?」
つまらなそうに言う、ピオとミオ。
もっとこう、さらに奥の手はないのかと言わんばかりだ。
「ふん、強がるのも結構ですがねぇ、この絶望的な状況を足だけでどう切り抜けるおつもりで? まさか、色仕掛けでどうにかするとか言いませんよねぇ? ふっはははっ……!」
自慢の逸品にあまり関心も脅威も持たれなかったことに苛立ったのか、その穏やかな語り口に嫌味が混じりだした。
素早さと顔しか取り柄がない奴らに何が出来ると言っているのだ。
「ん、そーだね」
「こーするかな」
またしても双子が跳んだ。
「懲りない娘さんたちだ。どうやら顔は良くても頭は空っぽらしいですねぇ」
四対の鉄腕が飛んでいく。
「速さはあるけど」
「知恵はないね」
そう、敵の動きに直ちに反応する速度は大したものではあるが、それは反射に近いものであり、考えての動きではないのだ。
だからコンビネーションもフェイントも無く、読むのも容易い。
「いくよー」
「ほいほいー」
ピオが避けた鉄腕が自分のほうに飛んできたところを、ミオがパシンパシンと手の平で軽く叩く。
偶然ではない。そうなるようにピオが避け、それにミオが応じたのだ。
数秒置いてから、どさりという重い音を立てて、金属の塊がふたつ地面に落ちた。
「なっ」
余裕を見せていたノルスの顔から、二人を小馬鹿にした笑みが消える。
『重圧』で重くさせられた二本の鉄腕は、虚しく地面を指で掻くしか出来なくなっていた。
「さあ、ちゃちゃっとやろっか~」
「あと、たったの六本だもんね~」
二人の語尾が間延びし始め、消化試合の雰囲気が漂ってきた。
「ま、まずい。こんな馬鹿な」
「ほいパース」
「ほいアターック」
一本。
「また釣れたよ~」
「今日は大漁だね~」
また一本。
「お、おのれ、小娘の分際でぇっ!」
頼りになる無敵の護衛が半数になった辺りで、焦り、冷静さを失ったノルスが苦し紛れに先程使ったのと同じ魔法を放つ。
それが墓穴となった。
「ぴょーん」
「ひょーい」
いずれはやるだろうと予測はついていたので、二人はあっさりと飛び退いた。
だが、残り四本にまで数を減らしていた鉄腕は、敵が大きく距離を空けたことで迎撃を止めて、その場で待機した。
そこにつららの群れが殺到していく。
「あああああ!?」
『勝利の腕』が反応するのは、敵──すなわち術者以外の攻撃にであって、術者からの攻撃は対象外である。
四本の鉄腕は無防備なまま氷漬けとなっていった。
「あらら~」
「どうしたのかな~」
焦りから仕出かしてしまった己の過ちに放心していたノルスが、痺れたようにびくりと震えた。
何故ならその声は、自分のすぐそば、左右から同時に聞こえてきたからだ。
この後の事は語るまでもないので、結論から言おう。言うまでもないのだが一応。
魔術師ノルスは、死んだ。




