第11話 俺とイノシシと火ネズミの毛皮
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拠点へと戻る森の道の中、俺は今までに聞いたことのない動物の鳴き声を聞いた。
それは、俺が普段通っている、この道とは少し外れた場所から聞こえる。
俺は、恐る恐る辺りを警戒しながら、その鳴き声が聞こえる場所へと向かう。
俺はゆっくりと、森の中の茂みを掻き分けながら、その声の主を探す。
声の主に近づいているのだろう。声がだんだん、ハッキリと聞こえてくる。
「フゴッ! フゴッ!」
「いた――――!」
俺は木の陰から、そっと覗いて、そいつの姿を確認する。
それは、俺の作った落とし穴に落ちたイノシシだった。
「フゴッ! フゴッ!」
穴に落ちたイノシシは、戦闘ウサギ二匹分ぐらいの大きさだろうか。前の世界で、生でイノシシを見たことが無いので、それとは比べる事は出来ないが、この世界であった生き物の中では、かなり大きい。ドラゴンを除くと一番の大きさだ。
そして、よく見てみると、イノシシは穴に完全に落ちている訳ではなかった。どうやって落ちたかは知らないが、胴体の後ろ、お尻の部分が穴にすぽっりと嵌っているようだ。頭と前足は、穴から出ているかたちである。
「さて、どうするか……」
戦うか、そのまま放置するか。まだ、イノシシに、こちらのことがバレていない以上、この場から立ち去るという選択肢はある。ただ、見逃すと言ってもいずれ、イノシシが穴から抜け出して、どこかで鉢合わせする可能性も決して低くない。そして、戦うなら、イノシシの動けない今がチャンスだ。さて、どうする……?
だが、俺の思考は途中で中断させられた。右の草むらからガサッと音がしたからだ。
――――技 《タックル》
直後、俺めがけて、灰色の物体が、飛び込んで来た。
俺は、咄嗟にしゃがんでそれを回避する。
飛び込んで来た奴の正体は、やはり、ウサギである。
草むらのままだと視界が確保出来ないぶん、こちらが不利か。俺は瞬時にそう判断して、イノシシのいる少し開けた場所へと出る。イノシシにこちらの事がバレてしまうが、もう、それは仕方ないだろう。見えない場所から攻撃を受ける方が致命的だ。
「フゴッ! フゴッ!」
草むらから出てきた俺に驚いてか、イノシシはこちらに気付くと、鼻息荒く威嚇してきた。
ただ、今動けないイノシシは、一旦、無視だ。
俺は、藪の中でゴソゴソとしているウサギの音に注意を向ける。
――――技 《タックル》
ガサッと音を立てて、正面の草むらからウサギが出てくる。俺は、それを見極めて、右手の石斧で冷静に対処し、受け流す。
クルクルと回りながらも、きれいに着地したウサギは、すぐさま近くの草むらに飛び込んだ。
「やっかいだな……」
草むらから、飛び出して攻撃し離脱する。典型的なヒット&アウェイ戦法だ。
こちらは、イノシシが何か行動を起こす前に勝負を決めたいのだが。
先にイノシシを仕留めようとしても、ウサギが邪魔をしてくるだろうし。かと言って、ウサギをこのまま警戒していたら、イノシシが動きだすだろう。
俺は、横目でイノシシを確認する。イノシシは、フゴッ、フゴッと言いながら、必死に前足を動かし、穴から出ようとしている。
――――技 《タックル》
「おっと!」
俺は、咄嗟に身を捻り、ウサギからの攻撃を躱す。
イノシシに、気を向けるとすぐにこれだもんな。
よし、一か八か。
俺は覚悟を決め、技の発動の準備を始める。
そう、狙うは、技《一球入魂》である。俺はさり気なく、右手に持っている石斧に想いを込める。
ウサギが気付く前に、三秒以上、溜を作れるか……!
