番外編 オレと戦いと人間
番外編です。
まさかのウサギ視点。
オレは5人兄弟の一番末っ子に生まれた。
オレたち戦闘ウサギにとって、5人兄弟というのは多くもなく少なくもない数だ。
だが、兄弟が多いという事は、それだけ大変なことだ。
特に末っ子のオレは大変だ。
食事の時は兄弟達から、自分の分の食事を確保しないといけないし、食べている最中にも、自分の食べ物が奪われないか、常に気を張っていないといけない。
ある時、事件が起きた。
兄弟の一人が、オレの隙を狙い、オレの食事を奪ったのだ。
よりにもよって、その日は、滅多に食べることの出来ない美味しい緑色の果実。
オレは怒り、兄弟に体当たりを仕掛けた。
もともと、オレたちは戦闘ウサギ。戦いを好む血の気の多い種族である。オレが戦いを仕掛けたのも当然の結果と言えた。
結果は惨敗。
同じ日に生まれた兄弟達だが、末っ子のオレは、兄弟達よりもひと回りほど身体が小さかったのが原因だ。
その日。オレは空腹で過ごすことなった。
そして、その日からオレの生活が一変した。
戦闘に負けたオレは、食事の度に他の兄弟からも狙われるようになったのだ。
もちろん、身体の小さいオレの勝率は低い。
食事をとってきてくれるオカンも兄弟同士のケンカには口を出さない。
オレの生活は、毎日生きるか死ぬかの瀬戸際となった。
生まれてから3週間ほどが経過した頃、オカンが戦闘訓練を始めると言った。
まずは、兄弟全員対オカン。
オカンに首元を甘噛みをされたら、負けというルールだ。
その代わりに、、オカンの首を甘噛み出来た兄弟は、食事が多くなる。
オレはこれがチャンスだと思った。
食事の量が増えれば、兄弟達に食事を取られてもオレが食べる分はあるはずだと思ったからだ。
そして、いよいよ戦闘訓練。
俺たち兄弟は、オカンに完膚なきまでに叩きのめされた。
オカンはこれでも、一流の戦闘ウサギ。
俺たち子供が全員が掛かったところで、勝ち目などなかったのだ。
オカンと戦闘訓練を始めて、3日が経った。
オレたちは、未だ誰一人、オカンから一本も取れずにいた。
ただ、オレはその原因が分かって来た。
オカンがただ強いんじゃないのだ。オカンは意外と手加減をしてくれてる事が分かった。
原因は、オレたち兄弟が連携もせずにオカンに挑みに行くことなのだ。
あれじゃあ、5対1ではなく、実質1対1で戦っているのと同じことだ。
ほら、今もオカンが避けた先で、兄弟同士がぶつかった。
オレは兄弟達に、連携をしてみてはどうかと提案した。
が、一番末っ子の身体の小さいオレのいう事に聞く耳を持つ兄弟はいなかった。
それどころか、うるせぇと蹴られそうになる始末だ。
1週間が経った。まだ、誰もオカンから一本を取れない。
提案をしてから、オレもただ黙ってオカンにやられていた訳ではない。
オカンにアタックしては負け、原因を考え、またアタックしていった。
そんなある時、ふと茂みなどの見えないところからオカンに攻撃を仕掛ければいいのではないかと思いついた。見えないところからの急な攻撃ならオカンも対処出来ないのではないかと思ったからだ。
オレは、兄弟たちがオカンに突撃をしていき、オカンが後ろを向いた一瞬の隙に近くにあった茂みに飛び込んだ。
ここでは、小さい身体が役に立った。茂みをあまり揺らすことなく飛び込むことが出来たし、この小さい身体は隠れるのにとても便利だと分かった。
オレは茂みの隙間から攻撃を仕掛けるチャンスを伺う。
兄弟達がオカンに突撃しては、躱されるか反撃を食らう。
そして、チャンスは訪れた。
兄弟の攻撃に対処するために、オカンはオレから見て完全に後ろを見せたのだ。
オレは一気に茂みから飛び出した。ただ、早く早く、オカンが振り向く前にオカンにたどり着きたかった。
そんな俺の思いは、形となって現れた。
――――技 《ダッシュ》
走っている時、急に身体が軽くなった。
いつもより、早く走れている気がした。
「!!!」
そして、オレはオカンの背中に張り付く。
オレは、兄弟たちの中で、誰よりも早くオカンから一本を取ったのだった。
その日、いつもより多く食料を貰ったオレは、すぐに茂みに隠れて、ご飯を食べた。
今日だけは誰にもご飯を取られたくなかったのだ。
だが、兄弟たちは、茂みに隠れているオレを当然のように狙って来た。
きっと、末っ子のオレが身体の小さいオレが、多く食料を貰った腹いせでもあるのだろう。
だが、今日はオカンが兄弟たちを止めてくれた。
これはオレの食べ物だと、奪うのは今日は禁止と。
その日。オレは久しぶりにお腹いっぱいご飯を食べた。
