第7話:首を突っ込む、僕の悪い癖。
何が原因かも分からないまま、言い争う2人の友人を目にして、突然の罪悪感が胸を刺した。
(でも、これがユキノが部室に戻ってこなかった理由なのかな? だからサキに声をかけるのを躊躇ていたんだろ?)
「私がそんなバカげた部活に入るわけないって、本当に思ってるの? 分からないかしら!? 私みたいな人間はもっと上の世界に行くべきなのよ! だからダンス部に入ったのよ、お嬢さん!」
「 crumbs……私たちの夢はどうなっちゃうの?」
「過去の幻を引っ張り出すのはやめなさい。子供っぽいわよ」
「でも……私はあなたのためにここに入ったの! 私たちの夢、一度だって忘れたことはないよ……過去にすれ違いがあったのは分かってる……。でも、もういいの! あの日、あなたが私を置き去りにしたかったわけじゃないって知ってるから!」
「置き去り? お嬢さん、私はあなたの最善の利益を考えてあげたのよ……もちろん、私自身のこともね」
「局、それは過去のことだよ……許すよ、サキ。ただ、昔みたいに戻りたいだけなの。子供の頃みたいに、また私たちの希望や夢について話したい……。あなたが主役を演じて、私がその衣装を全部デザインするの……」
破られた約束の破片に必死にしがみつくユキノの声が、細かく震え始めた。
部活のためにそこまで自分を貶める彼女の姿を見て、僕の喉の奥に苦い塊が込み上げてきた。
「妄想もいい加減にしなさい。ずっと口もきいてなかったのに、今更何よ? そのバカげた部活の数合わせに必死なのは分かるけど、私はお断り。私には追いかけるべき本当の未来があるの! 有名になりたいのよ!」
サキのこんな一面は、一度も見たことがなかった。
彼女の言葉はユキノを傷つけただけでなく、部活に残された最後の希望を踏みにじった。
(2人が友達だったなんて知らなかった。すれ違いがあったことも、もちろん。すごく胸が痛むけど……見つかる前にここを離れるべきかな……どうしよう? いや……ダメだ、ここで見つかるわけにはいかない……。次に会ったとき、きっとユキノが何があったか話してくれるはずだ……)
足早に立ち去ろうとする僕の耳に、なおも2人の言い争う声が届く。
「私が言いたいのはね、もっと自分に見合ったレベルの友達を探すべきだってことよ。私はいつか有名になるんだからね? オタクの集団と一緒にいるところなんて見られるわけにはいかないの」
「オタク……?」
「そこそこイケメンでも混ぜてくれたら、その時は考えてあげてもいいわ。じゃあね!」
(うわ、やばい、こっちに来る!?)
僕は慌てて隣の部屋の入り口へと身を隠した。サキは勝ち誇ったように顔を高く上げ、正面のドアから出ていく。
(あいつがあそこまで傲慢で助かった、じゃなきゃ絶対に見つかってた……)
ユキノはまだそこに立ち尽くしている。
(見つかるわけにはいかない……本当に、もうここを離れるべきだ……)
僕は静かに体を起こし、後退し始めた。
「……」
――ガシャーンッ!!
「っ!?!?!?」
後ろに下がった拍子に掃除用のバケツに激突し、モップが掃除用具の缶の山へとけたたましく崩れ落ちた。
その凄まじい大音響が、静まり返った学校の廊下の静寂を完全に打ち砕いた。床を転がる缶の音が、僕の無様な隠れ家が完全に露呈したことを告げていた。
(クソッ!! 学校中に行き渡るような音だぞこれ!! どうする!? 早くここから逃げないと!)
逃げ出そうとしたまさにその瞬間――
バタンッ!!
ドアが勢いよく開いた。
「……」
(嘘だろ……ユキノ……)
彼女は潤んだ瞳で僕をじっと見つめていた。その顔には、驚きと深い羞恥心が入り混じった表情が浮かんでいる。
彼女の屈辱の瞬間を目撃してしまったことで、二人の間には息が詰まるほど重苦しい空気が立ち込めた。
(やっべえええ!!)
僕はユキノと真正面から向き合ったまま、その場に凍りついた。
「あ、いや……これは君の思っているようなことじゃなくて!」
「君の思っていることって……私を覗き見してた、ってこと?」
「そう! いや、違う! 覗き見なんてしてないよ! 本当に!」
「……」
「あのさ……ただ君を探して歩いてたんだ。君の声が聞こえたからここに来たんだけど……その……ドアをノックする前に、ちょっと事故が起きちゃって……」
「……」
「もう、いいよ」
(絶対に信じてない。でも、だからといって事実が変わるわけじゃない……僕は見てしまったんだ)
彼女の生気を失った暗い眼差しは、心の防壁が完全に崩壊していることを物語っていた。これほど脆い姿を見られてしまったという重圧が、二人の間に気まずく漂う。
(彼女は見つかったって分かってる……。話を聞くべきか? いや、絶対に無理だ、そんなこと聞けない。余計な首を突っ込むのはやめよう――)
「レンジくん!」
「っ!?」
「ごめんなさい!」
「え? なんでユキノが謝るの?」
「私……ダメだった……」
「何が?」
「私……友達を、勧誘できなかった……」
「あぁ……」
(結局、自分から話してくれるんだな)
「ユキノ……いいんだよ、気にしてないから」
「見た、よね……? さっき部屋から出ていった女の子」
消え入りそうな細い声で発せられたその質問には、拒絶されることへの深い恐怖が滲んでいた。床に落とされた彼女の視線は、自分の痛みがすべて晒されてしまったのかという恐怖と共に、僕の答えを待っていた。
「あぁ……サキのこと?」
「そっか……彼女のこと、知ってるんだね……」
「うん、クラスメイトだからね。彼女、何用だったの?」
「その……彼女が、前に話してた友達なの……」
(え!? じゃあサキが、ユキノの言ってた幼馴染の友達なのか?)
