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19 鬼退治にはグリフォンを使うに限ります。

 ホテルを出て昼間のスラムっぽい町に歩いてきたアランは、ガルーダを呼び出した。


 闇の中から現れたグリフォンの姿は、スラムの道端で今夜の塒を求めてうろついていたホームレス達の度肝を抜いてしまったらしく、あちこちでドタバタと駆け出す足音が響いた。


 


    お休み中申し訳なかったけど、ケガしてもつまんないからね。



    また今度どこかで会えたら、その時はきっと埋め合わせするからね。



    さて、ガルーダ。


  

    これから暁の花園っていうバカを始末しに行くんだけどさぁ。



    この先にある壊れかけた城跡まで連れて行ってくれるかい。




 ガルーダに跨って闇の中を飛んで行くと、小高い丘の上に聳える傾いた城跡が見えてきた。


 全体の輪郭からそれが城跡だと推測されるというだけで、人間の眼では詳細がハッキリ分からない。


 困ったときは魔法の水、とばかりにアランはバッグからペットボトルを取り出して、




    真っ暗でも見える目があればいいのに。




と念じながらミネラルウォーターを一口飲んだ。


 一瞬、眩暈にも似た感覚が襲ってきたが、それをやり過ごした後に目を開けると、昼間にモノを見るのと同じように崩れかけた城跡の全貌が見て取れた。




    もう、ここまで来るとツッコミ入れた方が負けだね。



    チートは正義だ!



    ・・・・・・・・きっと。


 

    この際だし、もっとチートしちゃおうかな。



    連射式の弩があればいいのに!



 そう念じてまたペットボトルに口を付けて、中身を呷ってからバッグに手を突っ込んで、『連射式の弩!』と呟くと、バッグに突っ込んだ手が何かを掴んだ感触があった。


 バッグから出して暗闇でもハッキリ見える目で確認すると、6サスンほどの厚みの回転式シリンダーを付けた全長3サシャほどの弩を掴んでいた。


 ちなみに、サシャというのは長さの単位で、1サケンの6分の1の長さ。


 サスンはサシャの10分の1の長さになる。


 なぜそんなことが分かるのかはアラン自身にも理解できないが・・・。






 取り出した弩を見ると、本体には3本のガイドレールが彫られていて、一度に3本の矢が射られるようになっていた。


 肝心の矢の方は、6サスンのマガジンラックに納まる長さの、恐らく5サスンほどの矢というよりはボルトと言った方が良いようなモノが収まっているらしい。


 引き金を引くことでガイドレールに装填してあったボルトが飛び出すと同時に、マガジンラックが回転して次弾が自動的に装填されて、もう一度引き鉄を引くことで弦を張る仕組みになっているらしい。


 ・・・らしいというのは、詳しいメカニズムは分からないものの、アランが欲しいと願ったものがそのまま具現化するというチートならではの仕様だから、というしかない。


 試しに一発撃ってみると、ガイドレールはそれぞれ1度ほどずつ角度が付けて彫り込まれているらしく、ボルトが飛び出すと同時に距離に比例して各々が左右に広がって飛んで行った。




    便利っちゃ便利なんだけどなぁ。



    慣れないとてんで当たらないことも有るってことだよね。



    弾幕張るみたいに連射すれば欠点は補えるってことで・・・。



    ヘタな鉄砲も数撃ちゃ当たる方式でいくしかないね。









 丘の上の廃城へと向かう登り道の手前でガルーダから降りたアランは、夜陰に紛れて木々の中を門に向かって一気に走った。


 ペットボトルの中のミネラルウォーターの魔法の水効果は凄まじく、自分の動きが尋常ではない速さだと認識したときには、既に5サケンほどの高さの崩れかけた石壁を跨ぐように飛び越えていた。


 かなりの数の見張りの下っ端たちが門の周辺を固めていたが、真っ暗闇の中を目にも留まらぬ速さで駆け抜けて、あまつさえ5サケンの高さの壁を一気に越えるアランの姿に気付く者は一人も居なかった。


 暗闇の中にあってアランの視界は、そこに潜む見張りの姿をすべて明確に認識できたので、混乱を誘発するように弩を発射した。


 撃ち出されたボルトは狙い違わず一定の距離を開けて立っていた3人の下っ端の胸に消えて行った。




    スゲっ!



    威力も半端じゃないね、コレ。




 一度撃った後はダッシュで別の方向に回り込み、そこでもまたボルトを下っ端の胸に食い込ませ、そういう行動を数度繰り返した後、崩れかけた城の建物の屋根に飛び上ったアランは、思惑通り複数の襲撃者が入り込んだと勘違いして混乱に陥っている庭に向かって、尚も数度引鉄を引いた。


 まったく別の場所で、ほぼ同時に上がるうめき声に、見張り達はパニックを起こして我先にと逃げ出し始めた。


 全くの暗闇の中で恐慌状態に陥った人間は、前から来る者であろうと横から来る者であろうと、構わずに攻撃を仕掛けたために、城の前庭は仲間同士の殺し合いの場と化してしまった。


