6. 3人の記憶
建物から出ると外の景色も様変わりしていた。
この陸上競技場の周囲は、柵と樹木によって囲まれ、
この区画が近代建築によって作られたのが見て取れる様になっていた。
「あれ?」
「急に変わった?」
エンジュとシュスランは不思議そうにキョロキョロと見回す。
一転して見通しが悪くなっていたが、
3人が進んでみた感じ、道自体は一本道になっているようだ。
建物や柵の間、あるいは各施設の区切りとして作られたらしき地面の隆起の間を縫って作られており、
再び校舎に戻ることは問題なさそうだ。
かといって、いきなり探索に飛び出していくのは流石に無謀だ。
シュスランは、一度アルルーナに一度相談することを提案する。
「アルルーナ…さん?」
「そうだよ! ホオズキさんがこっちにいるって教えてくれた人なんだ。」とエンジュは答える。
「そうなんだ。この場所の事に詳しいのかしら。」
「えっと…、そのエンジュが詳しい話聞く前に走り出してしまって…」
シュスランは少し申し訳なさそうにそう言う。
場所を教えてくれたのなら、アルルーナに一度報告するのは自然な流れだろう。
3人は園芸室に向かうことにした。
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「ふぅーん。あなたが、ね。」
アルルーナは、さほど興味もない様子でホオズキを見ると、なまめかしい脚を組みなおした。
丁度ティータイムを取っていたところだったらしく、
3人はそこに相席していた。
「えっと……」
ホオズキは居心地悪そうに座りなおす。
「あの、助けてくださってありがとうございます。」
「私は何もしてないわ」
アルルーナは肩をすくめる。
「私たち、記憶がなくて…。一体どうしたらいいのか…。」
「…記憶がない。あなたも。」
アルルーナはその事象をしっかりと確認すると、紅茶を一口口にする。
「何故自分の記憶がないのか、分かるかしら?」
「何故って…。そんなことわからないわ。
私は…私たちは、気づいたらここにいて…。」
アルルーナは何を言うべきか少し悩んだようだった。
「なら、そのように準備されているのではなくて?」
「え!? 準備…されている?」
「そう。」
ホオズキは予想外の答えにとても驚いた。
準備されているとは、一体どういうことなのか。
複数の疑問が湧いてきて混乱するが、とっさに口から出たのはこれだった。
「…あなたは……一体何を知っているの?」
そしてその答えには、あまりにもシンプルな答えが返ってくる。
「何も知らないわ。」
「何も知らないって……っ!」
そんなわけはない!
ホオズキは口をついて出そうな言葉を飲み込んで冷静に会話を続ける。
記憶を失い、本当に何も知らないホオズキにとっては、頭にくる言い方だったに違いなかった。
「何故…、準備されていると思ったのですか?」
「状況がそう言ってるでしょ?
…と言ってもあなたには分かりようがないかしらね。」
「……。何も知らないって訳ではなさそうですね。」
ホオズキはやや浮きかかった腰を落ち着けて、深くため息をついた。
このアルルーナという人物は、少々癖のある人物のようだ。
ホオズキは何を聞けばいいのか思案していたが、
アルルーナの方から口を開いてくれた。
「何も知らない…って意味。多分それも理解できないでしょうね。
私はこれの部外者なの。」
「これ?」
「私は何も知らされてないし、ただここにいるだけ。
もし、何者って聞かれたとしても、私は私であって、それ以上でもそれ以下でもないわ。」
「……」
何か答えが哲学じみてきたが、ホオズキは黙って聞く。
言葉の中に気になる単語があった。
彼女は「部外者」だと。
「ここで何かが起こっていて、あなたは部外者だと?」
「そう。」
改めて確認する。
「私たちが”準備されていた”ってことは、私たちが当事者ってことなの?」
「そう。私の情報だとそれが一番理にかなってると思うわ。」
「何故、私たちが当事者だと?
それは記憶を失っているって理由だけだと、少し理由が弱い気がするわ。」
「もちろん、それだけではないわよ。」
アルルーナは続ける。
「この世界は少し前まで酷く希薄な状態だった。
でも今はあの通り、しっかりした形を持ってる。何故だか分かる?」
「それが、私たちが原因だと?」
「そういう事よ。
この二人、そしてあなたが目覚めたことで、急激に形になり始めているわ。
特にあなた。」
そう言ってティーテーブルに肘をつくと、手首だけでホオズキを指さす。
「あなたが動き出してからは、随分と形がしっかりしたのよ。
…あなたは寝ていただろうから分からないでしょうけど。」
「…私のせいで…何か、都合の悪い事でもありましたか…?」
ホオズキは言葉の端々から若干の悪意を感じて悪びれた様子で言う。
それを見たアルルーナは、言い方が悪かったかと内心反省する。明後日の方向を見ながら言う。
「……。
……少しだけ。居心地が悪くなっただけ。」
少し間があっただろうか。
「そうですぜ、姉御!
訳の分からん連中がのさばっちまって、このままじゃ顔が潰れるってもんですよ!」
どこから出てきたのか、トサカがついているヒヨコどもが出てくるが、
「興味ないわ。あんたらで頑張りなさい。」
「そ、そんなぁ…。」
ホオズキは初めて見るので、物珍しく見ている。
ヒヨコどもは意気消沈したようだが、全く気にせずアルルーナは続ける。
「この世界はあなた方を中心で動いている。
あなたが目覚めたタイミングで、何故か好戦的な連中も増えているみたいよ。
そいつらも困ってるみたいね。」
そういって親指でヒヨコたちを指さす。
アルルーナとヒヨコたちの関係性がイマイチ見えなかったが、
勝手に慕っている感じなのだろうか?
ホオズキは空気を読んで謝っておく。
「なんだかごめんなさいね。」
「チクショーめー! よそ者の情けなんてウケねぇよ! うわーん!」
そう言って泣きながらどこかへ行ってしまう。
ホオズキは苦笑ししてそれを見ていたが、なんだか悪い奴らではないらしい。
「いいのよ、ほっとけば。」
アルルーナはまるで興味がないといった様子だ。
「あなた方がなぜ特別なのかは分からないわ。
ただ、状況が整い過ぎている…。
そのうち現れるんじゃないかしら。黒い翼をもつ者、だったかしら?」
それに、と続ける。
「あいつらの報告だと、あなた方と同じような者が、他にいるみたいよ?」
「私たちと同じ…。」
「敵か味方か、まあどちらにせよ、何か関係があるんでしょうね。」
「そうですか…。教えてくださってありがとうございます。」
ホオズキは改めて礼を言う。
「…ま、まあ、私はここに間借りしているだけだから。」
アルルーナは照れ隠しなのか、素知らぬ顔でそういった。
一方、エンジュとシュスランは、同席はしていたが大人しく紅茶を飲んでいた。
興味がない、というか会話の内容が良く分かっていない様子だ。
エンジュに至っては完全に目が点になっている。
「エンジュちゃんには、ちょっと難しかったかしら。」
「うん! 全然わかりません!」
ホオズキは声をかけるが、いつもの調子だ。
ともあれ、次にやるべきことは少しは見えただろうか。
黒い翼を持つものを探す事。
自分たちと同じような人物を探す事。
そして、もし世界の形がしっかり固まってきたのであれば、今までより探索の目途はつきやすくなるだろう。
アルルーナの推測が正しいなら、おそらく自分たちを巻き込む何かが始まっていくんだろう。
4人はひと時のティータイムを楽しんだ。
序章を丁寧に書き過ぎ感…
早く後半を書きたい…




