第9話 『パラライズミート』
「いたな」
俺達は壁の曲がり角から頭だけを少し出して、先の通路の様子を見る。
その先に広がる薄暗い闇の先には金色の光が見えた。
アレはアンダーラットの目の光らしい、その光の数からしても相当な数がいるな。
「あの数と真正面から戦うなんて無謀だな」
「確かにの、それでどんな手を使うんじゃ?」
「そんなの決まってるだろう? 俺にはこのスキルくらいしか切り札がないんだから」
食い意地の張った魔物相手なら、このスキルの出番だ。
俺は『魔物のエサ』を発動した。
このスキルは魔物が好むエサを生成すると言う謎スキル、そして俺が情報を知っている代物ならより質の良いエサを生成する事が出来る。
本来なら『魔物ステッカー』との合わせ技で目の前の魔物の大好物とかを出せるスキルな訳だ。
しかし今回俺はアデルハイトを観光する中で得た新たな発見がある、それは魔物に与えるエサとは何も食料だけではないのだと言う事。
つまりエサを罠や武器として使うのも冒険者なのだ、と言う情報を得たって訳だ。
それはどういう事なのかを気になって調べた、するとこれが結構奥深い話だった。
魔物を相手にする事が多い冒険者だが何も魔物を倒すだけが全てじゃない。
例えば捕獲しろという依頼ならエサに眠り薬を混ぜる、討伐なら毒入りのエサを食わせて弱らせる。
行商人の護衛とかで危険な魔物がいる道を通るなら、エサを持ったヤツが魔物をおびき寄せてる間に魔物の生息域をさっさと通り過ぎる。
まあそんな感じでエサを利用した冒険者の戦い方のアイデアを俺は手に入れていた。
後はそれらの罠となるエサについての情報をある程度集める事が出来れば。
「それを材料なんて無くても生成出来る!」
「おお~~~~っ! それは凄いの!」
「本当に異様なスキルですね」
アンダーラットに見つかるとヤバいので小声で茶番をしながらエサを生成した。
俺の手の上に現れたのは見た目は普通のブロック肉。
しかしこれはアデルハイトの冒険者からはパラライズミートと呼ばれてる麻痺毒を仕込んだ生肉だ。
「俺のスキルの効果が発揮されていれば、この肉を食ったヤツらは軽く半日は動けなくなる筈だ……それじゃあ行く、効かなかった時は全力で逃げるからそのつもりでいるんだぞ!」
「分かったのじゃ!」
「健闘を祈ります」
俺はアンダーラットの前に躍り出た。
一斉に俺を睨むのは、もう嫌になるくらい大きくてドブよりも汚そうなドブネズミみたいな魔物達だ。
若干腰が引けてる、怖い、怖すぎる。
しかし逃げない、俺のやるべき事は簡単だ、ただこの生肉を連中に投げるだけでいいんだ。
こんな事も出来ないヤツが冒険者なんか務まるか。
「食らえ、生肉ストライク!」
『魔物のエサ』を連続で発動してブロック肉をどんどん生成し、それを投げまくる。
ド素人がへっぴり腰で投げた物だ、あれだけいるアンダーラット達に当たることもなくその周りに落ちる。
そもそも当たったとしても何のダメージにもならない。
いきなり現れ、変な言葉を叫びながら何かを投げつけてくる奇人を前にして、鼠の魔物達もかなり困惑していた。
しかしそれが肉と分かると連中の行動は早かった、我先にと肉に群がり貪り食う。
肉を投げる肩が痛くなる手前で投擲をやめたがアンダーラット達は山盛りの肉に突入していてこちらに向かってくる個体はいなかった。
本当に食欲の塊みたいだな、目の前に人間がいるんだから少しは警戒してもよさそうなもんだけど。
しかし大事なのはここからだ、あのブロック肉が本当に俺が求めていた効果を発揮するのか確認しないと。
効果がなかった時の為に少しずつアンダーラット達から離れながら様子を窺う。
やがてパラライズミートの効果が目に見えてあらわれた。散々肉を食べまくった鼠達が身体を痙攣させながら一匹、また一匹と動かなくなっていった。
