第18話 俺と泥棒ウサギと再戦
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あの白い、ウサギにしては大きい体。
凶悪に光っている赤い目。
俺はすぐに、あの時、俺を襲ったあのウサギだと分かった。
襲いかかる手口も似ている。
前回は、背後からの攻撃。今回は、茂みの中からの攻撃。どちらも、死角を上手くついた完全な奇襲攻撃である。
俺は、改めてこの泥棒ウサギを観察する。
前に見た時ほど、一回り程、大きくなったこいつの体には、俺と戦った時には無かった傷が無数についている。
どうやら、こいつはあの時よりも、さらにパワーアップしているらしい。
ただ、パワーアップしているのは、お前だけではない。俺だってあの時と比べると断然強くなっているのだ。あの時の借りは返させてもらう。
俺とウサギの睨み合いは、俺が先に仕掛けることで、沈黙を破った。
――――技 《早投げ》
俺は、手に持っていた剣を《早投げ》最速バージョンで投げる。
こいつは、戦闘ウサギの中でも別格だ。それは、俺が一番良く知っている。相手を見て、最適な位置取り、戦い方が分かっている。
それは、こいつの観察眼と周到さ、そして、知能の高さがそれを可能にしているのだろう。
だから、こいつ相手に、後手後手に回るとこいつのペースになってしまう。
こいつは、きっと俺を襲ってくる上で、俺が剣をどのように使っているかも確認しているはずだ。そうでなくても、持ち前の観察眼で、この剣をどのように使ってくるかぐらいは予想しているはず。
だから、俺はこいつが、このウサギが思いつかなさそうな事を真っ先にやった。
自らの持っている剣を手放すことである。
クルクルと回りながら、俺の投げた剣は、ウサギへと向かって行く。
俺の予想通り、ウサギは、俺が剣を投げる事を予想できなかったのか。一瞬、遅れて迫ってくる剣を回避した、気がした。
俺はというと、剣を投げたと同時に走りだしていた。
ウサギにではない。自らの投げた剣にだ。
それは、投げた剣をすぐさま回収するためである。
地面にサクッと音を立てて、剣が突き刺さる。
だが、走り出した俺を見て、ウサギは瞬時に、俺の意図に気付いたのか、すぐに体勢を整える。
――――技 《奪取タックル》
だが、俺はこの攻撃を予想していた。こいつの戦闘能力をリスペクトしているからこそ、俺はここでこいつが反撃してくると分かっていた。
俺は走りながら腰にぶら下げていたナイフを手に取っていた。それも俺の利き手ではない左手、ウサギの死角になる位置である。
ウサギがぶつかる直前、俺は走るのを辞め、ただ水平に左手のナイフを振るう。
――――!!!
――――技・連鎖《鋭い前歯》
だが、ウサギも直前で、俺の動きに気付いたのか、技を使って俺のナイフに自らの歯を当て、攻撃を受け流した。
ウサギにダメージを与えることは出来なかったが、俺の目的はそうではない。
ウサギが体勢を整える間に、俺は再び走り出す。
俺は地面に刺さった剣を掴み、引っこ抜くと、そのまま森の中に入っていく。
――――!!!
一瞬、遅れてウサギは俺の後を追いかけ始める。
ウサギは、俺が逃げたと思っているのだろう。
だが、俺の狙いは違う。
俺は、森に入ってすぐに近くにある木の陰に隠れる。
追いかけてきたウサギも猛スピードで茂みに突入してくる。
俺はこれを狙っていた。
ウサギが慌てて森の中に入った所での攻撃。言ってみれば、ウサギが俺にしたことを、俺はそのままお返しするのだ。受けた恩は仇で返すわけにはいかないが、受けた仇は仇で返してもいいだろう。
俺は用意していた剣をウサギへと振り下ろす。
――――!!!
「ちっ!」
だが、ウサギは間一髪のところで、俺の攻撃を避け、浅い粒子の傷が軽く体に出来ただけだった。
俺はそれを横目で確認しながら、すぐにまた走り出す。今度は、森の中ではなく、火ネズミ側の草原の方にだ。森の罠を仕掛けているところまでは距離があるし、身軽なこいつにはあまり通用しないだろうという事と、森の中でウサギとの戦闘は完全にウサギ側の方が有利だと考えたからだ。
俺は草原の見晴らしのいいところに立ち、森からウサギが出てくるのを待つ。
もちろん、森の茂みからは一定の距離を開け、ウサギが茂みから急に飛び出し、奇襲出来ないようにしてある。
「…………」
俺は、じっと剣を構えながら、ウサギが森の中から出てくるのを待つ。
辺りはシーンと静まり返り、ただ草木が揺れる音だけが聞こえる。
ウサギは、一向に森の中から出てこない。
「…………」
刻一刻と、時間だけが過ぎていく。
本当は倒したんじゃないか?
表面だけを切ったと思ったが、致命傷だったのではないか?
それとも傷を受けたことで逃げ出したのではないか?
