第7話 『ギルドパニック』
翌日、俺とシロミは冒険者ギルドに向かった。
やはり冒険者ってどんな依頼を受けるものなのかを見てみたいからな。
「本当におぬしは変わっとるの。分かっとると思うが、その妙なスキルを使えば働かなくとも大金持ちに簡単になれるんじゃぞ?」
「そりゃまあな、金のあてがついたのとは別に、俺は冒険者の仕事にも興味があるんだ」
「冒険者なんぞ街の何でも屋か魔物退治の傭兵じゃろ」
「確かにそんなイメージだな、あとはダンジョンとかあれば探索者みたいな仕事もしてそうだな」
シロミはともかく、俺はそんな話をしながらそれなりの期待に胸を膨らませて冒険者ギルドへと入った。
すると何やら騒ぎが起きていた。
「そ、その依頼は本当にあのインペリアルトパーズ家からの物なのか!?」
「はい、間違いありません!」
「しかし『オデッセアの七宝』の探索なんて……そもそもそのカズミとは誰なんだ?」
「確か昨日、登録した中年の冒険者の方がそんな変わった名前をしていて……」
「とにかく、その冒険者が来たら必ず話をするんだ!」
「おいおい、朝から一体何を騒いでんだギルドの連中はよ?」
「なんか昨日、有力な貴族がかなりの高難易度の依頼をギルドに持ってきたらしいぜ?」
「何それ、ドラゴンでも狩ってこいとか?」
「何でもオデッセアの……」
「そりゃ大型ドラゴンを10体まとめて倒すより無理な依頼だな~」
お~なんか聞いた事のある単語がチラホラと聞こえる気がするが、多分気のせいなんじゃないかな?
俺は騒ぐギルド職員達とそれを遠巻きに見てる冒険者達を無視して昨日いた受付嬢が立っているカウンターに向かった。
「すみません、何か手軽に出来そうな依頼ありませ─」
「あ、あああーーーーーーーーーーっ!?」
受付嬢が悲鳴じみた大声を上げる、やめてくれよ。
やっぱ帰ればよかったかな?
すると騒いでたギルド職員達もこちらに気付いた。
「カ、カズミさん! 貴方がカズミさんで間違いないですよねっ!?」
「は、はい……そうですが?」
「み、みみ見つけました! 見つけましたよ皆さん!」
その後は集まったギルド職員に連れられて冒険者やギルド職員が秘密の話をする時に使うという個室へと連れて行かれた。
その個室の椅子に静かに座っているのは昨日、あのリチアの後ろに控えていた銀髪ロングヘアで青色の瞳を持っているメイドだった。
「お待ちしておりました、私はラシエ・アルヒス、リチア様のメイドをしております、カズミ様、昨日以来でございますね」
「ど、どうも……」
ギルド職員達は既に個室から姿を消してしまった。一体どんだけ彼女の背後にいる存在にビビってんだよ。
個室にいるのは俺とシロミとラシエである。
ここに来るまでに散々言われたのは頼むから貴族様を怒らせるような真似はしてくれるな、とのこと。
どうやら貴族様とは相当な力を持った存在らしい。
まあ貴族だしな、それくらいの権力は持ってないと存在する意味なさそうだし。
「それでラシエさん、昨日の今日で一体何をしでかしたんですか?」
「ラシエで結構でございます。私……と言うよりはリチア様がこの冒険者ギルドに一つの依頼を出されました」
「そうですか」
「それは『オデッセアの七宝』の探索と発見、それを成した者には望むだけの褒美を、とおっしゃっていました」
望むだけの褒美ね~、なんか胡散臭くない?
俺なら多分受けない依頼だな、だって俺のスキルなら金に困る事は無さそうだし。
「ちなみにこの依頼はカズミ様への指名依頼となっています」
「…………はい?」
なんかとんでもない話になってきたぞ。
話が変わってきたのでラシエに詳しく話を聞いた。
あのリチアって貴族令嬢様はきっと悪役令嬢だったんだな、と言うか悪役じゃなくて悪の貴族令嬢だ。
なんか金さえあれば冒険者ギルドに依頼を出す時に受ける冒険者を指名する事が可能らしい。
そしてどういう訳かあの悪の貴族令嬢様は、そんな伝説の宝を探せって言う依頼を俺みたいな冒険者になったばかりの三十路のおっさんを指名してきたんだ。
いや多分、昨日余計な事を俺がベラベラ言ったのが原因なんだろうけどさ。もう少し行動力を抑えてくれよリチアさんよ、ついてけないって。
「あの~それって断る事って……」
「リチア様は貴方を面白そうだとおっしゃっていました、その期待を裏切るような真似はなさらない方がよろしいかと。お嬢様は貴族でありますので何を言い出すのか私には想像も出来ませんから」
「さいですか……」
つまり断る選択肢はないって訳ね。
「何を悩んでるんじゃ?」
「シロミ」
「おぬしは冒険者じゃろう? なら世界を股にかける冒険の一つや二つちょちょいとこなすのじゃ」
んな無茶な、スキルなんて力はあっても俺は普通のおっさんだ。戦闘力なんて人攫いのゴミ共にボコられるレベルだぞ。
流石に伝説の宝を探す難易度が人攫いをアフロにするよりも低いとは思えないし。
……けどそんな事を言うって事はシロミも案外やる気があるって事なのか?