 騒ぎに気付いた、門周辺を固めていた下っ端どもが何事かと駆けつけた時には、あちらこちらで凄惨な殺し合いが展開していて、状況がまったく把握できていない者にとっては、それが同士討ちだとは皆目理解できずに、敵襲だと勘違いして手当たり次第に誰彼構わず攻撃の対象とした。

 



    あとは好きに殺しあっててね。



    じゃ、ボクも忙しいから先に行くよ。




 眼下の光景に眉ひとつ動かさずそう呟いて、アランは城の中に消えて行った。

 







 数分後、幹部会と称する威勢の張り合いの場は、25人の獣人たちを磔のように壁に両手両足をボルトで縫い留めた部屋の中で、アランだけがそこにあった酒を飲みながら一人また一人と幹部たちの意識を刈り取っていた。




    さて、クラスの始末はついたから、次はハミルタの番だね。



    ここは台本通りヤツらをシャーメシルの方へ追い出すとしますか。




 幹部会の行われていた部屋の下の階にある大ホールでは、何も気づかないハミルタ達が盛大なドンチャン騒ぎを繰り広げていた。


 彼らは庭で起こった同士討ちの騒ぎにも気づかず、上の部屋で行われた磔の儀式にも気づかず、ただただ3年に一度の幹部会に招集されたボスにくっ付いてきたご褒美にと、自分たちで用意した酒と食い物と女と博打に興じていた。

 

 上には上の考えがあるだろうが、オレ達ぁその日その場が面白ければそれでいい、とみんな思っていた。


 そのうちクラスの誰かが欠ければ、オレ達の誰かが上に上がるチャンスだから、その時はこの場で一緒に騒いでいる全員が自分の敵だ。


 みんな同じことを考えていた。


 そして、今日は享楽に耽ろうと思っていた。


 そこに、前庭での殺し合いを生き延びたチンピラが一人、血だらけの姿で飛び込んできた。


「敵だ! 何人居やがるか分からねぇが敵襲だ!」


 とだけ叫んでその場に倒れた男の言葉に、


「何酒くらって血迷ってやがるんだ、バカめ」


 と誰かが吐き捨てたが、その時開きっぱなしだったドアの隙間からアランがそのスピードを十分に活かして入り込んだことに気付いた者は、別の女にちょっかいを出そうとしてたまたまドアの方に目を向けた若いハミルタ一人しか居なかった。


「なんだ、今のは?」


 目の錯覚かと思って頭を振った男が顔を上げた時、眼の前に一人の男が立っていた。


「へぇ、ボクの姿が見えたんだ。惜しいね・・・」


 と呟いたのを聞いて、ハミルタの意識が飛んだ。




    ガルーダ、出番だよ。




 誰にも聞こえないような小さな呟きは、しかし天空の覇者ケームには届いていた。


 城に上る道の手前でアランと別れたガルーダは、ケームだけに聞こえる特殊な鳴き声で仲間を集めていた。


 『エサがあるぞ』


 『遊べるぞ』


 『早く来いよ』


 おそらくそんなことを呼び掛けたのだろう。


 ゴドリック大陸南部各地に居た野生のケームたちが十数頭ガルーダの周りにやって来た。


 『エサはどこにある』


 『何して遊ぶんだ』


 野生のケームたちの先頭に立ったガルーダは、

 

 『こっちだ』


というように飛び立ち、古城の上まで来ると、


 『ここだ!』


と言うかのように、ハミルタ達が集まる大広間の窓をブチ破って中に飛び込んだ。


 それを見た他のケーム達も遅れまいとして、大広間の窓と言う窓から次々に中に飛び込んで行った。


 大広間に居た200人を超える娼婦達は、壁際にかたまって眼前に繰り広げられている光景を身動き一つ出来ずに見つめていた。


 ケーム達は、窓を破って部屋に突入するや否や、手近に居た者を嘴にかけ前肢の爪にかけ、手当たり次第に食い散らかし始めた。


 段々と大広間の奥へと近づいて来るケーム達が叫び声を上げて羽ばたきを繰り返した大音響に、初めて彼らの呪縛が解かれて阿鼻叫喚の大騒ぎになった。


 次は自分の番かもしれないという恐怖が、逃走のための第一歩を踏み出させたが、それは眼の前にいる者を誰彼かまわず突き倒し蹴り倒しして、我先にと出口に向かって走り出すことだった。


 突き飛ばされて床を舐めた者は、次の瞬間誰のものとも知れない足に蹂躙されて屍となっていった。


 しかし、這う這うの体で前庭まで辿り着いたハミルタ達を待っていたのは、仲間同士で殺しあう部下たちの殺意だった。


 真っ暗闇の中で殺し合いを繰り広げていた男たちには、最早正気を保っている者はおらず、目に入った者すべてを反射的に攻撃する殺戮マシンに成り果てていた。


 その場の異常さに気が付き、自分の部下の顔を見つけたハミルタの一人は声を掛けようとしたところを短刀で刺されて即死した。


 あちらこちらでそんな光景が果てしなく繰り返されていく中で、城の大屋根の上で全体の動きを見ていたアランは、背中にイヤな汗をかいていた。




    あららぁ・・・。



    筋書きとちょこっと違うんだけど、いいのかなぁ・・・。



    まぁ、こいつらはどうせ滅びる運命だし。



    早いか遅いかだけのことだもんね。









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