第18話:美咲(みさき)
彼女はまるで自分の目が信じられないといった様子で、何ページも書類をめくっている。
「はぁ、信じられないわね……。劇の企画書まで丸ごと用意してきたっていうの?」
彼女は申請書を「タレントコンテスト」と書かれたトレイに放り込んだ。
「ふん。せいぜい見応えのあるものにすることね。どれだけ努力したって関係ないんだから。これまでダンス部に勝てた部活なんて、ほとんどいないんだからね」
彼女はドラマチックに髪をかき上げると、その場を立ち去った。
「やれやれ、あの先生、本当に性格に難があるな」
「まったくだよ」
僕たちは二人で笑い合いながら、事務室を後にした。
「あ、待って! 教室に本を忘れてきちゃったのを思い出した! また後でね、スキ!」
僕は急いで部室へと走って戻った。本を手に取り、帰ろうとしたその時、彼女が片付け忘れて机の上に残していった書類が目に留まった。
「あ、帰る前にこれを片付けておこう……」適切なフォルダを取り出し、書類を整理する。
「これは棚の方だな……」
収納棚へと歩きながら、僕は独り言をつぶやいた。ちょうどその時、奇妙な気配を感じた。
「え……誰かいるの?」
「誰かがあんたをクローゼットの中に閉じ込めておけばよかったのにね……」
振り返ると、ドアのところに立っていたのは、あの日保健室にいた不気味な女の子だった。
「君は……。あの時の……」
「まあ、失礼ね。やっと口を開いたと思ったら。私にだって、ちゃんとした名前があるのよ?」
「まさか……そんなはずは……」
僕はショックで立ち尽くした。彼女であるはずがない。だけど突然、彼女の顔と、なぜあんなに見覚えがあったのかを思い出した。
「美咲……美咲! どうして君が……?」
どういうわけか、この学校にいる間、僕は彼女の存在にまったく気づかなかった。それほど深く、彼女に関する記憶を封印していたのかもしれない。だけど、彼女は今、こうして目の前に、生身の体で存在している。
「私とイチカの間の、すべてのトラブルの原因……。やっと! やっと気づいたのね! 随分と時間がかかったじゃない。私の髪型のせいかしら?」
彼女は嫌味たらしくそう言った。まあ、中学の時よりも少し大人びて見えるのは確かだ。だけど、僕が気づかなかったのは、主に突然の衝撃のせいだったと思う。
彼女がこの学校にいるなんて、本当に思いもしなかった。
居心地の悪さを感じる。彼女と同じ部屋にいたくはなかった。何も言葉が出てこない。
僕はドアの方へと足を動かし始めた。
「ちょっと、どこに行くの? レディを無視するなんて失礼じゃない……。話したくないの? 私は本当に……あんたと話したいんだけど……」
「僕と……? 君がこの学校にいるなんて、知らなかった……」
「あら! じゃあ、私のことが恋しかったってことね!」
「違う、そういう意味じゃない……。中学を卒業した後に、君と会うなんて思ってもみなかったんだ。ここで見かけたこともなかったし」
「まあ、それも無理はないわね。最近転校してきたばかりだから」
「転校? なんでここに……? あんなことをしておいて、よくここに来られたね」
「あんなこと? 誤解しないでよ! 私はただ、みんなにとって一番良いことをしただけよ! とにかく、両親が経営する演劇学校の関係で最近ここに転校してきたの。知らなかった? 最近この学校と提携したのよ! 両親が、私の代わりにここに通えば、私が本当に輝けるはずだって言ったの!」
「演劇学校? 輝くだって? それに、みんなにとって一番良いことをしたってどういう意味だ? 君は僕とイチカの友情を壊したんだぞ」
「おや? 最近どこかで頭でも打ったの? 忘れちゃった? イチカを壊したのは、あなた(YOU)でしょう……」
「違う……君が僕を罠にハメたんだ……。なのに今になって戻ってきたいって言うのか?」
「落ち着きなさいよ……。もうあんたたちになんて興味はないわ。さっきも言ったでしょ。私は両親の演劇学校のためにここにいるの。将来的には、この学校と共同公演をすることについても話を進めているわ。それに……演劇学校のチームと一緒に、あのタレントコンテストにも出場するつもりなの」
「タレント……コンテスト?」
「そうよ。私は自分のオリジナル劇で勝負するの」
「美咲……君はいつも自分のことばかりだ……。中学の時に起こったことに対して、本当に何の悔いもないのか?」
彼女は肩をすくめた。
「ええ、別に。やるべきことをやっただけよ」
「やるべきことを……。君はいつもそう言うけれど……僕には理解できないよ……」
美咲は僕をずる賢そうな目で見つめた。
「知りたくないの……? どうして私がそんなことをしたのか。どうしてこれが私にとってそんなに重要なのか、知りたくない?」