オレがオカンから一本を取った後、兄弟たちもオレと同じように茂みに隠れるようになった。
オレが最初に考えたのに……。
だが、みんながみんな、茂みに隠れたことにより、オカンも対抗策を取って来た。
今まで、突撃されるまでは、攻撃をしてこなかったオカンだが、オカンからも最初に攻撃をしてくるようになったのだ。もちろん、それは手加減されてはいる。が、まるで、オレたちの隠れている場所が分かっているかのように、茂みに向かって突撃をしてくるのだ。
これによりオレ達は、余計にオカンから一本を取ることが難しくなった。
オカンが教えてくれるのは、戦闘だけではない。
オカンは、オレ達に、森を回りながら、食べられる植物や、食べられない植物、危険な動物、そうでない動物などいろんな事を教えてくれた。
食べられる植物は色んな植物を食べたが、やはりオレが一番好きなのは、オカンが時々取ってくる緑色の果実だった。
オカンが戦闘訓練を始めて、3週間が経過した。生まれてから7週目だ。
オレ達兄弟は、あれからオカンに何本か報いる事が出来た。
オレもあれから一回、オカンから一本取ることが出来た。
そして、オカンは今日から、兄弟同士で対戦をすると言い出した。
勝ったものには、食料の追加。それは、負けたものの食料が少し減るという事だ。
負けると食べるものが減ると言うのは嫌だったが、勝てば食べるものが増えるというのは魅力的だった。
オレの最初の相手は、最初にオレから、あの美味しい果実を奪った兄弟との対戦だった。
オレはあの日の雪辱をはらすため、気合いが入る。
オカンの鳴き声を合図に試合が始まった。
兄弟は真っ直ぐオレに向かって突撃してくる。
持ち前の体格を生かした戦法だ。だが、ただ考えずに真っ直ぐ向かって来たとも言える。
――――技 《ダッシュ》
オレはそれを技を使って、隣の草むらに逃げ込むことで、回避する。
真っ直ぐ突っ込んでくる奴の相手なんかまともにするもんか。
オレは草むらを一気に駆け抜け、兄弟がオレを把握できないように隠れる。
ただ、オレ達は戦闘ウサギ。聴覚は他の動物よりも優れている。
ある程度隠れた場所までは、兄弟にバレてしまう。
オレは草むらの陰で、ジッと隠れて兄弟を伺う。
案の定、突進を回避された兄弟は、オレがいる方に向かってくる。
オレが回避したことに腹を立てたのか、警戒もせずにフガフガと鼻を鳴らし歩いてくる。
今だ――――。
草むらへと兄弟が近寄る寸前。
オレは勢い良く飛び出した。
兄弟はそれを予想していなかったのか、驚きのあまり何も出来ない。
オレは兄弟の腹に潜り込み、そのまま兄弟へとぶつかっていく。
――――!!!
だが、オレの渾身の一撃は、兄弟に当たらなかった。
オカンだ。
オレが突っ込む寸前で、オカンが兄弟を助けたのだ。
何故? 何故? オカンは戦闘の邪魔をしたの?
オレはオカンに抗議した。あのまま、突撃していたらオレが勝っていたのに。
ただ、すぐにオレの怒りは見当違いだったことに気付く。
オレの勝利だとオカンが言ったからだ。
あのまま突撃していれば、兄弟が危ない状態になるところだったから助けたとオカンは付け加えた。
戦闘訓練が終わり、夕食。今日のご飯は、あの美味しい果実だった。
もちろん、オレの分はいつもより少しだけ量が多い。オレはあの日の雪辱をはらすことが出来たのだった。
生まれてから9週目。戦闘ウサギの巣立ちはもうすぐだ。
今日はオカンが、兄弟同士ではなく、他の生き物と戦うと言って来た。
そして、向かった先は森を抜けた先にある、草原。
触ると熱いメラメラしたもの…オカンが言うには、火を体に纏わせているネズミが多くいるところだ。
今日はこのネズミと戦うらしい。
まず、オカンが倒し方の見本を見せてくれた。
手順としては簡単だ。
まず、ネズミを追いかけ、体力をなくさせる。この時、ネズミに離れ過ぎず、近すぎずに追いかけるのがポイントだ。それから、体力がなくなってきたネズミは、魔法、火を放ってくるので、それに当たらないように避ける。その魔法を何発か撃つとネズミは動かなくなるので、そこに突撃をしてネズミを倒す。
ただ、最後ネズミを倒す時は、注意が必要だ。あまりネズミに長く接触していると熱くて傷を負ってしまうからだ。だから、突撃した後はすぐに離れる。これが基本らしい。
――――技 《ダッシュ》
オレはさっそく、見つけたネズミを追いかけ始める。
ネズミもオレに気付いてスピードを上げるが、オレの方が早いので、オレはスピードを加減しながら、オカンの言う通りにネズミに近づきすぎず、離れ過ぎず、追いかける。
――――技・魔法《火の玉》
おっと!
