第6話 『リチア・インペリなんとか』
「あ~、うん分かった。とりあえず話をしよう……自己紹介とかする?」
「私の名はリチア、リチア・インペリアルトパーズと言う者よ」
なるほど、リチア……インペリなんとかさんね。
多分苗字の部分だろうが、無駄に長えよ。
「俺は和盈真、カズミでもマコトでも好きに呼んでくれ」
「わしはシロミじゃ! シロミと呼ぶのじゃデカパイ女!」
「デカパイ女はやめて、それじゃあ色々と話をしたいのだけど……」
「ここでしてもいいのか?」
俺達は今、数階建ての建物の間にいる。
理由は単純にシロミがはやく寄越せ~と催促してきたからだ、少しは人目につきにくそうな場所を選んで移動したつもりだったが、リチアには普通にスキルを使うところを見られていたらしく無駄だったみたいだ。
「そうね、私としては落ち着いて話が出来る方がいいわ……仕方ないから私の別荘まで来てもらいたいのだけど」
「まあいいけど、そこまでどれくらい距離があるんだ?」
街を歩きながら旅行者気分で道行く人にも何度か話しかけた。
そして聞いた話の中に、このアデルハイトには一般市民や俺みたいな外からの旅人がよく出入りする区画と貴族とか成功した商人くらいしか出入りしない区画があるらしい。
みすぼらしい人間がその貴族達が住む区画をうろつけば巡回してる騎士とかに睨まれる事もあるとか。
そして、その区画ってそこそこ遠いらしい。
俺達はもうお腹いっぱいなのだ、もうそんなに歩きたくないんだ。
後は近場で宿を見つけてゴロゴロするつもりだったんだよ。
そんな俺の本音を余所にリチアは笑みを浮かべて話を続けた。
「そこは心配要らないわ、私の別荘までは一瞬だから」
「一瞬? それは流石に無理なんじゃ……」
「出来るわよ」
そう言うとリチアは右手を見せた、人差し指には赤色、中指には青色の宝石が嵌め込まれた指輪がしてある。
そのうちの青色の宝石が嵌め込まれた指輪が光り出した。
そして次の瞬間には本当に俺達は何処ぞにある立派な屋敷の庭に立っていた。
マジかよ転移魔法じゃん、すっげーよファンタジー。
俺もあの指輪が欲しすぎるぞ。
まあ絶対にくれないだろうけどな、諦めて周りを見る。
庭園と噴水、それに休憩するための……あの屋根はあるが壁がない、公園とかで見かける休憩所に似た建物に似た、テーブルと椅子がある白い円形の建物があった。
「ガゼボがどうかしたのかしら?」
「いや、別に……」
あの休憩所ってガゼボって言うのか、知らんかった。
そして視線を屋敷に向ける、別荘らしいがめっちゃ立派な建物やないかい。
え、やっぱりこの子は貴族令嬢様とかなの?
異世界ファンタジーで貴族を相手にするとかさ、この世界に来て二日目の日本人にはシンドイって。
屋敷の中に入り、客間らしき広い部屋に案内された。
その後は俺のスキル『魔物のエサ』に関する能力を根掘り葉掘り聞かれたので全て答えた。
普通なら異世界への転生だか転移の特典的な感じでゲットした能力を他人にホイホイ明かすわけがない。
……けどこのリチアはマジで貴族らしく、この屋敷にも美人なメイドが何人もいたり、立派なヒゲを生やしたナイスミドルな執事もいた。
それはいいんだが、どういう訳か全員が腰に剣を装備していたりする。
多分お嬢様に近づく不埒者を処分出来るだけの戦闘力はあるんだろうさ。
もうそんな連中を見た後だと変に抵抗する気にもなれなかった。
『魔物ステッカー』の方については隠してある、俺に出来る抵抗はそのくらいだ。
ちなみに客間には俺とシロミ、リチア、そして彼女の背後には長い銀髪と青色の瞳の美人メイドが立っている。
腰にはレイピアを装備してるよ、きっと強いんだろうな。
『魔物のエサ』というスキルについて話してる時はリチアもその銀髪メイドも「な~に言ってんのコイツ?」的な目で見てきた、リチアさんよ、お前は俺のスキルが発動するところを見てたんだよな?
そう思ったが、転移魔法とか使える連中だ、きっと俺がどっか別の場所からあの魔力結晶を出しているとか思っていたのかもな。
その場で生成してますって実演も兼ねて目の前でスキルを発動したら二人とも目を丸くしていた。
これが異世界物の定番、俺っ何かやっちゃいました~?
なのだろうか。我ながら貴族なんぞに金になるらしい魔力結晶を生成するスキルとか見せて大丈夫なのか、不安がない訳じゃない。
けど下手に嘘つくと何を言い出すか分からんからさ貴族とか。
あ~俺も転移魔法が欲しい。
いざとなれば全てを捨ててさよなら、誰も自分の事を知らない新天地でやり直すとか……いや、もう似たような状況じゃん。
「流石にリセットボタンをポチるには速すぎるよな、リセットボタンないけど」
「何を一人でボソボソ言ってるの?」
「ああ、いや別に……」
「ふう、まあいいわ。まさかとは思ったけどそんな常識外れのスキルを持ってるなんて、カズミ……貴方は一体何者なのかしら?」
単なる風来坊の根無し草ですが何か?
