第6話:優しい嘘は、いつも高くつく。
(僕は彼女に何をしたっていうんだ……彼女に対して悪気があったことなんて一度もなかったのに)
彼女の心がこんな風に不幸にも離れてしまう前、僕たちがどれほど素晴らしい友人同士だったかは今でもよく覚えている……。
そして次の瞬間、すべての記憶が堰を切ったように僕の頭の中に流れ込んできた。意識の底に封印していた、あの夜の光景。
そして、彼女が僕を憎んでいる本当の理由。僕が犯してしまった、 sheが絶対に許してくれないであろう、あの過ちが……。
「イチカ、何度も言ってるだろ……君を傷つけるつもりなんてこれっぽっちもなかったんだ……。君を傷つけるつもりなんてなかった! 僕はただ、君を守りたかったんだ!」
「またそのバカげた嘘を言うのね! 守る? 一体何から守るっていうのよ!? あなたのことなんてお見通しよ、いつも頭の中で勝手にストーリーをでっち上げてばかり! 私はあなたを信じてた! 誰にも言えない暗い秘密だって、一番の恐怖だって、あなたには打ち明けたのよ! それなのに……あなたは私を裏切った……」
「イチカ……」
(……なんでこんな風になっちゃったんだろ?)
胸が引き裂かれるように痛む。
彼女の糾弾の重さを前に、胸を刺すような痛みがほとんど耐え難いものになっていく。過去の自分の行動が彼女に与えてしまった深い傷跡を目の当たりにして、僕は完全に無力感に打ちひしがれていた。
(もし彼女が本当の真相を知ってくれたなら……もしあの時、あそこにいてくれたなら……)
「イチカ……お願いだ……話がしたい……」
(……でも……なんて言えばいいのか分からない……。彼女が最初から悪い方にしか捉える気がないのに、どうやって僕の本心を信じてもらえばいいんだ?)
「……」
(クソッ……なんでこんな時に言葉が詰まるんだよ……)
結局のところ、何を言っても彼女の気持ちを変えることはできないと、僕自身が一番よく分かっていたのだろう。
「何? 言葉が出ないわけ?」
「あ、いや――その、僕が言いたいのは――」
本当のことを言えば、彼女の頑なな心を翻すための言葉なんて、僕には一つも見つけられなかった。
彼女の言う通りだ。当時、彼女にあんなことをしてしまったのは僕の過ちだった。彼女が怒るのも当然の理由がある。
でも、一体いつまでこの恨みを僕に向け続けるのだろう?
(せめて、汚名返上のチャンスだけでもくれないかな……)
僕は一つため息をついた。
「なぁ……これ以上どう言えばいいのか本当に分からないけど……でも、本当に……君にそんな思いをさせてしまって悪かったと思っている。でも……僕は君のことをずっと友達として尊敬してきたんだ……。だから本当に、過去を水に流して……もう一度やり直せないかな?」
「やり直す? どうやって? あなたがまた私を裏切らないなんて、どうして言い切れるのよ?」
彼女の剥き出しの質問は僕を完全に凍りつかせ、二人の間をいまだ隔てている深い不信感を容赦なく暴き立てた。その声に滲む苦痛は、そんな簡単な謝罪文句一つで癒えるような古い傷ではないことを物語っていた。
「お願いだ……僕にチャンスをちょうだい……。お願いだから演劇部に入ってよ……それがずっと君の夢だったはずだろ……」
イチカは落胆の混じった、苦々しい笑みを浮かべた。
「そうよね……分かってたわ……。あなたは心から謝りに来たわけじゃない。ただ、自分のバカげた部活に引きずり込むための数合わせを探しに来ただけじゃない……」
「な、違うよっ――!」
(そんなつもりで言ったんじゃない……。僕は本当に、全部彼女のためにしたいと思っているのに……)
「だったら、これからも遠くから指をくわえて見ていればいいじゃない。ごめんね。私は二度とそんなリスクを冒すつもりはないから」
「……」
彼女の容赦ない拒絶は、乗り越えられない壁のように感じられた。その瞳に刻まれた失望の色は、彼女にとって僕がただ自分の学校での目的を果たすための都合のいいコマに過ぎないと思われていることを、明確に突きつけていた。
(これ以上何を言っても、彼女の言い分を証明するだけで、ただ部の数合わせが欲しいだけのように聞こえてしまう。彼女が本当の真相を知ってくれればいいのに。何が本当に起きたのか、すべてを話せたらいいのに……。ただ……それをどう伝えればいいのか分からないんだ……。
彼女がどれほど本当の危険に晒されていたのか……僕があんな行動を取った本当の理由を……。だけど、僕は誓いを立ててしまった……。もし本当の黒幕に知られたら、何が起きるか分からない。そうなればイチカをまた危険に晒すことになる。それだけは絶対に嫌だ……)
僕は彼女を遠ざけている秘密を胸に抱えながら、絶対的な沈黙の中で両手をぎゅっと握り締めた。彼女を再びあの影の危険に晒すくらいなら、一生憎まれ続けた方がマシだった。
(だけど、彼女以外の配役なんて、僕にはどうしても想像できないんだ……)
これ以上は一言も発さず、僕は去っていくイチカの背中を見つめた。
(僕は本当に、イチカのいない人生に慣れていかなきゃいけないのかな?)
