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20 後始末とプロポーズは迅速に。

 後々になって知ったことだが、シャーメシル国境近くのあの城跡は、ロマンダリア国内では結構有名な史跡だったそうだ。

 

アランと十数頭のケーム達による一方的な蹂躙は、その場を古戦場から幽霊屋敷に変えてしまったらしい。


 それというのも、事件から2月経った今日でさえ、城跡から殺された犯罪者集団の断末魔の叫びが聞こえると、ホテル・ド・ロマンダリアのロビーではその話題で持ち切りだった。


 結局、クラス25名は全員磔の姿のまま官憲に身柄を確保され、この後厳しい取り調べと容赦ない極刑が待っていたし、ハミルタ187名の9割以上に当たる179名はケーム達の胃袋に収まって、未だに行方不明の扱いだった。


 残るトライス達716名の多くは国境を破ってシャーメシルに逃亡を図ったものの、折からの反攻作戦に備えて準備中だった狼人族の民兵1個大隊2.000名の襲撃を真正面から受ける形になって、あえなく全滅した。


 狼人族の民兵の司令官は、知らぬこととはいえ隣国の国民、しかも民間人を700名以上殺害したことは慙愧に堪えないとスポークスマンを通じて声明を発表したが、却ってロマンダリア外務省から感謝状が届けられたことに驚きを隠せない様子だったと伝えられた。


 残された暁の花園の末端構成員、いわゆる下っ端達は、自分たちのボスについて幹部会の護衛に行った者たちを除いて、1万人を超える人数がそれぞれのボスの縄張りに巣食うようにロマンダリア国内のあちこちに潜んでいた。


 彼らの中には、ボスからの締め付けが無くなったと気付いたその日から、町中で好き勝手に暴れ出す者もいたが、主のいない暁の花園の本部を急襲した陸軍精鋭部隊による徹底的な捜索の結果、組織内の支配関係がすべて暴露されて、最末端のチンピラに至るまでその動向が軍の監視下に置かれたため、町中で暴れた者は全員逮捕された。


 暁の花園の構成員が逮捕されると、二度と日の目を見ることのない炭鉱奴隷として掘削作業の最先端に送り込まれるという噂が意図的にバラ撒かれたことで、事態は一応の鎮静化の様相を見せ始めた。









 陸軍精鋭部隊の行動と時を同じくして、アランはケニー達を使って暁の花園の内部抗争に敗れて引退したハミルタを探し出してこれと接触し、組織内の極秘連絡網を掌握した。


 接触の方法は、もちろん穏やかな話し合いだった訳ではないし、情報の提供も進んで行われたものではなかったことは言うまでもなく、アランが必要な情報を男から引き出した後は、隠れ家に一人の廃人が寝かされていたそうである。


 あくまでも、噂の範囲内ではあるけれど・・・。


 その結果、末端のチンピラで更生の意思がある者たちを、正業に就ける作業を開始することが出来るようになった。


 一方、官憲の手から逃げ切って来た経験から、今回も地下に潜伏してやり過ごそうと考えた一握りの者たちは、自分の愚かさを悔いることになったが、その原因がアランの騎乗であるガルーダ率いるケームの集団であったことは知られていない。


 他の末端構成員と接触を図ろうと隠れて町に出たつもりのヤツらの前に、必ずケームが現れその嘴に捕えてアランの前に引き出されることが繰り返された。


 結果として全員が全員、その恐怖を脳内に刷り込まれて、アランの命令に従順に従うことになった。


 その秘訣を問いかけたロマンダリア政府の要人に対して、アランが答えた言葉はただ一言、


「あ、ケームだ!」


であった。


 暁の花園の後始末は、末端構成員達の更生活動と資金面の洗い出しが終わった後、最終的に国家に任されることになったが、その際アランは


  『救国の英雄』

 

という称号を授与されてしまった。




    これで3つめの称号をゲットしちゃったよ。



    もう要らないって、こんなの・・・。




 アランは本気で迷惑だと思っていたし、返上したいと何度も訴えたが、今のところ聞き入れられる様子はなかった。









 結果的に2月もの間、ホテル・ド・ロマンダリアで生活することを余儀なくされていたアランだったが、それは同時にカルアとの蜜月でもあった。


 今でこそ二人で町を歩いても、その必要がある時には、ごく自然に腕を組む姿勢が取れるようになったが、当初はあまりにぎこちなくて、周りで見ているホテルの従業員はまだしも、特にカリンとシャナには笑いのツボに嵌ったらしく、顔を合わせるたびにお腹を押さえて笑い崩れるので、対人恐怖症に成りかけたほどだった。


 ある程度の時間の経過は、アランとカルアに精神的な余裕を齎してくれたし、カリンのカルアへのアドバイスが功を奏した結果、二人並んで歩いても違和感を覚えることは無くなった。


 そんなある日、いつも通り先に目覚めたカルアが甲斐甲斐しくアランの服装を用意していると、彼女専属の従業員が


「アラン・リード様はお目覚めでいらっしゃいますでしょうか?」


と部屋にやって来た。


「まだ寝ていらっしゃるわ。何か御用があればお伺いしておきますけど」


と答えたカルアに、


「それでは、ご用意が整いました、とお伝え下さい」


とだけ言って去って行った。


 毎日決まった時間に朝食を部屋まで運んでくれている従業員が、今日も定刻にワゴンを押して来たので、それを受け取ったカルアが寝室へ行くと、目覚めたばかりのアランがベッドの中で欠伸をしていた。