僕はゾクゾクと寒気がするのを感じ始めた。美咲と話すのは、本当に気が進まない。どういうわけか、彼女は今でも僕を怯えさせる。だけど、もしかしたら彼女の言い分を聞くべきなのかもしれない……。そうすれば、イチカとの間に本当に何があったのかを理解する助けになるかもしれない。
いや……やっぱり聞きたくはない。僕とイチカに彼女がしたことを考えれば、聞く必要なんてない。彼女は僕とイチカを脅し、彼女をクローゼットに閉じ込めた張本人だ。学校の劇でイチカの役を奪ったのも彼女だ。
これまで僕がイチカとの間で抱えてきたすべての問題は……すべて彼女のせいだった。知っておくべきことはそれだけだ。これ以上、この女の子から話を聞く必要はない。彼女を信用することなんてできない。どうせまた、何か悲劇のヒロイン気取りの作り話でもでっち上げるに決まっている。
僕は美咲に向き直った。
「美咲……君がどうしてあんなことをしたのか、その理由は知らないし……聞くつもりもない。過去のことは過去のままにしておきたいんだ。ただ、今どうしてここにいるのか……そして、僕に一体何を求めているのか、それだけを知りたい」
彼女は僕の目をじっと見つめた。その視線は強烈だった。
「いいわ。私がここにいる理由を教えてあげる。あんたにやってもらいたいことがあるの……」
「僕に……君のために?」
「そうよ。その代わり、私もあんたを助けてあげられるわ」
「助ける……?」
僕は彼女の言うことすべてに不信感を抱いた。助けるってどういう意味だ? なぜ僕が彼女の助けを必要とするんだ? どうやって?
「あんたたちの演劇部……正直言って……かなり退屈そうよね」
「何だって?」
「たった一人の部員として、あんたがどれだけ長くあの部活を維持してきたかは知っているわ……。それに今だって、一応は才能のあるメンバーが集まっているみたいだけど。でも、最後の最後になって、慌ててそんな人たちをかき集めたんでしょう……」
「才能がないなんて言うな! 美咲……君の好みではないかもしれないけれど……僕たちは本物の演劇部だ。他のメンバーのことも大切に思っている。彼らは僕の友達だ」
「聞きなさいよ。本物の演劇部の一員になりたくないの? 他の『本物』の役者たちや……『本物』の才能と一緒にね」
「……」
「タレントコンテストの出場を辞退してほしいの」
「辞退?!」
「私は自分のチームで出場するわ。他の参加する部活なんて、私たちの敵じゃないことはもう分かっているけれど……。でも、あのイチカって子とまた競い合うのは、本当に気が進まないの。コンテストから手を引きなさい。そうすれば、私のチームに入れてあげる。私のチームには何人か、期待の新星もいるのよ……本物の有名人の子供たちも含めてね。ほら、今回は誰も傷つけるような脅しはしていないでしょう? 脅迫もなければ、クローゼットもない。ただ、辞退しなさいって言っているの」
「それが脅しでなくて何なんだよ?」
「そんなこと、できるわけがないだろう! それに、君のチームになんて絶対に入りたくない。そんな風に友達を裏切るようなことはしない」
美咲は顔をしかめた後、声を上げて笑った。
「本当に、そんな馬鹿げた学校の部活のために、有名になるチャンスを捨てるっていうの? まさか、まだあのイチカって女の子に未練でもあるんじゃないでしょうね」
「イチカのことでも、有名になることでも、そういうことじゃない」
「じゃあ、どういうことよ? 言ってみなさいよ」
「言わない。僕たちはみんな、ここで諦めるにはあまりにも一生懸命やってきたんだ」
美咲は甲高い笑い声を上げた。
「部活として始まってから、まだ一週間も経っていないじゃない! それのどこが『一生懸命やった』よ?! 信じなさいよ、結局のところ、私はあんたたちの時間を節約してあげているのよ!」
「どれだけ時間が経ったかなんて関係ない。みんながこれにたくさんの努力を注いできたんだ……。そして、自分たちのアイデアを出すために必死に頑張ってきた。それを裏切るなんて、みんなに対して本当に不公平だ」
「うげっ! あんた、これ以上みじめになれるわけ?!」
「悪いけど……僕は辞めないよ。僕たちは自分たちの計画を進める。君がタレントコンテストに出場しようがしまいが、僕には関係ない。だけどもし出場するなら、君のチームも他の皆と同じように、僕たちと競い合うことになるだけだ」
「正々堂々とね」
彼女の鼻孔が広がり、怒りで顔が真っ赤に染まった。それから、彼女はまた笑い始めた。
「アハハ! あんたって本当に大嘘つきね!」
「嘘つき?」
「友達がそんなに大事だなんて言って……特にあのイチカって女の子のことはね……。それなのに、また私に逆らうことが賢明な判断だと本当に思っているの?!」




