第15話 俺と牛と決着
いつもお読みいただきありがとうございます。
今週2回目の投稿です。
俺は、森の中を走っていた。
もちろん、牛から逃げるためである。
落とし穴に落ちたのにも関わらず、牛は、足を引きずりもせず、森を爆走して、俺へと迫ってくる。
「さて、そろそろ次のポイントだ……」
頭の中で地図を描き、森を走りながら、二つ目の落とし穴を作ったポイントに牛を誘導していく。
一発目で、足でも負傷してくれれば、楽な戦闘になったのだが。
そして、俺は一回目と同じように、走っている途中で、急に横の茂みに入る。
「モッ!!!」
牛もそれに気づき、減速する。しかも、さっきの、一回目の減速より明らかにスピードを緩めている。
一回目の落とし穴の時と同じ状況で、俺が横の茂みに逸れたため、流石に牛は警戒したのだろう。
牛は、地面を警戒しながら、ゆっくり前に向かって行く。
ただ、俺の狙いは、落とし穴ではない。もちろん、牛の行く先には、ヘビの肉が不自然にある落とし穴もあるが。
――――技 《一球入魂》
俺の狙いは、落とし穴を気にする牛の一瞬の隙である。
俺は、茂みに隠れた瞬間から、溜に入っていた右手にある銛を、牛に向かって投擲する。
「モッ!!!」
矢のようなスピードで、俺の手から離れていった銛は、そのまま牛に直撃し、牛の背中に深々と突き刺さる。
「モーーーーーー!!!!!!」
一瞬の硬直のあと、牛は雄たけびとも、また違う、叫び声を上げた。
背中に刺さった銛から、粒子が空気中に漏れ出てくるが、まだ、牛は倒れない。
そして、どうやって俺の居場所を知っているのか分からないが、また、俺のいる方へと牛は顔を向けるとすごい形相で睨んでくる。
――――技 《一球入魂》
しかし、ただ睨んでくるだけだ。
俺は、追撃にと用意していた、石斧も《一球入魂》で投げる。数値が上がったおかげで、3秒から2秒へと最低の溜の秒数が短くなっただけで、今まで以上に使いやすくなった。やはり、戦闘中の1秒はそれほど大きいのだ。
「モ――!!!」
クルクルと回って飛んでいく石斧は、牛は流石に気付いたみたいで、頭を横に動かし、自慢の角でガードした。
――――技・連鎖《早投げ》
俺はそれを見て、すぐに仕掛ける。
まだ、あまり検証していない連鎖を駆使して、《早投げ》を発動。ポケットに準備してある石を投げる。
「モッ!!」
俺の石は、牛の少し左横の方に投げた。
それを、牛は回避しようと、咄嗟に、右に寄る。巨体のくせに中々の身のこなしだ。
ただ、右の地面には、俺の作った落とし穴。
牛は、まんまと、今日、二回目の落とし穴を踏み抜いた。
「モーーーーーー!!!!!!」
それから、牛は落とし穴から、前足を抜こうと暴れて足掻く。
俺は、それに追い打ちをかける。
俺は、手に持った蔓を手放す。すると、落とし穴に落ちた動物に敵わない時ようにと、落とし穴の上に仕掛けていた枝落しが落下していく。
落とし穴に落ちても、決着をつけられない場合に、備えていた(半ばネタで作った)枝落しが役に立った結果だ。
落下した枝たちは、牛目がけて次々と攻撃を与えていく。
「モーーーーーー!!!!!!」
これに牛は、さらなる雄たけびを上げて、すべての枝の攻撃を受けた。
――――技 《タックル》
そして、半ば強引に技を発動させて、牛は落とし穴から脱出した。
牛の左前足からは、粒子が飛び出しているので、牛はもう簡単に走れないとみていいだろう。
そこで、俺は堂々と牛に姿を見せる。両手には剣。
「モーー!!!」
牛は、そんな俺の姿を見て、さらに雄たけびを上げる。
それは、今まで逃走して、まともに戦う事をしなかった俺に対する怒りか。はたまた、ただ今から戦えるという心の高鳴りか。
牛の雄たけびは、森中を震え上がらせるかのように響いた。
「おおおぉぉぉぁぁあ!!!」
俺も自分自身に活を入れるために声を上げる。
自分より大きい相手でも、いつも逃げてばっかりでは、ダメなんだ。
これから先、生きていく上で、こういう自分より体格の大きい相手、明らかに強い相手は、どんどん出会うだろう。いつも逃げてばっかりだと、それこそ、逃げ場が無くなった時に、本当に戦わないといけなくなった時に、戦えなくなるのだ。
今、牛は足を負傷している状態。
真っ向から、大きい相手との戦闘をするのに、これほど良いチャンスはない。
さて、ここからが本番だ……。
最初に動いたのは、牛だった。
技も何も使っていない、ただの突進。
ただ、軽トラックを優に超えるその巨体から繰り出されるそれは、それだけで十分の威力だ。
俺は、両手の剣を握りしめ構える。
まともな力比べで、勝てないことは分かっている。
俺が狙うのは、攻撃を回避しながら斬りつける、いわばカウンター。
突進してくる牛を見ながら、俺はどこに避けるべきかを考える。
右側か。左側か。
いや、左側、牛の右の胴体には、先程、俺の刺した銛がある。
避けたところに、銛の柄が当たるかもしれない……となると右側……。
「モーーーーーー!!!」
俺へと接近中、さらに牛が雄たけびを上げる。
突進してくる牛に俺は、上手くタイミングを合わせて、剣を振る。
そこから、体を捻って回避――――!!!
