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第17話:私たちはタレントコンテストに参加します

 

 僕はしばらくの間、呆然としていた。(あの女の子、一体どういう意味であんなことを言ったんだろう……?)イチカの方に目を向けたけれど、彼女は気づく様子もなく、自分の腕の擦り傷を忙しそうに見つめていた。


「イチカ……さっきの女の子、見なかった?」

「え? 女の子? 誰にも気づかなかったけど」

「そっか。ううん、何でもないんだ」


(良かった……イチカにあれを聞かれなくて本当に助かった)


 だけど、それでもあの女の子のことが頭から離れなかった。どうして彼女はここにいたんだろう? 僕たちを監視していたのだろうか? 僕とイチカの間にあったことを何か知っているのだろうか? 好奇心を抑えることができなかった。


 僕は深く考えずに、さっき彼女が立っていた診察室の仕切りカーテンを開けてみた。


「え?」机の上には、保健医の先生に宛てたメモが残されていた。


「救急箱をディスコ(部室)に持って行きました。署名……」


 その名前を読んだ瞬間、僕はパチパチと瞬きをした。あまりにも見覚えのある名前だった。


(え……待てよ……この名前……。でも、まさか……彼女なわけがない……)。僕はとりあえず、その疑問を頭の隅に追いやることにした。そしてイチカの方へと振り返る。


「まあいっか……きっと僕の気にしすぎだよね……。僕が考えているようなことであるはずがないし……」


「痛っ!」彼女に目をやると、自分の髪を引っ張っているのが見えた。「え? イチカ、どうしたの?」


「あ……ううん、何でもない……痛っ!」


 彼女は頭の後ろに手を回し、後ろ髪を引っ張っていた。


「あの……本当に大丈夫?」

「ただ……ネックレスが絡まっちゃって……痛たた……」

「あぁ……痛そうだね……」


 彼女は本当に痛そうな表情をしていた。女の子の髪に物が絡まると、すごく痛いって言うしな……。 hungryだけど、僕は男だ。手伝ってあげるべきだろうか?


 僕はイチカがネックレスを外そうと苦戦しているのを見つめた。


(手伝ってあげられたらいいんだけど……。でも、彼女にこんなに近づくのはリスクが高すぎる。それに、女の子って髪を触られるのを嫌がるものじゃないのかな? もし間違えて髪を引っ張っちゃったらどうしよう? 彼女を痛がらせて、また怒らせたくはないしな)

 助けてあげられないことに、少し罪悪感を覚えた。


「あ! 取れた……」 *ふぅ……一安心だ。*

「イチカ、大丈夫だった?」

「ええ……大丈夫。ちょっとネックレスが引っかかってただけだから……」


 ちょうどその時、数人のグループが部屋に入ってきて、僕たちの注意を引いた。スキ、サキ、ユキノ、そして保健医の先生だった。


「大変! 二人とも大丈夫?! 怪我をしたって聞いたよ!」とサキが言った。


「聞いた瞬間、すぐに飛んできたんだから」とスキが付け加えた。


「途中で保健の先生にばったり会ってね」とユキノが説明した。


「ごめんなさいね、時間通りに保健室にいられなくて! ちょっと用事があって席を外していたの。さあ、戻ったからには傷口を見せてちょうだい」


 先生が僕たちの手当てをしてくれている間、みんなはそばで待っていてくれた。


「診てくれてありがとうございました」


「どういたしまして。しばらくは少し痛むかもしれないけれど、大した怪我じゃないわ。イチカ、あなたはその足に数日間はあまり無理をさせないように気をつけたほうがいいわね……松葉杖は必要?」


「あ、いえ」僕は立ち上がって、少し歩いてみせた。


「大丈夫です……。さっきほど酷くはありませんから。なんとか歩けます」


「分かったわ。何かあったらまた来なさい。二人とも、もう行っていいわよ」


 それを聞いて、僕たちはみんなで保健室を後にした。廊下を歩いていると、一枚のポスターが僕の目に留まった。


「ねぇ……あれって何?」

「あれって……タレントコンテストのポスターじゃない?!」

「コンテスト……?」

「どうやら、どの部活でも参加できるみたいね。僕たちもエントリーできるのかな」

「これこそチャンスだよ! ついに僕たちの価値を証明できるんだ!」

「でも、僕たちにそんなことできる準備ができていると思う?」


「そんなの、やってみなくちゃ分からないわよ!」

 サキは興奮気味に拳を突き上げた。


「それに、イチカにとっても良い機会になるんじゃないかな……。彼女も正式にメンバーになったことだしね」


「もちろん。そうだよね、イチカ?」

「あ、ええ、私は……」

「よし決まり! 今から始めれば、たっぷり準備する時間はあるよ!」

「まあ、やってみるくらいなら損はしないわね……」


 彼女は、見落としてしまいそうなほど小さな微笑みを浮かべた。(そうだ……この瞬間に至るまでのすべては……すべてイチカのためだった。そして今、彼女はついにここにいるんだ)