一。
だが、ウサギは、俺から何かを感じ取ったのか、すぐに草むらから飛び出してくる。やはり、この戦闘ウサギたちは、総じてみんな戦闘のセンスというか、感みたいなのが優れている。
――――技 《ダッシュタックル》
しかも、ここ一番の技である。
先程の体当たりとは、全然違うスピード感に、狙いを付け難くなる。
二。
溜はまだ出来ていない。あと一秒が長く感じる。
ウサギはもう、俺の目前まで来ている。
三。
――――技 《一球入魂》
ウサギがアタックする最後の跳躍で、地面を蹴ったと同時に、それは発動した。
俺が石斧をリリースした直後、ウサギの体に石斧は直撃した。
ほとんど向かって来るウサギに振り下ろしたかたちだ。
ウサギは一瞬で、粒子となり消えていく。
が、俺の戦いは、まだ終わりではない。
――――技 《突進》
ウサギとの決着と同時に、イノシシが穴から出てきたのだ。
「フゴッーーーー!!!」
そして、イノシシは急カーブをしながら、俺に向かって、そのまま突進してくる。かなりのスピードだ。
俺は近くに生えていた木の陰に咄嗟に隠れる。
ズドンッと大きな音を立てて、イノシシはそのまま木へとぶつかった。
その衝撃で、木は、盛大に幹を揺らし、葉が何枚かヒラヒラと落ちてくる。
「まともに当たったら、絶対ヤバいな!」
俺は、それを見て、距離を取りながら、背中の銛を準備する。最近の連続使用の酷使により石斧は、ウサギとの戦闘で全壊してしまっていた。
「フゴッーー!!!」
攻撃が外れたことが頭にきたのか、イノシシは雄たけびを上げる。
そして、こちらに向き直ると、前足で地面を擦り威嚇してくる。
すぐにでも、突進するぞ、という強い意思が伝わってくる。
「どうやって、戦おうか」
穴からでた大きいイノシシを見て、俺は改めてそう思う。
今までは、敵が小さかったこともあり、石を投げても効果はあったが、今回はそれが出来るか怪しい。いや、小さい石でも、数を撃てば何とかなるかもしれないが、こっちが持っている石は四つ。これだけでは、到底数が足りないだろう。
だとすると、他に出来る事は、持っている銛、ナイフでの接近戦か? いや、あの巨体と接近して俺が勝つ確率は、相当に低いだろう。
他の戦い方を見つけるんだ。あのイノシシにもダメージを与えられる方法を。
「ん?」
そして、俺は閃いた。あったじゃないか。今日の朝作ったものが。目の前の戦闘にばっかり気がいって、すっかり忘れていた。落とし穴ではなく、もう一つの罠。そう”枝落し”。
あれなら、このデカいイノシシにもダメージを与えられるはずだ。これなら勝算も上がるだろう。
一番近い場所は、あそこだな。
俺は、頭の中で、今日作った罠の場所を思い出し、それまでの道のりを思い浮かべる。
よし、そうと決まれば、さっそくイノシシの誘導だ。
「フゴッ! フゴッ!」
俺を睨みつけながら、前足で地面を蹴り続けるイノシシ。
――――技 《早投げ》
俺は、睨み合う膠着状態を崩すため、技を発動させる。
右手は、銛を持っているので、命中は気にせず左手での《早投げ》だ。
――――技 《突進》
それを見たイノシシもすぐに動き出す。
俺の投げた石など気にも留めず、一直線に俺へと走り出してくる。
俺はそれを見て、すぐに後ろの草むらへと入り込み、走り始める。
イノシシにこのまま追いつかれた時点で、アウトだ。
俺は、森の中をジグザグに、木などを障害物としてうまく使いながら走っていく。途中、細かい枝などで体中にかすり傷が至る所に出来ていくが、イノシシに突進されるよりは、ましなので、気にせず走り抜けていく。
「フゴッーーーー!!!」
イノシシの方は、木などを邪魔そうに避けながら、俺を追いかけてくる。
さて、もうすぐ、罠のポイントに到着する。
俺は走りながらポケットから石を取り出し、一旦、走るのを辞める。
イノシシとは、まだ距離がある。俺はイノシシに向かって石を思いっきり投げつける。
「フゴッ!」
そして、イノシシが一瞬、石に気を取られたのを見計らって、俺は近くの茂みの中に身を潜める。
俺の姿を見失ったイノシシは、走るスピードを落としながら、辺りを見渡して俺を探す。
今だ――――。
イノシシがある木の下まで来たところで、俺は持っていた蔓を手放した。
蔓の先には、もちろん木の枝を何本もまとめたもの。それは、重力に従い、イノシシの元へと落ちていく。
「フゴッ!!!」
それは、まともにイノシシに当たった。大ダメージだろう。
俺は、とどめを刺そうと銛を構え、茂みから出る。
が、イノシシはまだ倒れてはいなかった。
「フゴッーーーー!!!」
自身の体の上に乗っかる複数の木の枝を、身を振るって弾き飛ばすと、凄まじい雄たけびを上げた。
そして、一瞬で俺を見つけ、こちらに向き直ると……。
――――技 《猪突猛進》
今までにないスピードで、俺めがけて走り出した。
俺は銛を構えるが、すぐに、これでどうこう出来ものではないと、頭に過ぎる。
イノシシはその大きい体を加速させながら、もう目前まで来ている。
ヤバい――――
――――――――!!!!!