日本で死んだらしく、顔も知らない自称精霊さんによってこの異世界に転生だか転移してきたんですよ~、と説明したらこのお嬢様は一体どんな顔をするんだ。
まあいいか、テキトー吹いとけ。
「俺は世界中を旅してます、いつも旅の目的はコロコロ変わりますが……今はとある伝説のお宝を狙ってましてね」
「……………」
俺の吹いたホラに対してリチアが何故か真面目な表情をしてるんですけど。
「貴方まさか、『オデッセアの七宝』を求めてこのアデルハイトに来たの!?」
え~『オデッセアの七宝』?
何それ、全く知らん話が出て来たぞ。
「『オデッセアの七宝』……かつて世界中を冒険した冒険王オデッセアが手にした伝えられし、太古の大魔法を宿した七つの宝玉が嵌め込まれたとされる七つの至宝じゃな、一つで国を興す事も滅ぼす事も出来るなどとも聞いたが果たしてそんな物が実在するのかの~?」
そして何やら物知り顔のシロミがペラペラと喋ってる。
モチモチのくせに博識キャラを目指そうと言うのかキサマ、俺も知識チートとかで博識なキャラになりたい。無理だけど。
「……ふ、ふふ」
「ん? どうかしたかリチア……さん?」
「リチアで構わないわ。それにしてもまさか今日……私の目の前に現れたのが『本物』のお馬鹿か、愚か者か。それとも……」
なんか一人でブツブツ言ってる、こわ。
「先ずはこれを」
そう言うと彼女は指輪をかざした。すると目の前のテーブルの上に金貨がジャラジャラと現れる。
これも転移魔法とかで出したのか? それともアイテムボックス的な魔法? 本当にファンタジーってデタラメだな。
「まずこのオルブルー結晶石を買わせてもらうわ」
「ど、どうぞ」
「……ラシエ、このオルブルー結晶石をカルボネの所まで持っていって頂戴」
「分かりました、お嬢様」
カルボネって誰だよ。
訝しむ俺にシロミが話しかけてきた。
「恐らくは鑑定スキルを持つ人間じゃろうよ、おぬしのスキルで生み出した魔力結晶が見た目だけの偽物か、本物なのかをプロに確認したいのじゃろうな」
「ふふ、その通りよ」
「あ~なるほど」
「それとカズミ、貴方は冒険者なのよね? もうこの街の冒険者ギルドには登録してるのかしら?」
「ええそうですよ、なんか依頼でもあればよろしくお願いします」
意味があるか分からんけど、とりあえず宣伝しとこ。
リチアは意味深な笑顔をしているだけだった。
あれ? なんか俺判断間違ったりしたか?
いやいやそんなまさか。
その後は特にしつこく俺の事やシロミの事を聞かれる事もなく終わった。
面白い物を見せてくれたから、今日はこの屋敷に泊まっていかないかと聞かれたが……怖いので普通に断った。
この別荘はアデルハイトの中にあったらしく冒険者ギルドまでの道を別荘のメイドさんに聞いて徒歩で戻ることにした、冒険者ギルドがある事を確認してから改めて近場の宿を探して泊まる事にした。
宿の個室は少し狭い、ベッドが端に置かれただけの簡素な部屋だ。
時間は既に夜、異世界に来て二日目、俺とシロミはようやく一息つく。
「あ~疲れた、貴族令嬢の相手って予想以上に気を遣うもんだな」
「まあ余計な問題を起こす気がないのなら無難じゃったぞ、それにしてもおぬし……まさか『オデッセアの七宝』なんぞを探してここまで来たのか?」
「まさか~あんなのテキトーだよ、魔法とかある世界だし、伝説のお宝の一つや二つそこら辺に話だけでも転がってそうだったからな」
「全く、そんなことじゃろうと思ったわ」
シロミと駄弁りながらのんびり過ごす、寝るまではまだ時間もあるし旅行カバンを開いて中身を整理するか。
すると人攫い共のせいで結局活躍しなかった、あの地図を見つけた。
「お、この地図って結局何処の街を目的地にしてたん……ん?」
気のせいか? 前に見た時と地図の内容が違う気がするぞ。
て言うか、地図に名前と言うか、謎のメッセージ的なのが記されている。
オデッセアの宝の地図。
「………」
地図を閉じた、目頭を揉んで再度確認する。
そこには変わらずオデッセアの宝の地図と書かれていた。
え~、現場からは以上です。
「……………もう、寝るか」
「どうしたんじゃ?」
面倒くさそうな気配がしだしたので俺は見なかった事にして寝た。
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