 コンテストへの出場を決めてから数日が経った。僕たちは部室で、プロットやそれぞれの配役について話し合いながら、申請書を記入していた。


「申請書には他に何が必要かな? ストーリーの大まかな説明はあるけれど……最後まで書ききったんだっけ?」


「まあ、ストーリー全体のプロットを完成させる時間はまだあるから……。今のところは、あらすじの説明だけで大丈夫だと思うよ」


「本当に決めなきゃいけないのは、主役の配役だよね」


 スキの友人たちは、脇役を引き受けて協力してくれることになった。けれど、主役の座はまだ決まっていなかった。


「うーん、僕が男性の主役を演じることは決まったようなものだと思うんだけど……。ナンシーとジェンは女性の脇役キャラクターで納得してくれているし……」とスキが言った。


「そうよ!」

「それに、アレハンドロとニコラスは男性の端役を演じてくれる」

「その通り!」


「となると、残るは……ヒロインだね。レンジ、誰がいいと思う?」


「えっと、それは……イチカがやるべきだと思う」

「わ、私……?」


「そうだよ! 当然さ! 何しろ、君が入部してくれるのをずっとずっと待っていたんだから……。それに……中学の時の部活では、演じたかった役を演じられなかったわけだし……」


「あ……」


 彼女は視線を横に逸らした。

「あ……それ、実はすごく良いアイデアだと思う! 何て言ったって、レンジは彼女が加わってくれるのをずっとずっと待っていたんでしょ?」


「そうだよ。イチカはどう?」


「え……うそ……。じゃあ、みんな本当に私にできるって思ってくれているの?」


「イチカ、君こそがその役を演じる運命にある人だと思うんだ!」


「みんなの意見も一致しているみたいだね! 満場一致で、ヒロインは君に決まりだよ、イチカ!」


 彼女は少しうろたえている様子だった。

「あ、私……何て言えばいいか分からないわ……。中学の時以来、まともに演技なんてしていないし……やりたかった役をやらせてもらえなくなってからはずっと……」


「イチカ、これこそがあの時の埋め合わせをするチャンスだよ! 君が僕のことを『夢を盗んだやつ』として憎んでいるのは分かっている……」


 僕は少し気まずそうに視線を泳がせながら言った。


「でも、今こそあの夢を取り戻すチャンスかもしれないんだ!」


「あ……う、うん……。みんながそう言ってくれるなら……。みんなを失望させるわけにはいかないわね……。分かったわ……やってみる!」


「やったぁ!! やるぞ、イチカ!」

 彼女は顔を赤らめてうつむいた。


「よし、これで配役は決定だ! それに、タイミングもばっちりだよ。あと10分くらいで事務室が閉まっちゃうから、今すぐ申請書を提出しに行けるね!」


「僕が事務室に提出しに行くよ。ちょっとついでに用事もあるしね」


「助かるよ、ありがとうスキ! 実は僕、急いで塾に行かなきゃいけないんだ。だから、また次回ね!」


「みんな、背中を押してくれて本当にありがとう。でも、私ももう行くわね。アルバム用に提出しなきゃいけない仕事があるの」


「分かった、みんな。本当にありがとう」


 みんなが部室を出ていく。


「あぁ……片付けをするのは私だけになっちゃったみたいね」


「あ……ごめんね。みんなが帰る前に片付けさせるべきだったな……」


「ううん、大丈夫よ。愚痴を言っているわけじゃないから! 片付けくらい気にしないわ……」


(彼女は大丈夫って言っているけれど……。彼女を一人ここに残して片付けをさせるのは、少し心が痛むな. どうすべきだろう? 多分大丈夫だとは思うけれど……。僕も急いだ方がいいかもしれない。実は僕も、自分自身にちょっと事務室に寄りたい用事があったんだよな……)


 ちょうどその時、階段の方へと向かっていくスキの姿が見えた。


「あ、ちょっと待って! スキ、待ってよ!」


「どうしたんだい、レンジ?」


「事務室まで一緒に行こうと思って。彼らが僕たちを見たとき、どんな顔をするか見届けたいんだ。必要な部員数を集めただけじゃなくて……コンテストの企画書と申請書まで、わずか数日のうちに完成させちゃったんだからね!」


「僕たち、本当にすごい成果を上げたよね!」


 僕たちは事務室へと入っていった。


「あら、あら……誰かと思えば……」


 彼女は鼻で笑った。この女性教師は、先週新入部員の用紙を提出して以来、ずっと機嫌が悪いようだ。

「なんであんなに君のことを嫌っているの?」と彼が囁いた。


「僕にもさっぱり分からないよ……」と僕も囁き返した。


 彼女は目を丸くした。「まさか、また新しく提出する入部届を持ってきたわけじゃないわよね?」。


「それにしても、どこからともなくそんなに新しい人たちを連れてくるなんて……」


「ほとんどズルをしていると言ってもいいくらいだわ!」


「違いますよ!」 *僕はニヤリと笑った。* 「もっと良いニュースですよ!」


「やれやれ……聞かせてもらいましょうか」


 彼女は降参したようにため息をついた。スキが彼女の目の前に申請書を差し出した。


「な……何よこれ? まさか、あなたたち……」


「そのまさかです! 僕たち、タレントコンテストに参加します!」


 彼女が書類を受け取る間、スキと僕は顔を見合わせてニッコリと微笑み合った。


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