次の瞬間。俺の視界が反転した。
「!!!」
直後、俺は牛に投げられたことを知った。
牛は自らの角に、俺の振った剣を引っ掛け、俺ごと空中に突きあげたのだ。
通り過ぎていく牛の巨体。
鼻息は荒く目は血走っている。
ゴワゴワの硬そうな黒い毛に刺さっている銛。
パタパタと揺れている尻尾。
体が回転しているからか、牛の全身が目に入る。
そして、世界の動きがゆっくりだ。
それは、身の危険を感じた本能が、最後まで出来る事はないかと模索している現象とどこかで聞いたことがある。所謂、走馬燈。火事場の馬鹿力というやつだ。
そういう事なら、まだ何か出来る事があるはずだ。
考えろ。考えるんだ。
だが、何も思いつかず、俺はただ手を伸ばしただけで終わる。
が、それは本能が最適解を見つけ出した結果だったのかもしれない。
俺の伸ばした手の先には、牛の体に刺さっている銛の柄があった。
俺は、それを咄嗟に掴む。
回転していた体が、急にブレーキを掛けられ、悲鳴を上げる。
ただ銛を掴んだことで、突きあげられた時の勢いが弱まった。
俺はそのまま着地を試みる。
が、牛の体から、銛が抜け、そのまま尻餅をついてしまった。
「痛っ!」
思わず声が出るが、俺はすぐに立ち上がる。
だが、あの牛の攻撃から生き残る事は出来た。
次はもっと上手く避けてみせる。
俺は、左手に持っている剣を握りしめ……れなかった。
どうやら、牛と衝突した際に、剣はどこかに飛ばされてしまったらしい。
俺は辺りを見渡して、剣を探す。
「ちっ!」
剣は、俺の2、3メートル離れた手の届かない場所に落ちていた。
取りに行こうにも、既に牛は方向転換を終え、突進体勢を整えている。
「仕方ない……」
次の一撃は、この銛で迎え撃つしかないだろう。
俺はそう決め、右手の銛を構える。
「モーーーーーー!!!」
直後、牛は再び雄たけびを上げると、俺へと向かって来る。
――――技 《タックル》
走り出してから、牛は技を使った。
足を怪我しているのにも関わらず、牛のスピードが上がる。
一。
持っている銛では、あの牛の巨体を受け流すことは難しい。
そこで、俺が狙うのは、一か八かのゼロ距離投擲。
思い出すのは、イノシシとの戦闘の前のウサギ戦。石斧を投げた直後に、ウサギに当たったあの一撃。
二。
俺は手に持った銛を構え、神経を集中させる。
牛はもう目前まで来ている。
《一球入魂》の溜も完了済み。
三。
だが、俺はギリギリ、本当にギリギリまで、牛を引き付ける。
――――技 《一球入魂》
牛が角を突き出す直前。俺は、技を発動させた。
当然、俺の手から放たれた銛は、すぐに牛へと突き刺ろうとする。
が、牛は咄嗟に体の向きを変えて、自分の角を銛へと当てる。
しかし、ゼロ距離投擲の技《一球入魂》の勢いは、それだけでは終わらない。
俺の放った銛は、そのまま牛の角を砕くと、牛へと突き刺さる。
俺は俺で、技発動後の一瞬の硬直状態に、牛の体に当たり吹っ飛ばされる。
牛が体の向きを変えたことで直撃ではないことが幸いだ。
「モーーーーーー!!!」
ただ、まだ牛は倒れていない。
「くそ……あれで倒れないのかよ……」
悪態を付きながら、俺も再び起き上がる。
牛の体からは、物凄い量の粒子が出ている。それによるのか、牛は全身で息をしている。
俺の体もあちこちから微量にだが、粒子が流れ出ている。ふとHPバーを見てみると、先程全快だったHPも半分になっている。
ボロボロの体を引きずりながら、俺は歩き出す。
落ちている剣を拾うためだ。
牛が満身創痍で止まっている今がチャンスなのだ。
牛は自らの巨体がそのまま武器となるが、俺はそうではない。