突然急停止したネズミが魔法を放ってくる。
オレはそれを避ける。
――――技 《ダッシュタックル》
そして、動けなくなったネズミを仕留めるのだった。
生まれてから10週目。この日、オレ達兄弟は巣立った。
これからは、立派な戦闘ウサギとして、一人で生きていくのだ。
オレは、オカンから教えてもらった植物を見つけは食べ、見つけは食べと、森の中を移動していた。戦闘ウサギらしくはないが、戦闘はあまりしなかった。する相手がいなかったというのもある。この森に住んでいる動物は意外と少ないし、この森に住んでいる動物はオレよりも格上ばかりで、身体の小さいオレが戦えるような相手はあの草原のネズミたちか、同じ戦闘ウサギぐらいしかいないためだ。
そんな生活を続けていたある日。オレは、森にいるヘビの集団を見つけた。一匹でいる時は戦ってもいいが、集団でいる時には、逃げなさいとオカンから教わったヘビだ。
オレは、すぐさま向きを変えて、見つからないうちに逃げようとしたが、あるものがオレの目に留まった。
それは、オレが一番好きな食べ物。最近、巣立ってから一度も食べていない、あの緑色の果実だった。
色々な事を教えてくれたオカンだったが、一つだけオレ達に教えなかったことがある。
それは、オレが好きな緑色の果実が取れる場所である。
オレは、何度かそれが食べたくて、オカンに果実がある場所を聞いたことがあるが、オカンは教えてくれなかった。いや、正確には、オカンも知らなかったのだ。
では、どうやってオカンはその実を持って帰ってくるのか、という疑問がオレのなかにはずっとあった。
その答えが今分かった気がした。
オカンは他の動物が持っているあの果実を奪って、持ってきていたのだ。
そして、オレの目の前には今、ヘビの集団がそれを持っていた。
オレの考えは決まっていた。オレは、あろうことか、単身、ヘビの集団に向かって突撃していった。
それから、オレはあの緑色の果実を持っている動物がいると、背後から襲ったり、隙を見て奪う生活になった。あのヘビの集団から果実を奪い、逃げ切ったオレなら大抵の敵なら逃げきれると自負していた。
そんなある時、オレは、あのネズミがいる草原の近くまで来ていた。
そこで、オレは見たことのない生き物を見つけた。サルのように、二足歩行で歩いている。
もしかすると、あれはオカンが言っていた人間という生き物かも知れない。マヌケそうに、辺りを警戒すらしていない。
戦うまでもない。オレはそう興味を失い、森に入ろうとしたが、オレの目に留まるものがあった。そう、あの美味しい緑色の果実だ。あろうことか、その人間は、三つも同時にそれを持っている。
あの実はとてもおいしい実だ。それだけでなく、最近知ったが、体力の回復も僅かだがしてくれる。
オレは、人間からあの果実を奪うと決めた。
――――技 《強盗タックル》
オレは手始めに、後ろからの不意打ち、そして、同時に果実を一つ奪っていく。
度重なる戦闘で果実を奪ってきたオレは、突撃と同時に果実を奪うことぐらい普通に出来るようになっていた。まぁ、強い相手なら奪えないことあるのだが。この人間からは余裕で奪うことが出来た。
さて。もう一つ程、奪っていくか。オレは人間に向き直る。
「って、あれ俺の隠れ実!」
すると、人間が何か喚いてきた。
動きから察するに、果実を取られたことに今気づいたのだろう。
――フッ。
鈍いやつだ。
「こいつ絶対ぇ許さねぇ!」
オレが鼻を鳴らしたことが、頭にきたのか人間は、また何かを叫んだ。
そして、手に持っていた何かを投げつけてきた。
オレは、後ろに跳んで、それを回避する。
――――技 《奪取タックル》
着地したと同時にオレは技を発動させ、突撃する。
無防備だな。オレは突撃をして離れる際に、果実をまた一つ奪い距離をとる。
人間を見ると、身体を折り曲げながらも、まだオレを睨みつけてきた。
それから、数秒間。お互いに動かない。
「……よし。これでいくか」
不意に、人間が呟いた。何かをしてくるつもりらしい。小声で言ったつもりだろうが、聴覚の良いオレ達戦闘ウサギには丸聞こえだ。
オレは警戒を強める。
そして、人間が動き出した。
その動作を見てオレも人間へと飛び出す。
あろうことか、人間は持っていた果実をこちらに投げつけていた。
持っている食料を投げるとは、予想外だ。
オレは慌てて方向を変え、それを回避するも――。
胴体、後ろ脚付近に、果実がヒットした。オレは衝撃で思わず、身体を硬直させる。
ヤバいと思って、硬直が治り次第、オレは人間を見るが。
もといた場所に人間はいなかった。代わりに、走り去っていく人間の後ろ姿は見えた。
オレは本能的に、その人間を追いかけようとしたが、すぐに辞める。
今日は久しぶりに果実が手に入ったのだ。
オレは、逃げていく人間を見ながら、実を一口齧るのだった。
※注意※ 戦闘ウサギの生態は実際のウサギの生態とは異なっています。