「理想的な結果になったな、パラライズミート……コイツは強力な武器だ」
「まさか本当にエサだけであの数を無力化するとはの~マコト、おぬし中々やるの」
「あれだけの効果を発揮するとは、正直驚きました」
『中々やるじゃない』
いつの間にかちっこいリチアまでいた。
「リチアもきてたのか」
『ラシエから連絡があったのよ、ふふ、魔物に肉を投げつけている貴方の姿は面白かったわ』
「人様の本気の戦いを笑うなってば」
『ふふ、そうねごめんなさい。それにしても貴方のスキル、そんな使い方まで出来るなんて。本当に有用性が高いスキルね』
たまたま上手くいっただけだ。
しかしこんな時はとりあえずドヤっておきたい俺である。
「まあ、冒険者だからな。自分のスキルの使い方くらい工夫するさ」
「言うの~」
「なるほど」
『そうね、それでこそよ』
さて、いつまでも駄弁ってる訳にもいかないので俺達はピクピクしてるアンダーラット達の元に向かった。
よし、全員麻痺して──
「許せんでちゅーーーっ!」
「なにっ!?」
動けなくなっていたアンダーラットの群れ、油断して近づいたら一匹の魔物が飛び出して来た。
紫色の毛玉、と言う見た目の鼠の魔物だ。
完全に油断してしまった。くそ!
「よくも毒なんて卑怯な手段を、許せませんでちゅ!」
「「「ちゅちゅーーーーっ!」」」
見ると他にもパラライズミートでやられたふりをしていたヤツがいた。
コイツらはアンダーラットだ、迫る魔物達に俺は身体が硬直して動けなかった。
「させぬわ! 魔黒鋼飛来棘!」
『ラシエ!』
「はっ!」
シロミが俺を庇い紫色の毛玉に体当たりをかます、同時に黒い棘をメットから放ちながら他のアンダーラット達にも攻撃して牽制してくれた。
続けてラシエが動きが止まったアンダーラット達を蹴りと斬撃で蹴散らした。
あ、あぶね~やられるかと思った。
「む、無念でちゅ……」
「ふう、どうやら少しは肉を食っておったようじゃのもう碌に動けまい」
「他のアンダーラット達も限界のようですね」
「助かった、ありがとう」
『魔物相手に油断は禁物よ』
「……ああ、その通りだな」
完全に作戦が成功したと思って油断してしまった。
冒険者どころか魔物に関してもド素人な事は自覚していたつもりだったが、まだまだ甘かったみたいだ。
『まあ無事で何よりだわ、それにしても本当に相当な規模の群れね。何よりこちらの罠を警戒する個体までいるなんて珍しいわ』
「多分半日は碌に動けない筈だから兵士達が仲間を引き連れて戻ってきたら掃討を任せようと思ってる」
『それが妥当ね、貴方達の仕事は別にあるのだから』
「む、無念でちゅ~」
まだ喋れるのか。
紫色の綺麗な毛玉、俺を狙ってきた危険な魔物だ、他のアンダーラットは灰色なんだが、その中にあって結構目立つ色合いだ。
シロミがその毛玉を見ながら言う。
「アンダーラットの群れの中に紫電ラットがいるとは驚いたの~まさかこの群れを率いているのか?」
「よ、よくも仲間達を……人間、許せませんでちゅん!」
無理に動こうとして倒れる紫電ラットとやら。
紫色の毛玉のような姿につぶらな同じ色の瞳が結構可愛い。そんな魔物である。
他の動けないアンダーラット達がその紫色の毛玉に視線を向けている。
それはまるで助けを求めているような目だった。
「もしかして、お前この群れのリーダーか?」
「そ……そうですちゅ」
ほ~なるほどね。
「ならコイツらにここから離れるように命令出来るか? それと人間を襲わないようにもする事は出来ないか? そこらへんを何とかしてくれるならこっちもお前らへの対処を考えるぞ?」
「そ、それは出来なくはないでちゅが……」
俺の言葉に紫色の毛玉は難しい顔をした。
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