第10話 『地図の星マーク』
「う~ん、安全に住める場所と食い物か……」
この紫色の毛玉に話を聞いてみた。
この毛玉、本人曰くそこそこ強いらしい。そして、その強さと色々と面倒見が良い性格によって、別種の鼠っぽい魔物ながらアンダーラットのボスをする流れになったようだ。
しかし、この地下で群れを率いるのは大変とのこと。安全に住める場所と食料を確保するのは、この地下ではかなり厳しいらしく――
「ボ、ボク、人間と揉め事なんて嫌でちゅ。けど、皆お腹が空きすぎて……止められなかったんでちゅ」
「そうか~。けどな~、まあ魔物のお前らに言っても仕方ないかもだけど。勝手に来て、住み着いて、そんでお腹が空いたから人を襲って食い物を奪うなんてのは。それ相応の報いを受けても文句は言えないんだよ」
まあ、そんなことを言い始めると「昔はここに人間の街なんてなかっただろ~」とか横から言ってくるネトウヨみたいなのがいるかもだから、中々難しい話だけどな。
そこはそれ。人間なら、人様が作った場所に勝手に来て好き勝手に盗賊まがいの真似をすれば、犯罪者として捕まる。
魔物だとどうなるかは知らんけど、多分討伐とかされるんだろう。
「ちゅ~、お願いでちゅ~見逃してほしいでちゅ。もう二度と人間を攻撃しないように言いまちゅから」
「う~ん……どうする?」
「おぬしが始めた対話じゃろ。自分で決めるのじゃ」
『確かにね。私としては、モンスターマスターとしての貴方がどうするのか興味はあるわ。この地下の魔物をどうするつもり?』
「私からは特に意見はありません」
ぜ、全員に丸投げされた。
リチアとラシエはアデルハイトに住んでんだから、他人事じゃないんだぞ?
それとも、そこら辺も含めて俺に考えて答えを示せと言うのか。難易度が高いぞ。
あ~、こんなことなら無視してさっさと進めば良かった。
どうすっかな。
「食料については……まあ、毒入りじゃない食い物を出すことは出来るが、そもそもそこまでしてやる理由がないしな。何か俺達に……あっ、お前、この地図の場所とか分かるか?」
「ちゅ?」
「ここだ、この星のマークがついてる所に俺達は行きたいんだ」
毛玉は動けないので、俺が地図を見せた。
すると、毛玉は大きな反応を見せる。
「そ、そこでちゅか? そこなら分かるでちゅ。道案内をしてもいいでちゅよ?」
「まあいいか。あっそれと道中で魔物が現れたらお前らも戦う事も条件だ、それと今後はここに人間が現れても襲うなよ、分かったな? ここに俺達が探してる物があったら、この奥は結構広そうだし、俺達の用が済んだらお前らの住み処にすればいいんじゃないか? なんなら大量の食料も用意するから」
「ほ、本当でちゅか!?」
「ああ、本当だ」
道案内の途中で裏切られても困るしな。目的地に着いた後も帰るときに役立つ可能性があるし、エサはちらつかせておこう。
見れば、毛玉も他のアンダーラット達も食料を貰えるという話を理解しているらしく、俺へと熱い視線を向けている。
本当に食欲に正直なヤツらだな。デカい鼠達に注目されるのは少し居心地が悪いが……まあ、仕方ないか。
そんな感じで話をまとめてみた。
毛玉とその子分達が俺達の道案内をすることを条件に、見逃すことにした。
シロミ達にも意見はないかともう一度確認したが、特に問題はないとのことなので、そういうことになった。
「さて、それじゃあ話はこれでまとまったってことで……兵士達がリベンジに来る前に、さっさと奥へ向かうぞ」
「ちゅ、ちょっと待ってほしいちゅん」
「ん? あっ、そういやお前達、麻痺毒を食らってたな~」
「助けてほしいでちゅ」
「無理だ。解毒薬なんて持ってないんだよ。気合いで麻痺を治してくれ」
「む、無茶だっちゅ……」
『はぁ……ラシエ、少し無理を言うようだけど、お願い出来るかしら?』
「……分かりました。カズミ様、私が回復魔法で毒を治します」
「えっ、毒まで回復出来るのか?」
「出来ます。しかし、あの数を治すとなると、魔力の大半を使い果たしてしまうと思います」
つまり、この先では回復魔法を頼るのは難しいかもって話か。
「問題ない。危険だと思ったらさっさと引き上げればいいしな。コイツらを頼むよ」
「分かりました」
そしてラシエの奮闘により、毛玉とその子分達は復活した。
それではさっさと奥へ向かおう。
地下の移動は、思いのほか順調に進んだ。
毛玉は本当に道順が分かっているらしく、悩むこともなく先へと案内してくれた。
子分のアンダーラット達も優秀で、他の魔物とエンカウントしたときは数の力で圧倒していた。おかげで俺達は、ほぼ歩いて進むだけで全く魔物と戦う必要がなかった。