誰もいない部屋に響く自分の足音の残響が、受け入れたくない残酷な現実を突きつけてくる。彼女の支えがない前進なんて、演劇部が奇妙に薄暗い場所に変わってしまうようなものだった。
キーーコーンカーンコーン!!
(あぁ、これで部活の時間は終了か)
まだ部員もいなければ活動実績もないため、僕は残りの時間を部室で漫画を読んで過ごした。
(ユキノはどうなったかな。もし勧誘できたら、友達をここに連れてくるって言ってたけど。彼女もやっぱり苦戦しているんだろうか? 探しに行かないと……)
僕は荷物をまとめ始めた。
「おや、おやおや? 随分と忙しそうな働きバチさんじゃない?」
「っ!?」
僕の首が勢いよく後ろに回った。
(うわ、なんで今になって……)
「漫画本を広げて、お見事なくらい忙しそうにしているわね! そんなにのんびりする時間があるなら、きっと体調は万全のようね!」
(やばい、見られてた!)
「あ、いや、実はさ、ちょうどその話をしようと思ってたんだ……。もう部員が2人増えたんだよ!」
僕はとっさに、ちょっとした優しい嘘をついた。
(2人とも勧誘に失敗したなんて、彼女に言えるわけがない……)
「あら、本当に……? どこにいるのかしら?」
「あー、えっと……その2人は、新入部員をさらに集めるための、すごく重要なパシリ……じゃなくて、任務に行ってるんだよ……」
「ハッ!」
「っ!」
「その見え透いた小さな嘘が、私に通じると思わないことね! どれだけ否定しようとしたって……現実を見なさい! 演劇部は実質的にもう消滅しているのよ。これ以上恥をかく前に、さっさと廃部届を出したらどうかしら?」
僕はフラストレーションをグッと堪えた。
「そんなことできない……。まだ、あともう一人いるんだ……!」
「へえ、どうだか! とにかく、週末の放課後にまたあなたの廃部届を回収しにくるわ。だから、次の部活の時間はその子供っぽい漫画を読む代わりに、書類の記入に費やした方が身のためよ」
そう言って彼女は髪をパッと振り乱すと、クルリと踵を返して、どこか思わせぶりな足取りで去っていった。
彼女があれほど軽々しく、蔑むように去っていくのを見て、圧倒的な無力感が僕に押し寄せた。先生の最後通告は、演劇部を文字通り風前の灯火へと追い込んでいた。
(くっそ、あの先生、本当に神経を逆撫でしてくれるな! 今に見ろ、目にもの見せてやる……)
そうだ、ユキノを探しに行かなければならなかった。
(一体どこにいるんだろ?)
とりあえず中央廊下をまっすぐ下りていけば、そのうち彼女と出くわすだろう。
しかし、遠くから聞こえてきた荒げられた誰かの声が、僕の混沌とした思考を不意に切り裂いた。廊下の角を曲がった先から響いてくるその高圧的なトーンは、一触即発の衝突を予感させた。
どうやら、言い争いをしているみたいだ。
「でも、私たちの夢はどうなっちゃうの!?」
突然聞こえてきた悲痛な叫び声が、僕の注意を引きつけた。
(なんでこんなに聞き覚えがあるんだ? 声は理科室から聞こえる)
理科室の方へと顔を向けるが、ここからでは中の様子は見えない。僕は足音を忍ばせて、もう少し近づいてみた。
「もうそんなのどうでもいい! それで、あなたがしたことがチャラになるわけじゃないわ!」
(間違いなく女子二人が揉めてる……。普段なら女の子同士のくだらないケンカなんて興味ないけど、どういうわけか……あの声、ものすごく聞き覚えがあるんだ……)
僕はさらに部屋の近くへと這い寄り、隙間から中を覗き込んだ。すると、驚いたことに……
え?
(ユキノ!? ……サキ!?)
僕は大慌てで後ろに飛び退き、背中を壁にぴったりと張り付けた。純粋な衝撃のあまりあんぐりと開いた口を、両手で必死に覆い隠す。
薄開きのドア越しに響いてくる二人の叫び声に、僕は静まり返った廊下の真ん中で完全に硬直してしまった。
二人の間に漂う緊張感はあまりにも生々しく、見慣れた学校の空間を一瞬にして一触即発の戦場へと変貌させていた。
(サキだったのか!? ユキノが言っていた、昔の親友っていうのは……サキのことだったのか!?)
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