時間が過ぎていくにつれ、そういう文言が頭の中を駆け巡る。
いや、こう思わせることが、あのウサギの作戦なのかも知れない。
倒したと思わせておいて、俺が確認に来たところを攻撃するのだ。
ここは、我慢だ。ここで森へと行ってしまえば、あいつの思う壺だ。
「…………」
俺はひたすらウサギが出てくるのを待つ。
1分が、1秒が長く感じる。
そして、待つこと何時間だろうか。いや、本当は5分程だったのかもしれない。
あいつの方が痺れを切らして出てきた。
――――技 《ダッシュ》
――――技・連鎖 《ダッシュ》
――――技・連鎖 《ダッシュ》
だが、あいつの方もただ単純に出てきた訳ではない。技の三連鎖である。
加速に次ぐ加速で、あろうことか、茂みから俺までの距離を縮めてきたのだ。
10メートル程の距離を1秒足らずで駆け抜けてくる。
――――技・連鎖《鋭い前歯》
そして、俺が突撃を受けるために振った剣に、またもや技で受け流す。
――――技・連鎖《奪取タックル》
攻撃を受け流し、地面に着地した直後、すぐに技を使ってくる。
マズい……!
剣を振った直後、無防備になっていたところへ一撃。
俺は、咄嗟に体を捻ってウサギの攻撃を躱そうとする。
が、脇腹にウサギの攻撃が直撃とまではいかないが当たった。
俺は衝撃を受けつつ、転がりながら受け身をとる。そして、すぐさま体勢を整える。
いってえなぁ!
俺は立ち上がりながら、視界のHPバーを確認する。
まだ、大丈夫だ。
俺は剣を構え、ウサギを見据える。
「なっ!?」
そして、ウサギが咥えている、持っているモノを見て、驚愕する。
それは、つい先ほどまで俺の腰にぶら下げていたナイフだった。
俺はすぐに腰に在ったはずのナイフを確認するが、やはりそこに在ったはずのナイフは無い。
――フッ。
ウサギはそんな俺の姿を見て、馬鹿にしたように笑った。
それを見て、怒りがこみ上げてくるが、ここで怒ったらまたこいつの思う壺。俺は、ゆっくりと怒りを鎮める。
そうだよ。忘れていたが、こいつは泥棒ウサギだ。あの《奪取タックル》は、おそらく、タックルをしつつ、その相手から何かを奪う技。前に隠れ実を取られたように、この技には当たったらダメなのだ。
俺は、泥棒ウサギを睨みつける。
泥棒ウサギもまた、ナイフを咥えたまま俺を睨みつけていた。
どうやら、こいつは、そのままナイフを咥えたまま戦うつもりらしい。
くそ。してやられた。敵に武器を与えてしまうとは。今まで俺の剣を、技を使って己の歯で防いでたものが、技を使わなくても俺の剣を防ぐことが出来るようになってしまったのだ。
ますます厄介になった。
そして、ウサギもそのことを知ってか、俺に再び突撃してきた。
俺はこれを剣を振って対処するしかない。
ウサギも咥えたナイフを器用に俺の剣へと当て、攻撃を受ける。それから地面へと着地するとすぐに距離を取る。
――フッ。
ウサギは鼻を鳴らした。まるで、勝利を確信したかのように。
どうやら、今の攻撃は俺の剣に対処出来るか、感触を確かめた突撃だったらしい。
見誤った。決めるなら今の一撃がチャンスだったのかも知れない。
俺は剣を構え直し、ウサギと相対する。
それから、ウサギの猛攻が始まった。
――――技 《ダッシュタックル》
急加速をして俺に突撃してくるウサギ。
俺はそのスピードを見極め、ウサギが最後に地面を踏みしめる瞬間を見たところで、剣を振るう。
ギンッ!!!
と、俺の振った剣とウサギの咥えるナイフとがぶつかる音が響く。
攻撃が決まらなかったウサギは、すぐさま俺から距離をとる。
――――技 《ダッシュタックル》
そして、再び突撃してくる。
それを俺は、冷静に対処していく。
そんな攻防が数回続いた。
もちろん、俺もウサギも同じ事を何回も繰り返している訳ではない。
タイミングを変えたり、反撃のチャンスを伺ったり、お互い相手の裏をかこうと必死だ。
――――技 《ダッシュタックル》
今日、何回目か分からない《ダッシュタックル》。《奪取タックル》を使ってこないのは、ナイフを咥えていることで、相手のモノを奪えないため使用制限が掛かっているのか、ナイフを咥えたあとは、使ってこない。
ウサギは突撃にフェイントを入れ、俺の剣のタイミングを逸らそうとするが、俺はそれに引っ掛からずに、最後まで見極めてから、ウサギが最後のジャンプをしたところで剣を振る。
金属同士がぶつかる音が響き、ウサギは再び距離をとる。
だが、そろそろこれを終わりにしたい。
――――技 《早投げ》
ぶっつけ本番で、背負っている銛を取り出しながらの《早投げ》を実行する。
――――!!!
