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Angels, or Not__  作者: 鬼王丸
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3/10

3. シュスラン

当面は隔日投稿で頑張ろうと思います…orz

シュスランはエンジュほどの身体能力はない。

さっきほどの前哨戦のような機敏な動きなどとてもできそうにないのを、シュスランは自覚している。

遠巻きに、ただ見ているしかなかった。


しかしエンジュには容赦なくトサカヒヨコ改めグラサンヒヨコが三位一体の連携攻撃で遅い掛かってくる。

相手の攻撃はより速度を増したようだが、エンジュはより早い身のこなしでそれを捌く。

グラサンヒヨコはボヨンボヨンと再び跳ね返って、再び切り替えしてくる。


「まだまだ! 余裕だよ!」


しかし、何度拳を叩きつけても、まるで糠に釘。

むしろ慣れてきた相手は、反動を利用してそのまま攻撃に転じてくる始末。


「くっ!」


予想外の行動に、エンジュは一瞬捌くのが遅れ、


「「「 隙あり!! 」」」


バラバラの場所から発せられた声がハモルと、

弾丸のような速度で、腹、背中、首と、完全に同じタイミングでエンジュに襲い掛かる!


「もう! なんだよぉ!」


結構な速度で押し潰されたはずだが、エンジュはまるで効いていない。

並の人間ならば骨の数本は折れていそうな衝撃だった。


いや、並の人間、という基準で言えば、もとより一つ一つの挙動の速度が常人のそれではないが。


「この娘」

「われらの超重力プレスを」

「ものともしないのか」


スタスタっと地面降り立ちながら口々にしゃべる。

少なからずこのグラサンヒヨコたちは、自分たちの攻撃が利かないことに驚いているようだ。


「??」


エンジュは、良く分かっていない。


「われらの魔動力を」

「魔力を込めた」

「重力波だぞ」


「エンジュは、全然平気だよ…?」


エンジュは天然な部分がある。

事実、まるで無傷であるが、それが相手を挑発してしまっていることに気づいていない。


「では」

「本気を出すしか」

「無いようだな!」


シュスランは後ろからたまらず声を上げる。


「エンジュ! 気を付けて!」


今度は雰囲気が違う!

動き出す瞬間、波動のような衝撃が広がり、

また一段と、弾丸のように加速したグラサンヒヨコ達が飛び掛かってくる!


エンジュは同じように正面から右手の拳で受け止める。

が、今までとは打って変ってかなり重い!

それどころか__


「負け…ないっ!」


エンジュは片手だけでは押し負けそうなところを、左手も続けて叩きつけて、どうにかはじき返す!

しかし、全身を使って無理やり押し返したために、次に左来る相手に対応できない!


ズドンという、見た目からは想像できない鈍い音とともに、

エンジュは、肩に強烈な衝撃を受けて、身をよじらせる。


「くぅ…!」


エンジュは衝撃に視界を揺らされながらも、

とっさに地面を蹴って、無理やり体制を横倒しにして、

逆から飛んでくる相手は寸でのところで回避する。

1歩、2歩と後ろに飛びのき、素早く体制を直すが、すぐに第2波は飛んでくる。


今度は真正面から受けずに、側面を殴打するように対応するが、

グラサンヒヨコの言う超重力なんだろう、横から触れているのにも関わらず腕が大きく引っ張られる。


エンジュはなるべく打撃も控えて回避するようにする。

が…。


(これじゃ攻撃もできないよ…。どうしよう…。)


相手の攻撃もそれほど効いていないが、エンジュの攻撃も効いていない。


それが数回も繰り返されただろうか。

シュスランは後ろで遠巻きにそれを見ていた。


シュスランは自問する。


(あたしは何ができるの?)


そうしているうちにも敵はエンジュに次々と襲い掛かる。


(あたしは…あたしは…)


エンジュのように体術が得意なわけではない。

むしろかなり苦手な方だ。


シュスランは今まで何をやってきたか思い出そうとしていたが、何も思い出せない。

自分が記憶喪失なことに今更気づいた。


(あたし…どうすれば…)


シュスランは、何もできないことに気づいて、ただ祈るしかなかった。


(お願い…。エンジュ…!)