「モーーーーーー!!!」
――――技 《奮い立つ》
牛が雄たけびを上げながら、技を発動するのと、俺が剣を掴んだのは同時だった。
俺は、すぐさま牛に注意を向ける。
「なんだありゃ……」
視線を向けた先にいる牛は、全身が光り輝いていた。
比喩ではない。体から噴き出す粒子でもない。
文字通り、牛の全身が薄く金色に光っていた。
これは、あれだ。
おそらく、ゲームでいうところの身体強化である。
俺はすぐに、そう判断した。
この状況で考えられるのは、それしかない。
あの牛は、おそらく、次ですべてを決めるつもりなのだ。
俺は両手で剣を構える。
来るなら来い――――。
俺もそろそろ決着を付けたかったんだ。
――――技 《ホーンタックル》
そして、牛は走り出した。
しかも、今日一番の大技である。
どんどん距離を縮めてくる牛を見ながら、俺はただ剣を振る事だけに集中する。
残り3メートル。
2メートル。
1。
俺は、剣を振り下ろす。
――――技 《スラッシュ》
気が付くと、もう太陽は沈み始めていた。
辺りを見渡すと、先程、牛と戦っていた場所だと気付く。
牛はいない。が、俺の近くに牛からドロップしたと思われる品々が、無造作に置かれている。
どうやら、俺は気を失っていたらしい。
戦闘中に気を失うとは、危険極まりないが、牛のドロップ品があるのを見る限り、戦闘には勝ったらしい。
気を失った原因は、ある程度予想できる。
HPが著しく減ったことや、あの時は無我夢中で、よく覚えていないが、取得もしてないスキルの技を発動したのだ。それの代償として、気絶したのだろう。ここは、ゲームの中のような世界だ。そういう事は、可能性として十分に起こり得る。
ボーッと、ただ一点を見つめながら、戦闘の余韻に浸る。
改めて、振り返る事で、よく勝てたなとつくづく思う。
しばらく、そう過ごした後、俺は戦闘の片付けのために起き上がるのだった。
俺は、戦闘で使用した武器を回収していく。
もう既に日は暮れかけている。日が落ちてからの森を歩くのは出来るだけ避けたい。
俺は、急ぎ戦闘の片付けをしていく。
落とし穴と、枝落しなどの使った罠は、明日また設置し直しだな。
森の入り口付近に置いてきた隠れ実も、もう明日でいいだろう。
そして、最後に牛のドロップ品だけが残った。
牛の体格が大きかったからか、強い相手だったからか、理由は分からないが、なんと、4つもドロップ品がある。
イノシシが剣と肉の2つだけだったことを考えると、牛はかなり太っ腹である。文字通りお腹の肉も太っていたが。
ドロップ品の内訳としては、最近はもう見慣れてきた肉。×3である。
しかも、うち2つは、いつもドロップする肉の大きさではない。かなり大きく分厚いというか、テレビでしか見たことないブロック状の塊肉である。ステーキに切り分ける前の肉とでも言えばいいか。それが、2つである。うん。当分、食料には困らないね。
もう1つの肉は、いつもと同じ大きさだ。
ただ、俺はこれにピンときた。
俺は、肉を包んでいる葉っぱを、少し剥がして肉を確認する。
「おぉ!」
その肉に思わず、声が漏れる。
俺の予想的中である。
それは、素人目で見て、分かるほどの旨そうな高級肉だった。
…………。
俺はそっと包み葉を元に戻す。
そして、キョロキョロと辺りを見渡して、誰にも見られていないことを確認する。
もちろん、誰もいないのだが。
俺は、絶対にこの肉を持って帰ると決めた。
この肉は、死んでも食べるのやるぜ。
他の誰にもやる訳にはいかない。俺はそう心に決めた。
次の更新は、水曜日か木曜日あたりです。