「おはようございます。朝食の時間ですよ、だんな様」


 カルアはアランにそう呼びかけた。









 アランは『だんな様』という呼び方を何度も矯正しようとしたが、カルアは頑なに、


「だんな様は、あたしの命の恩人です。たとえ、この身がだんな様のお情けを頂戴することになったとしても、あたしはこのご恩を忘れません」


と言って聞こうとしなかった。


 結局、カルアの意志の固さにアランが折れた訳だが、初めて唇を重ねた日からカルアのアランに対する態度は些かも変わらず、常に一歩下がってアランを前に立てるように徹していた。









 アランは、おはようと挨拶してそのまま洗面所へ入って行ったが、真新しいタオルを持ってそれに続いたカルアは、先ほどの専属従業員の言葉をそのままアランの背中に伝えた。


「用意が整いましたってミーアさんが言ってましたけど、それだけで分かりますか、だんな様」


「うん、分かった。」


と答えたアランは、何事もないように顔を洗い、カルアからタオルを受け取って顔を拭いた後、朝食の席に着いた。









 朝食後、出かけるためにショルダーバッグを肩に掛けたアランは、カルアに


「ついて来て」


とだけ言った。


 急いで外出の支度を終えたカルアが彼について行くと、ホテルのフロントでマネージャーに話しかけたアランの言葉が耳に入った。


「何処にいるの?」


「奥の会議室に待たせてあります」


「そう、ありがとう」


「私も、そういう習慣は聞いたことがございませんでした」


「まぁ、ボクの田舎の慣習だからね、一般的じゃないだろうとは思っていたよ」


「では、ご案内申し上げます」


と言ってマネージャーは二人を小さな会議室へと誘った。


 部屋の中には中年の女性が姿勢よく座っていたが、アランの姿を見ると立ち上がって挨拶してきた。


「初めてお目にかかります、ロイアント商会のメル・ガリバンデと申します。この度は当方をご指名いただきましてありがとうございます」


「お手数をお掛けしますが、よろしくお願いします、メルさん」


 メルは、アランの後ろに控えていたカルアの方を向いて、軽く会釈すると、


「こちらが奥様ですか?」


と訊いてきたので、カルアは驚いて言葉を失った。


 何も言えないカルアを案じたアランが、


「そうですよ。なかなかの美形でしょ。自慢の家内なんですよ」


と答えるのを聞いてカルアの顔が真っ赤に染まった。









 メル・ガリバンデはロマンダリアで最高の技術を誇る宝飾店の店長だった。

彼女は、長くこの仕事に携わってきたが、夫が新たに妻にする女性に指輪を贈るという話は聞いたことがなかった。


 元来指輪というものは権威の象徴であり、権力者が自分の威勢を誇示する目的で高価な宝石を加工したものを、儀式の折に指に嵌めて使用するアイテムであって、決して一般の女性が身に付けるものではないというのが、獣人族一般の共通認識であった。


 しかしながら、発注者であるアランには既に3つの称号が授与されており、ランダリウムを統治するキンゼイ・フォン・ランダリウム男爵よりも既に格が上であったから、アラン本人が購入する分には何ら疑問の余地はなかったが、妻の指のサイズを計ってくれと言われた時は、何のことだか理解が付きかねたのだ。


 権威の象徴であり、富の象徴でもある指輪は、代々その家に受け継がれていく宝物であり、指にリングの径を合わせるのではなく、本来はリングの径に見合った指に嵌めるものである。


 一国の女王ででもあるなら、その女性の指に合わせたリングを誂えることは一般的ではないにしろ、考えられないことではかったが、庶民の女性の指のサイズに合わせたリングを誂えるなど想像すらしたことがない事態だった


 詳しい話を聞いてようやくこの話を受けたのだが、アランの指定した宝石とそのサイズにまたもや魂消ることになった。


 ミスリルの指輪に親指大の金剛石を飾ったものが欲しいとの希望に、恐る恐る見積額を提出すると、その日のうちに全額が狩人互助組合を経由して払い込まれていたので、息が止まりそうな思いであった。


 その額、なんと3.000リュアンである。


 ここランダリウムでは、男爵の豪邸が3つも買えるほどの金額である。


 そんな金額をポンと出せる者が、こんな田舎町にいるとは到底思えなかったが、発注者は救国の英雄である。


 変わったことをしたとして、誰が文句を付けるのか、と勝手に納得することにした。


 で、今日である。


 救国の英雄の妻となる女性は、同性の自分が見てもとても美しい女性だった。


 こんなに美しい女性が現実にいるとは到底思えなかったが、眼の前に立つその姿は同性として見ても、嫉妬さえ感じなかった。


 美しさに格があるなどとは考えたくもなかったが、カルアという女性の美しさは自分に諦めに似た感動さえもたらしたほどであった。


そして、彼女の容姿なら指輪にも負けないだろうと確信した









 突然左手の薬指のサイズを計られたカルアは、次にホテルを出てランダリウム政庁舎へと連れて行かれた。


 そしてそこで、ロマンダリア救国の英雄の妻となることの責任の重さを痛感した。


 カルアの眼の前には、10.000人以上の新生『暁の花園』のメンバー達が居並んで、全員がカルアとアランに祝福の言葉を投げかけてきた。


 この場に居る全員が、自分の『だんな様』の手足であり、ロマンダリア再興の鍵となる人間たちだと再認識したところで、堪えていたものが溢れ出してしまった。


 そこに、アランのとどめの一言が襲いかかった。


「カルアの名前は、今日からカルア・ソネット・リードだよ、いいね」









 こうしてロマンダリアの救国の英雄の花嫁のお披露目が済んだ。


 そして、数日後指輪を受け取ったアランとカルアは、犬人族の国カスマンドへと旅立つことになる。



















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