それは、偶然か。はたまた、命の危機を感じた俺の体が咄嗟に最適な行動を取ったのか。それともその両方か。
俺の構えた銛は、俺の後ろの木を支えにして、イノシシに深々と刺さっていた。
もし、俺の力だけなら、イノシシの力によってフっ飛ばされてだろう。
「フゴッーーーー!!!!!」
そして、最後にひと鳴きしたイノシシは、体中に粒子のヒビを走らせ、砕け散っていった。
「た、助かった……」
その瞬間、緊張から解き放たれ、体中の力が一気に抜けた。腰に力が入らず、手足も震えている。俺は、しばらく、そこで呆然とジッとしているのだった。
放心状態から立ち直ったあと、俺は戦闘の後片付けをすることにした。
使った罠……枝落しを、もう一度仕掛け直し、投げた石を回収していく。
ちなみに、イノシシのドロップ品は、刃こぼれしている剣と、お肉だった。剣は刃こぼれしてはいるが、ナイフよりリーチが長いので、これまで以上に戦いやすくなるだろう。
お肉は、念願のという感じだが、手に入れるために、ここまでの戦闘をする、となると今後が不安になる。まぁ、このお肉は大事に食べさせてもらおう。
イノシシと戦闘したところは、大体片付けたので、次はウサギと戦闘した、落とし穴の場所へと俺は向かう。もちろん、道中、投げた石は回収していく。
「なんだこれ?」
ウサギとの戦闘場所を片付けていると、何やら怪しい葉っぱを見つけた。見た目は、ほうれん草の葉っぱのようである。先程、戦闘していた時には、おそらく無かったものなので、俺は、これがウサギからのドロップ品だと推測する。
「もしかしてだが、薬草か……?」
俺は、その葉っぱを拾い上げ、まじまじと観察する。
薬草なら、俺のこの傷も治るという事か。俺は、未だに粒子となっている、治っていないお腹の部分、一番大きな傷を見る。
薬草なら、食べるのか? それとも、この薬草を貼るとかか?
いや、まだ薬草と決まった訳ではない。普通の草かもしれないし、毒草の場合だってあるかもしれない。これは一度持ち帰って、実験したほうがいいだろう。食べるかどうか決めるのは、その後だな。
という事で、一旦保留だ。
それから、俺は石斧の残骸を片付け、落とし穴を確認する。
スコップは拠点に置いてきているので、落とし穴を作り直すのは後からであるが、俺は何故イノシシが嵌ったのかを確認することにした。
イノシシは雑食性と聞いた事はあるが、ヘビの肉なんか食べないと思ったからだ。
「うん……食われてないな」
案の定、落とし穴の中を確認してみても、仕掛けてあったヘビの肉は齧られてもいない。
「分からないな……」
これでは、イノシシがただ単純に運悪く、穴に嵌っただけという事になる。
まぁ、いっか。ただ罠に嵌ったというのもアリだろう。俺はあまり深く考えずに拠点へと戻ることにした。
「ふぅ……」
俺は拠点にある椅子代わりの岩に腰を下ろす。
今日は、今まで以上に厄日だった気がするが、一つ一つ反省していこう。
まず、火ネズミからだ。
今日戦った、火ネズミのうち一匹は、明らかに強い火ネズミだった。あの毛皮をドロップした奴だ。魔法を二連続で撃ってきただけでなく、追尾式の魔法の火まであった。これから、火ネズミと戦う時は、少し認識を改め、あの強さの火ネズミもいると思って戦った方がいいだろう。文字通り、窮鼠猫を噛むにはならなかったが、油断していたらやはり反撃を食らうこともあるのだ。
そして、ドロップした毛皮だが、本当に燃えないのだろうか?
火に入れて試してみるのもいいが、燃えるのならそのまま毛皮はなくなるしな。悩みどころだ。
「んーどうしようかな」
でも、どうせ、こんな小さい毛皮に使い道は無さそうだし、試しに燃やしてもいいのかもしれない。
と、俺はさっそく、竃の中に毛皮を入れた。
もちろん素手では、俺の手の方が燃えてしまうので、特製の木の枝菜箸である。枝を削って作ったものだ。
「おお!」
まじかよ。本当に燃えないのかよ。俺は、毛皮を火に入れてみて、改めて驚く。
うん。物理法則を無視してるね。
竃の中の火はメラメラと燃えているのに、そこにある毛皮にはいっさい燃え移らない。久々にファンタジーと感じる光景である。
ただ、使い道があると聞かれると無いのだが……。結局、使い道が見つかるまでは放置である。
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