その祈り。


その答えは自分の中に響いた。


(神の御名において…)


これは声なのか。思念なのか。


自分の声のような、あるいは他人のような声のような、シュスランにはその判断ができない。

シュスランは何故か焦点がぶれて視界が定まらなくなっていた。


もう一度、同じ言葉が響いた。


(神の御名において…)


「か…神の…御名に…おいて…」


その言葉に呼応して、シュスランは声に出していた。

その刹那、シュスランの瞳に移る光は、普段のそれとは違っていた。


まるで何かに乗り移られたように、ゆらり、と前に踏み出すと、右手を前方にかざす。


「神の御名において」


今度はしっかりと声に出ていた。だが、そこに感情は籠っていない。

かざされた右手は、戦っているエンジュの背中を捉えている。


神の御名において__


その言葉の続きが聞こえる。


滅せよ__


「めっ………せ……」


神の力か、魔道の力か、シュスランの右手に膨大な熱量が収束する!


「エンジュっ!! 避けて!!!!」


その言葉とともに膨大な光と轟音が放たれ、エンジュもろともグラサンヒヨコ達を飲み込んだ!

あまりの膨大な熱量であたりは土煙か水蒸気か、あたりはで包まれる。


「エ、エンジュ…!?」


シュスランは自分やってしまったことに半ば狼狽して、

おぼつか無い足取りでエンジュが元居た場所に駆け寄る。


「エンジュ…返事をして!」


返事は…。


「やったねぇ! シュスラン!」


意外にすぐに返ってきた。

それどころか、煙の中でも真っすぐに抱き着いてきた。


「わぁ! びっくりした!

 ちょっと大丈夫なの? 当たらなかった?」

「うん、当たらなかったよ! シュスランすごぉい!」


そういってエンジュは、シュスランに自分の頬をぐりぐりと押し付ける。


「よく…当たらなかったわね…、ど真ん中にいたと思ったのに。」

「?」


エンジュは抱き着いた状態から顔を放すと、シュスランを不思議そうに眺めて首をかしげる。


「だって、シュスランが避けてって言ったでしょ?」

「避けてって言ったって…」


シュスランは怪訝を通り越して、あきれて次に言おうとした言葉は口に出てこなかった。


いやむしろ…。言えなかった。

あのタイミングで避けられるとは思わなかった__とは、自分で言ってしまうのは、酷く申し訳なかった。


「あいつらは?」


シュスランはまだ煙が収まる前に周囲を警戒する。


「んー、多分、当たったと思う」


エンジュは当たる瞬間を見たのだという。


「でも、その辺にまだ倒れてるかも…。」


シュスランはそういうと、煙を吸い込まないように口元を隠して周囲を見回す。

周囲にまだいる可能性がある。

そう思ったが、煙が収まるころにはその考えも失せていた。


「シュスラン見て! すっごい穴が開いてるよ!」


シュスランの放った光条は、

周囲の壁をぶち抜いてあたりを消滅させていた。


消滅といっても、熱線で溶けた、というより、何か衝撃で崩壊したような痕跡だ。

恐らくこれが直撃したのであれば、目に見えるような場所にはいなさそうだ。


シュスランは自分のやった光景に驚き、呆れた。

エンジュはいつもの調子ではしゃぎだす。


「すっごーーい。この星空、ずっと下まで見えるよー。」


エンジュは壊れた壁から身を乗り出して外をのぞき込む。

シュスランもそれに続いて外の景色を見てみる。


確かに、外の景色、星空は足元にまで広がっている。

つまり地面が見当たらないということだ。


この建物は、星空の上に浮いている?

記憶を失っているとはいえ、これに違和感を感じないほどシュスランは無頓着ではなかった。

ここは、何らかの異世界である、と。


そして自分の右手を改めて見直す。

この破壊痕を残した右手を。


何の変哲もない。

いや、何かあったとして違和感として気づけるのだろうか? 記憶喪失の自分が。


__わかるはずもないのかもしれない。

シュスランは崩れた壁際から身を放す。


(あれは一体何の力…?)


自分の右手をぐっと握りしめた。


「神の御名…」


一人でつぶやく。


「シュスラン! さっきのやつらが来る前に逃げようよぉ~」

「…うん、そうだね…」


シュスランは、先へ先へと急ごうとしているエンジュを追いかけて、

足早にこの場から離れたのだった。


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