矢のように放たれた俺の銛は、一直線に、ウサギへと向かう。
咄嗟の判断で、これをウサギは横に飛びのき回避する。
――――技・連鎖《早投げ》
だが、俺も次にポケットから出した石を投げる。
――――技 《ダッシュタックル》
ただ、これは読まれていたみたいだ。
ウサギは急スピードでこちらに向かいながら、石を回避すると、そのまま俺へと突撃してくる。
ただ、何度も同じ攻撃を繰り返すわけにもいかない。
――――技・連鎖 《スラッシュ》
何故か今なら使える気がした《スラッシュ》をウサギに叩き込む。
――――!!!
ギンッ! と金属音がした割に手ごたえが小さかった。
ウサギはそのまま着地をして、再び遠ざかっていく。
どうやら、ウサギはまともに俺の剣とは打ち合わずに受け流したらしい。
つくづくこいつの戦いの才能には嫌気が差す。
まだそのナイフを使って数十分だろうが。先程まで、打ち合うだけだったのが、なんでそんなに使いこなせるんだよ!
俺とウサギは再び睨み合いを始める。
ウサギが隙を見せたら、すぐにでも飛びかかれるように。
ウサギもそうだろう。俺が隙を見せたらすぐにでも飛びかかってくるだろう。
辺りが、再び、静寂に包まれる。
さぁ。お前が来るか? 俺から行くか?
「ガアアアアァァァァァ!!!!!」
それは、突然の咆哮だった。
このウサギからではない。
第三者からの突然の横やり。
一瞬の、一瞬の気の緩み。
あるいはそれは、野生動物としての本能だったのかも知れない。
泥棒ウサギは、ほんの一瞬。
ほんの一瞬だが、その咆哮、音に気を取られた。
だが、その一瞬は、時として命取りになる一瞬。
戦いの最中なら尚更。
俺は、そのウサギの一瞬を見逃さなかった。
――――技 《スピードスラッシュ》
俺は、今まで使用したことのない技を使いこなし、ウサギへと最速で斬りかかかる。
――――技 《ダッシュタックル》
ウサギも俺に、一瞬遅れてだが、技を使う。
が、もう遅い。
俺はウサギとの間を一瞬で詰めると、力の限り剣を振り下ろす。
「ピッ――!」
俺の振った剣は、ウサギの胴体に思い切りヒットした。
ウサギは、勢いで吹き飛ばされ、地面を転がる。咥えていた俺のナイフも宙へと投げ出される。
ウサギの体から、大量の粒子が空気中に漏れ出した。
だが、それでもウサギは懸命に体制を立て直す。
満身創痍の中、体を低くし、俺を睨みつけている。
どうやら、ウサギは、間一髪のところで、俺の振った剣を避けたようだ。
いや、違うな。
確かに手ごたえはあった。
こいつは、寸前のところで、俺に向けて攻撃するのではなく、俺の振った剣に向かって《ダッシュタックル》を使ったのだ。それにより加速したこいつは、俺の剣が一番力の乗る位置よりも、手前で攻撃を受け、致命傷を避けたのだ。
相変わらずの判断の速さには脱帽する。
だが、その傷では、どのみち、もう満足に戦えないだろう。
俺は、ウサギにさらに追い打ちをかける――――。
が、ウサギが動き出すほうが早かった。
――――技 《ダッシュ》
もう、技を使うHPもろくに残ってないだろうウサギは、俺に向かって一直線に走ってきた。
俺は、再び剣を構え、向かい打つ体制をとる。
しかし、ウサギがこちらに向かって来ることはなかった。
俺に一直線に突撃するかと思わせて、途中で、90度方向を変えたのだ。
泥棒ウサギは、粒子をまき散らしながらも、走り去っていった。
「はぁ…。俺の勝ちだな……」
俺は、逃げていくウサギを見ながら呟く……。
泥棒ウサギとの二度目の戦いは、俺の勝利で終わった。
ただ、いつまでもウサギを見ている訳にはいかない。
「次のお客さんを歓迎しないとな……」
俺は頭を上げて、こちらに迫ってくる、先程の咆哮の主を見据える。
そいつは、俺が初日に見たドラゴンだった。
馬鹿でかい巨体に、真っ赤に光る全身の鱗。
忘れるはずもない。俺がこの世界に来て、一番最初に死を覚悟した相手だ。
逆に、最初にあの恐怖があったことで、俺は今も生きているのかも知れない。
ただ。
「今回は見逃してくれそうにない……」
俺はドラゴンのただならぬ気配を感じ呟く。
この世界を生き延びてきたからこそ分かる。
あの目は完全にこちらを標的として狙っている目だ。
今まで、俺と戦ってきた動物全員がしていた目。
さて。どう戦ったものか……。
勝負は一瞬だった。
――――技 《竜の咆哮》
そのドラゴンは地に降り立つと同時に技を放ってきた。
「ガアアアアァァァァァ!!!!!」
その咆哮は、何故だか、俺の体を硬直させた。
恐怖ではない。物理的に、体の自由が利かなくなった。
マズい……!!!
――――技・連鎖《咬みつき》
そして、俺の体は粒子となって砕け散った。
――――お疲れ様でした。これにてゲームは終了です。
あなたの総合得点は、16,261ポイントです。
土曜の夜か、その次の日ぐらいに活動報告を書きたいと思います。
次の更新日程は、そちらで。




