第27話:閉じ込められて(後編)
「でも、どうしてあの時そう思ったの? 彼女……何か言っていたの?」
「本当のこと言うと……そうなんだ。彼女は喉から手が出るほど君の役を欲しがっていた……君を出場させないためなら手段を選ばないって。もし劇から降りないなら……力尽くで引きずり下ろすって言っていたんだ。その後、彼女が階段を見つめているのを見てね……彼女が何を考えているのか分かってしまったんだ。君の命に関わるような大怪我をさせられたくなかったんだよ」
「レンジ……じゃあ、あの間ずっと……本当に私を守ってくれていたのね……」
「うん……君が僕と口をきいてくれなくなってからだってそうさ。探して、これからも守り続けるよ」
イチカは視線を逸らし、クスッと優しく笑った。
「もう……なんだか自分が情けなくなっちゃうわ」
「え? どうして?」
「この何年間か、私はあなたのことを裏切った最低な奴だって思い込んでいたの。でも最初から、あなたは本当のことを言っていたのね……ただ、信じられなかっただけなんだわ。でも何年かぶりに再会して……あなたは昔と変わらないレンジのままだった。優しくて、思いやりがあって、誠実で……レンジ……あなたの友達でいられて、本当に嬉しいわ。ありがとう……」
「イチカ……」
時間が遅くなってきた。時計を見る。
「朝までここに閉じ込められそうだな……腹を括って、少し落ち着こうか……」
小道具や衣装の箱をガサガサと漁り始める。快適に過ごせそうなものがないか探してみる。
「あ、これ……使えるかもしれない」
舞台小道具の箱の中に、小さな飾りクッションと布地を見つけた。
「ほら、イチカ……受け取って!」
「えっ?」
クッションを投げ渡す。
「使って! 投げる用のクッションだけどね!」
イチカは僕を見て微笑んだ。
「ふふっ……冗談が下手ね」
僕の冗談に彼女が笑ってくれた。この状況でも彼女がリラックスしてくれて、気分が楽になった。
「ほら、衣装用の布のロールもあるよ……毛布はないけれど、これで代用できると思う」
イチカのところへ持っていく。彼女はすでに小さなクッションに体をすり寄せて、くつろいでいた。僕はその上に布をふわっとかけた。
「はいどうぞ!」
「あっ! ありがとう!」
彼女は布を体に巻きつけながら微笑んだ。かなり大きめの布だ。自分用のものを探すために、再び箱へと戻る。10分ほど探してみたが、見つかったのはもう一つのクッションだけだった。
「うーん……毛布も布もないな……」
溜息をつく。学校の換気システムが自動で作動し始めた。夜になると部屋が冷え込むかもしれない。あたりを見回す。暖をとるのに使えるものは何だろう?
溜息を漏らす。今回は我慢するしかないみたいだ。
静かになったイチカに目をやる。彼女はシートに包まれ、気持ちよさそうにクッションを抱きしめていた。
(イチカは温かそうで快適そうだな……眠っちゃったのかな?)
心地よさそうな彼女を見つめていると、寒さで体が震え始めてきた。
(上着を教室に置いてきたのは失敗だったな……半袖Tシャツ一枚だし……衣装でも着るべきかな……)
衣装箱を見るが、どれも寝るには着心地が悪そうだ。再びイチカに視線を戻す。
(でも……もしかして……イチカは気にしないかな?)
「レンジ……?」
あっ! 起きていたんだ。僕ことを見ていたのだろうか?
「大丈夫? 何か見つかった?」
「あ、いや、ううん……でも大丈夫だよ」
ごまかすように笑ってみせる。
「イチカが快適なら、それでいいんだ」
「実は……正直に言うと、ちょっと緊張していて……ここで眠れるかどうか分からないの……」
「そうなんだ……」
(励ましてあげられたらいいんだけどな……それに、彼女がいる場所の方が温かいかもしれないし……)
「イチカ……まだ怖いかい? ええと……僕が目に見える場所で寝たら、少しは安心できるかな?」
彼女の向かいの壁際にクッションを置いた。
(かといって、近づきすぎるのも良くないな。あまり近くで寝たら、彼女を気まずくさせてしまうかもしれない。)
「あ……ええ……勿論よ……」
彼女は僕を見つめ、それから視線を逸らした。
(なんだろう? なんだか少しがっかりしているみたいだ。近くで寝てほしかったのかな? でもそれはちょっとリスクが高すぎるか……ただ緊張しているだけかもしれないな。)
衣装の上着を取り出して毛布代わりにし、壁に背をもたせかけて座る。
「イチカ……ここにいるからね。だから、安心して少し寝なよ」
「ありがとう、レンジ……あなたがここにいてくれて、すごく安心できるわ……ありがとう」
彼女は最後にもう一度僕を見つめ、それから横を向いた。毛布を頭まで被り、眠りについた。
(同じ部屋で寝るなんて、ちょっと緊張するな……でも、彼女の隣で眠ったらどんな感じなんだろうって、どこかで考えてしまう自分もいる……)
僕の視線は、もう少しの間彼女に向いていた。彼女の呼吸がゆっくりになり、眠りについたことが分かると、僕も肩の力を抜いた。床に身を沈め、衣装の上着を丸めて、僕も少し眠ろうと試みた。
僕たちはそのまま、夜を明かした。