大切な幼馴染が、つい数分前に彼女を容赦なく踏みにじった張本人であるという事実が、この状況を何倍も痛々しいものにしていた。
「あ、じゃあ、勧誘したかった友達って彼女のこと?」
「うん……でも、レンジくんも気づいてる通り……」
彼女は一度言葉を切り、再びため息をついた。
「断られちゃった」
「そっか……残念だったね。でも、大丈夫だよ」
僕は次の言葉が見つからず、少し沈黙した。
実際のところ、全然大丈夫なんかじゃない。少なくとも部活にとっては。でも、そんなこと彼女には言えなかった。今にも泣き出しそうな顔をしているんだから。
けれど、彼女が落ち込んでいる理由は、単に勧誘に失敗したということだけではないような気がしてならなかった。
「……ユキノ、大丈夫?」
彼女は両手で顔を覆い、後ろを向いてしまった。
「うん、大丈夫だよ」
その声は震えていた。
背を向けたまま細い肩を震わせる彼女の姿を見て、僕の胸の奥に深い無力感が突き刺さった。
(大丈夫なわけないだろ、ユキノ……明らかにひどく傷ついてる。彼女のこんな悲しそうな姿なんて見たくないよ……すごく繊細な子なんだ。僕にできることが何かあればいいのに)
何もできないまま、僕はただ見つめることしかできなかった。
(自分が最低な友達に思えてくるな……)
「レンジくん……」
「ん?」
「……ありがとう」
「え?」
「レンジくんは優しいね。私のこと、笑わないでくれてありがとう」
「あ、いや、僕は……その、どういたしまして」
僕は沈黙を保ち、彼女が落ち着くのを待った。とても繊細だけど、根は本当に優しくて純粋な女の子なのだ。
急に現実へと引き戻される。僕たちは落胆を胸に部室へと戻った。どれだけ全力を尽くそうとも、依然として人数が足りないという厳然たる事実は変わらない。
そうだ、僕たちにはまだ解決すべき問題がある。アイデアも底をつきかけていた。
彼女がため息を漏らす。
「とにかく、ごめんなさい……」
「え?」
「本当のことを言うとね……もう何もアイデアが浮かばないの」
「あぁ、いや……いいんだよ、気にしてない」
(僕の心を読んだのか?)
「まだ時間は残されてるんだからさ……もう少しだけ考えてみよう。僕だって、あと1人か2人くらいは心当たりを絞り出せると思うし……」
(実際は全くそんな心当たりなんてないんだけど……)
「うん……そうだね。今日はもう終わりにしよっか。どっちにしろ、もう遅いし」
「そうだね……」
彼女は再びため息をついた。
「ねぇ……私も何か考えてみるから、ね? 思いついたらすぐに連絡する。だからレンジくんは、その……台本を描き続けて」
「お、おう!」
彼女は今度は、瞳を輝かせて僕を見た。
「うん! 分かった! 未来の新入部員のためにね」
「そう! 頑張ろう」
僕たちは笑顔で手を振って別れた。しかし心の奥底では、あの不愉快な先生の脅迫めいた声が耳の奥でリフレインし、この先どうすべきかという葛藤に囚われ続けていた。
(一体どうすればいいんだ?)
✩
ユキノとサキの事件から数日が経過した。今のところ、僕たちの状況に何一つ進展は見られない。
✩
(今日は部活の件でユキノと合流する予定だけど……未だに新しく入ってくれそうな人を1人も見つけられてないな……)
僕は部室へ向かう前に、荷物をまとめるために一度教室へと戻った。
「あれ?」
廊下の大きな窓の脇を通り過ぎようとした時、ふとある光景が目に留まった。
女子生徒のグループが、校舎の裏手へとコソコソと移動している。様子をよく確かめるため、僕は窓の外を覗き込んだ。
学園の中庭が作り出す影の中に、見覚えのある髪型のシルエットが際立っていた。彼女たちのその異様なまでの警戒ぶりは、校則とはおよそかけ離れた何かを企んでいることを如実に物語っている。
(今のって……ユキノ? おかしいな。なんでユキノが校舎の裏になんて忍び込んでるんだろ? それに、一緒にいる他の女の子たちは誰だ? もしかして……ついに新しい部員を見つけてくれたのかな?)
「窓の外を見て現実逃避する時間があるなら、当然その閉鎖届の書類は書き終わっているのでしょうね」
背後から、低く冷ややかな声が呟いた。
(うわ、最悪だ……またあいつかよ……)
僕は恐る恐る振り返り、あの演劇部を目の敵にする嫌味な先生の、脅すような笑みと正面から対峙した。
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