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第5話:イチカを勧誘するための、僕の必死の悪あがき。

 

 そのストレートな質問は完全に不意打ちで、心臓がドクリと跳ねた。


 内気な様子から一転して、そんな個人的な好奇心をぶつけてくるとは思わなかった。空気はガラリと変わり、先ほどとは全く違う性質の緊張感が漂う。


(そんなこと一言も言ってないだろ……)


「あの、実は……本当のところ、彼女は僕を嫌っているんだ」


「嫌ってる? どうして?」


「長い話になるんだけど……その……まぁ、昔、彼女に対して本当にバカなことをしちゃったことがあって……」


「そっか……女の子、なんだ……」


 彼女は小さく、独り言のようにつぶやいた。


「え? 何か言った?」


「え? あ、ううん、何でもない」


「でもまぁ……そんなわけだから、彼女が部活に入ってくれるかどうかも、全然自信がないんだ」


「……」


「だけど、本当に新入部員が必要なんだ……ダメ元でも、やっぱりその人たちに聞いてみるべきかな? これが僕たちに残された唯一のチャンスかもしれないし……」


「うん……きっとその通りだね。じゃあ、どうしよっか?」


「やるべきことは一つしかないよね。一か八か、当たって砕けろだ!」


 そうして僕たちは一度解散し、それぞれの友人を探すことにした。僕は放課後が終わってしまう前に、急いでイチカの姿を探した。


 先生から突きつけられた最後通告のタイムリミットが、僕の足を廊下へと急がせる。部活を救うためには一分一秒が無駄にできなかったし、そのためならプライドなんて捨てて、過去と向き合う覚悟だった。


 でも、一体どこを探せばいいんだろう? 考えてみれば、僕は彼女が今どの部活に入っているのかさえ知らないのだ。まさにその時、視界の端に……


「イチカ……?」


 間違いなく彼女だった。印刷室の方へと向かって歩いている。


「あ……イチカ! ちょっと待って……!」


 僕は彼女の後を追いかけながら声をかけた。彼女はこちらに視線を向けたものの、足を止めようとはしなかった。


「待ってってば……」


 ついに息を切らしながら、彼女が部屋に入る手前で追いついた。


「……」


「イチカ……」


 彼女の真剣な瞳が、僕を真っ直ぐに射抜いてくる。

(うわぁ……相変わらず怖いな)


「何の用? 私、今忙しいんだけど」


(なんて言えばいいんだ?)


「……お願い、一分だけでいいから話を聞いて、イチカ……大事なことなんだ……」


「誰にとって大事なことよ?」


 僕はゴクリと唾を飲み込んだ。


(確かに。結局のところ、なんで彼女が僕の部活のトラブルなんかを気にかけなきゃいけないんだ?)


「あ、いや、それは……」


「いい、もしそのあなたのバカげた部活のことなら……ごめんなさい。前にも言ったはずよ、興味ないって」

「あ、でも今回は事情が違うんだ……あのね……もし、もう一人誰かに入部してもらえないと……僕たち、終わりなんだよ」


 彼女は答えない。


 冷徹な沈黙は、廊下の真ん中にそびえ立つ決して超えられない壁のようだった。その強張った姿勢は、僕のどんな懇願も彼女には一切通用しないことを明確に物語っていた。


(本当にどうやって彼女を説得すればいいのか分からない……彼女は絶対に僕を助けないって固く決意しているみたいだ……さっきぶつかって転ばせちゃったからなのか、それとも……)


「ねぇ……僕がもう君に嫌われているのは分かってる……。でも、お願いだ……君の力が必要なんだ。今回だけでいいから、お互いのわだかまりを横に置いておけないかな? 本当に今回だけでいいんだ……どうしても、もう一人部員が必要なんだよ……」


 イチカは大げさに目を丸くし、ため息をついた。


「こうなると思ってたわ。いい、悪いけど、なんで私があなたのくだらない部活の心配なんてしなきゃいけないの? 私に言わせれば、そんなの早くなくなっちゃった方がいいのよ。そうすれば学校側も、本当にちゃんと『活動している』部活を応援する余裕ができるんだから」


(うぐっ。そこまでストレートに言わなくても……)


「それに、私には自分の部活のことで手一杯なの。それを努力って言うのよ。あなたもたまには少しは見習ったらどう?」


 そう言いながら、彼女は両手に抱えた書類や本の山を抱え直した。


(うわ、すごく重そうだ。そういえば……彼女が何部なのかすら知らないな。でも、見るからにかなりストレスが溜まってそうだ)


「あの、本をたくさん持ってるね……手伝おうか?」


「結構よ、あなたの手なんて借りないわ!」


 彼女は手の中の荷物の重さを調整しようと体を動かした。


 その突発的な動きのせいで、ファイルの間から飛び出していたプリントの束のバランスが崩れた。

 一枚の小さな紙が端から滑り落ち、ひらひらとゆっくり舞いながら床へと落ちていく。


 まさにその瞬間、一枚の写真が宙を舞うのが目に入った。


 それは……妙に見覚えのあるものだった……。

(え? 写真に写っているこの男の子……どこかで見たことがあるような……。待て……見覚えがあるぞ……これって、もしかして……?)


 その時、イチカは両手が塞がっていて拾い上げることができないため、その写真の上にサッと自分の足を重ねて隠した。


 彼女の靴が素早く動いたせいで、僕が疑惑を確信する前にその画像は完全に覆い隠されてしまった。あからさまにそれを隠そうとしたその不自然な行動は、ただの無関心を装おうとする彼女の内心の動揺を完全に露呈していた。


「言ったでしょ、大丈夫だって。もう行ってくれない、お願いだから?」


(でも待てよ……あの写真、どことなく……あの写真に写っていたのって……僕に、似ていたような……。いや、そんなわけないか)


 イチカは写真から足を退けないまま、苛立ちの混じった目で僕を睨みつけてくる。


「ねぇ? 早く行ってよ」


(見せてくれるわけがない。無理に聞いたりしたら、きっと本気で怒り出すだろうな。どうせ僕の気のせいだ)


「分かった……。無理を言って悪かったよ。でも……本当に、もう一度だけ考え直してほしいんだ……。君を怒らせるようなことをしてしまったなら、本当に申し訳ないと思っている。だから……もし、昔みたいにわだかまりを無くして、また友達に戻れたらって……」


 イチカは僕の言葉を遮った。


「友達? よくそんなこと簡単に言えるわね、自分がしたことをまるで忘れたみたいに」


 脳の奥底で、ずっと抑圧されていた罪悪感の波がにわかに騒ぎ出し、彼女が僕をここまで深く軽蔑するに至った本当の理由を掘り起こし始めた。


(僕がしたこと……。僕が彼女にしてしまったこと……)


 彼女に対して悪気があったことなんて一度もなかった。彼女の心がこんな風に不幸にも離れてしまう前、僕たちがどれほど素晴らしい友人同士だったかは今でもよく覚えている……。


 そして次の瞬間、すべての記憶が堰を切ったように僕の頭の中に流れ込んできた。


 意識の底に封印していた、あの夜の光景。そして、彼女が今、僕を憎んでいる本当の理由。僕が犯してしまった、彼女が絶対に許してくれないであろう、あの過ちが……。


本日もお読みいただき、ありがとうございました!


「面白かった!」「続きが読みたい!」と思っていただけましたら、


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