更に、他のアンダーラットの群れと遭遇したときは、毛玉がちゅ~ちゅ~と鳴くと、何故かそのアンダーラット達まで群れに加わり、護衛の数がモリモリと増えていったりもした。
「……あの毛玉、絶対に都合の良いことを言って仲間に引き入れてるよな」
不安なので毛玉にどんな話をして仲間を増やしてるのか聞いておく。
「……お前、アイツらになんて説明して仲間にしてんだ?」
「ついて来て、お前の役に立てば、お前が山のようなお肉をくれるって説明したでちゅ!」
「…………」
『まあ予想通りね、苦労するのは私達じゃなくて貴方みたいだけど』
「だろうな。ちくしょう、分かってるよ。どうせ俺がエサ製造マシーンになればいいってことだろ。俺の判断で見逃したしな。それくらいはするさ」
「わしのデザートも忘れるでないぞ!」
「分かった分かった。本当にお前ら魔物って、食うことしか考えてないよな」
「何をーーっ!?」
「その発言は失礼でちゅん!」
うぜ~。
そんなやり取りをする余裕すら生まれた地下の冒険。
そして遂に、俺達は目的地となる地下通路の深部へと辿り着いた。
そこで、見るからに重厚そうな金属製の扉を発見した。
開けようとしたが、当然のように開かない。
「コイツは見るからに、開けるのに鍵が必要だな。まさか、この広い地下のどこかにその鍵が隠されてるのか? 面倒くさ……まあ冒険なんだ。このくらい当たり前か」
「何をかったるいことを言っておるんじゃ? 鍵はわしが用意するから、さっさとそこをどくのじゃ」
「……」
そういや、コイツは謎のクラフト能力持ちだったな。
冒険をしてる感じをそこはかとなく出そうとしたのに、台無しにされてしまった。
シロミが扉の前に立つ。
シロミが操る黒い金属片が、次第に鍵の形へと変わっていく。それを鍵穴にイン。
ガチャンと音がして、扉の鍵は開けられた。
『……ねぇ、そのモチメットは何者なの?』
「シロミじゃ、デカパイ女!」
「俺の連れである魔物だよ。なんか変なクラフト能力を持ってる」
『そんな能力を持ってるモチメットなんて、聞いたことがないわ』
「そんなことを言われても……そういうスキルをたまたま持ってるモチメットってだけじゃないのか?」
「マコト! シロミ様と呼べ!」
「嫌だよ! なんで俺だけ様付けを強要されるんだ!」
デカパイとシロミが向かい合い、何やら対決シーンのような雰囲気を作り出している。順調に進んでるのになんでギスギスするかな?
しかし、そんなことはどうでもいい、俺は扉を開いた。
果たして、その先にあった物は――
「ま……マジ……かよ」
扉の先には、金銀財宝の山があった。
──これは勝ったな。
最初こそ人攫いにボコボコにされて攫われ、どこかに売られそうになった。
そこで変なモチと出会ったり、貴族の変な女にドロップキックをかまされたり、食欲の塊みたいな鼠に出会ったりして、色々と大変だったけど……そんな日々ともお別れだ。
こんだけの財宝があれば、何の伝手もない異世界でも面白おかしく暮らせるだろう。
俺の異世界物語は今、感動のクライマックスを迎えようとしていた。
『あらあら、これはまた……まあまあの財宝の山ってところかしら?』
「はい。アデルハイトの地下に、これだけの財宝があるとは驚きです。領主の先祖が隠していたのでしょうか?」
「ほ~、中々の魔力を宿した宝もあるようじゃの」
「食い物は……ないでちゅね。なら知らんちゅ」
コイツら……人の異世界物語の完結に際して、しょうもないコメントを垂れ流してんじゃないよ。
「これだけの財宝だ。リチアが言ってた『オデッセアの七宝』も、ここに全部あるんじゃないか?」
それで依頼は完了。
俺達は唸るほどの財宝を手に入れた。
これからはこの果てしなく広い異世界を順風満帆に旅行するのも悪くないかもな。
『何を言ってるのよ。この程度の財宝の中にある訳――』
――ガラガラ
「……ん?」
何もしてないのに、奥の財宝の山が少し崩れたような。
気のせいか?
うん、気のせいだろ。気のせいに決まってる。
「……」
宝の地図を見たときから思っていた。
この星マークの所、広い円形の空間になってるからさ。なんかボス部屋みたいだな~って。
「……なに~? 折角ゆっくり寝てたのにさ~~~」
まるで地響きみたいな音と振動。
財宝の山が崩れ、その下から物凄い大きさの魔物が現れた!
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