第8話:これ以上、悪くなりようがない。
その重苦しい嘲笑を孕んだ視線と交錯する前に、背筋に冷たい戦慄が走った。
「あら、こんにちは。この前の話し合いから数日経ったけれど、あなたの部活の新入部員の入部届は、まだ1枚も届いていないようね」
(……あー。嫌な奴の言うことが正論の時って、本当に腹が立つな)
「現実逃避でぼんやりしてたわけじゃないです」
「あら? じゃあ、窓の外をあんな間抜けな顔で見つめて、一体何をしていたのかしら?」
「先生の言っていることが間違っているって証明する方法を、あれこれ考えていたんですよ」
「ハッ! そんな日が来るといいわね」
「ええ、来ますよ。まさに今日、ね」
彼女は笑うのを止め、僕の目を真っ直ぐに見据えてきた。
「どういう意味かしら?」
僕は窓の外に目をやったが、女子生徒のグループはすでに姿を消していた。
「教えてあげますけど、僕が窓の外を見ていたのは、うちの部員が新しい部員の候補をたくさん集めているところを『たった今』目撃したからですよ」
彼女は目を細めて僕を睨みつけた。
「どうしてそんなに自信満々に言い切れるのかしら?」
「さぁ、確信がありますから」
(いや、全く確信なんてないけど……ここはハッタリで乗り切るしかない。ユキノを信じるんだ。彼女は責任感のある部員だからな)
「ふん、その可愛い彼女にいいように転がされないことね」
僕は顔を真っ赤にした。
「彼女は……! 彼女は演劇部の熱心な部員です! 新しい部員を見つけてくるって僕に言ってくれました。それに、さっきその新しい候補たちと合流しているのを僕の目で見たんです!」
「ふん。まぁ、あなたのために、それが本当であることを祈るわね。その可愛い彼女に、また裏切られてがっかりさせられないよう、せいぜい神様に祈ることね……」
そう言い残すと、彼女は翻って去っていった。
彼女の悪意に満ちた警告は、廊下の真ん中にひどく重苦しく、不快な予感を漂わせた。その最後のフレーズを妙に強調した言い方は、僕の知らないユキノの過去に関する情報を、彼女が握っていることを匂わせていた。
(どういう意味だ……? 部活が始まるまであと15分くらいか)
僕の思考は再びユキノとあの女子生徒たちのグループへと戻った。
(それにしても、ユキノは一体何をしているんだろ? 本当に新しい部員を勧誘できたのかな? 様子を見に行って、大丈夫か確かめた方が良さそうだ)
僕は他の部室の脇を通り抜けながら、廊下を進んだ。
(部活のためにも、本当に新しい部員であってくれよ……。もしかしたら、後でその新入部員たちを部室に連れてきて、僕を驚かせるつもりなのかもしれない! 新入部員の入部届の山を抱えて部屋に入った時の、あの先生の顔を見るのが今から待ち遠しいよ!)
胸が高鳴るのを感じる。そのまま廊下を突き進んでいると、また別の光景が僕の目を引いた。
(あ……イチカだ!)
イチカが書類の山を抱えて廊話を歩いている。僕は思わず足を止めた。前回の彼女とのやり取りを思い出し、胸にチクリと痛みが走る。
(この前のこと、もう一度ちゃんと謝るべきかな……)
まさにその時――
「イチカ、待って!」
「え?」
僕が振り返ると、イチカの後ろの教室から別の男子生徒が出てくるのが見えた。彼もまた書類の山を抱え、ぎこちない足取りで走っている。
「待ってくれよ!」
「あ! あはは、ごめん!」
彼女は声を立てて笑い、笑みを浮かべた。
(イチカが……笑った? 一体誰なんだ、あいつは!? なんだって!?)
突如として、ユキノのことは後回しでもいいような気がしてきた。
(彼女は他の女の子たちと一緒にいたんだから、きっと大丈夫だろ。それより……どうする? あぁ……いや、そんなことできるわけない。あいつはきっと、ただの同じ部活のメンバーだ。それに、ここで見つかってイチカに今以上嫌われるわけにはいかない)
僕は角に身を隠し、様子を窺った。
(二人はどこへ行くんだ?)
歩いていく二人の姿を視線で追いかける。距離が離れすぎていて、何を話しているのかまでは聞き取れない。
しかし、その男子生徒は笑顔を浮かべながら、イチカのために階段のドアを開けて待ってあげていた。
(クソッ、何も聞こえないし見えないな。まぁ……二人とも両手に大きな書類の山を抱えていたんだ。きっと学校の作業か、部活の用事か何かをやってるだけだよな……)
余計なことを考えまいと頭を振る。
(はぁ……)まぁ、どっちにしろ、今の僕にはもっと大きな問題が山積みだ。
さっき先生が言った言葉が、頭の片隅にこびりついて離れない。
(僕の部活を……『僕たち』の部活を救うための猶予は、本当にあと数日しか残されていないんだ……)
イチカのためにも、この部活を絶対に維持しなければならない理由を思い出す。イチカのことは、後でちゃんと心配することにしよう。よし、どこまで考えてたっけ? あぁ、そうだ……ユキノとあの女の子たちだ。
思考を立て直し、僕は再びユキノと女子生徒たちが向かった場所へと足を向けた。
(一体どこの誰なんだろう、あの女の子たちは。新しい部員の候補かな? もしそうなら、よくやったよ、ユキノ!)
少なくとも3人はいたから、もし全員が入部に同意してくれれば、僕たちの問題は完全に解決する! 急いで行って彼女にお礼を言い、新しい部員たちを歓迎しなければ!
ユキノのことを考えると、急に気分が明るくなり、足取りが軽くなった。僕はウキウキしながら、ユキノたちの姿が消えた場所へと急いだ。
校舎の外に出ると、彼女たちの話し声がする方へと向かった。
(あ、あっちに行ったんだな!)
僕は歩幅を緩め、身を隠せる場所を探した。彼女たちを驚かせたり、話の邪魔をしたりしたくはなかった。身を潜めて、彼女たちが出てくるのを静かに待つべきだ。
角を曲がり、校舎の脇にあるゴミ集積所の方へとゆっくり近づいていく。
(ここからなら、あっちから僕の姿は見えない。何を話しているのかまではよく聞き取れないけど……ユキノが最初の新入部員を勧誘する瞬間を見られると思うと、すごくワクワクするな!)
見つからないように、さらに少し身を屈める。
(ゴミ箱の後ろに隠れて女の子たちを覗き見するなんて、なんだかちょっと変質者みたいだな……)
そんなことを考えて、僕は気恥ずかしそうに苦笑した。
「痛っ!!」
彼女の悲鳴に、僕は飛び上がった。
「っ!?」
(一体何が……? 今、あの女の子……彼女を叩いたのか!?)
身動きもできず、僕はあんぐりと口を開けたまま立ち尽くし、二人目の女の子が素早いビンタでユキノの頬を捉え、彼女を地面に倒し込むのを目撃した。
(ユキノ!? 一体今、僕は部活の何を目の当たりにしたんだ? なんで喧嘩なんてしてるんだ? どうする!? 助けを呼ばないと! でも、覗き見していたことがバレるから、自分から飛び出すわけにはいかない! 落ち着け、考えろ、考えるんだ……)
「ちょっと、あんた!」
僕はバランスを崩し、背中から地面にひっくり返った。
(クソッ、見つかった!)
勢いよく首を回す。一人の影が僕を見下ろすように立っていた。ゆっくりと視線を上げると、その人物と目が合った。
「サキ……」
(一体全体、なんでお前がこんなところにいるんだ?)
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