コイツは何かと謎が多いモチメットだ。意外とものを知っているし、もしかしてその宝について何か知ってるのか?
……なら。
「分かりました、その『オデッセアの七宝』の探索依頼を受けます」
「それは良かったです、ではこれを」
そう言って彼女が懐から取り出したのは橙色の美しい宝石が嵌め込まれた指輪だった。
それを渡される、するとその指輪の宝石が光った。
『こんにちは、元気にしていたかしら?』
「おっ!?」
驚き過ぎて変な声が出てしまった。
なんと指輪の中から、ちっさくデフォルメされたリチアが出て来たのだ。
『これは【分け身の指輪】よ、術者の思念から分身を生み出して、こうして離れた場所の様子を見たりそこにいる貴方達と話したりも出来るの』
「魔法の指輪って事か? なんでそんなのを俺に…」
『私も色々忙しいからよ、けどわざわざ指名依頼まで出して貴方達の冒険を見学……いえ、応援したい気持ちはしっかりあるからこそ、こういった分身でサポートをしてあげようと思ったって訳』
今、見学って言ったな。コイツ絶対に面白半分で俺を巻き込んでんだろ。
元は俺のテキトーな発言が原因とは言え、本当に変なのに目を付けられちゃったなぁ……。
「むむ、ちっこくなったくせにデカパイなのはそのままじゃの」
「だからデカパイはやめなさい。ラシエ、そのモチメットを剣で突いてあげなさい」
「わしはシロミじゃ!」
「リチア様、流石にそれは……」
女子三人が姦しい(?)会話をしているな。
はぁ、まあ仕方ない。
日本でも生きてりゃ学生でも社会人でも変なのと知り合う機会なんて、お呼びじゃないのに結構あるからな。
これも似たようなもんだろ、慣れてる。
こう言う時はアレだ、どうとでもなれの精神だ。
犯罪の片棒担ぐとかじゃないなら流れに乗るのもアリだろ。いったれ俺。
「……まあそちらのメイドのラシエにも言ったけど、その指名依頼を引き受ける事にした」
『賢明な判断ね、それでこのアデルハイトに来た貴方達はどこまで『オデッセアの七宝』に近づいているのかしら? 世界を旅して来たと言うのなら、まさか手掛かりが何もないなんて言わないわよね?』
「………」
そんなんね~よ。だって昨日その『オデッセアの七宝』とやらの存在を知ったんだからな。
けど、手掛かりとしての可能性が全くのゼロと言う訳でもないのも困った物で……
俺は旅行カバンから例の地図を取り出した。
地図をテーブルの上に広げる。
「これがその手掛かりだ。『オデッセアの七宝』の在処が記されてる地図だ」
地図をシロミ、ちっこいリチア、ラシエが見る。
三人は微妙な表情をしている。貴族相手にこんな胡散臭い代物を出すのか、とでも思ってそうだ。
『そんな物が実在するというの?』
「この世で最も偽物が出回っている地図の一つかと思います」
「昨日見てた地図か……さすがにわしもそれだけで『オデッセアの七宝』に辿り着くと言うのは無理があると思うぞ?」
言いたい事は分かる、けどマジでこれくらいしか手掛かりなんてないんだから仕方ないだろ。
「うっせ、この地図はただの地図じゃないの、魔法の地図なの。まあこれがこのアデルハイトの何処を指してるのかまでは分からないんだけどな」
地図は以前とは違い、かなり書き込まれている。そしてその地図の一カ所に星のマークが記されているので、そこに向かえば何かあるのだろう。
しかしそれはアデルハイトの地図ではなく明らかに別の場所の地図だった。
「カズミ様、もしやリチア様を騙そうと……」
『落ち着きなさい。この地図の場所は……そうね、恐らくだけれど』
「何か分かるのか?」
『ええ、少し調べるから待ってなさい』
そう言うと彼女の分身は消えた。
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