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第13話:イチカに本当は何があったのか

 

 本当に、これからどうすべきか真面目に考えなきゃいけないな。すべての仕事をみんなに押し付けるわけにはいかない。でも、現実から目を背けることもできない……僕自身、そんなに友達が多いほうじゃないんだ……。


 僕は大きくため息をついた。ちょうど、顔を上げたその時だった。


(え? あれって……イチカ?!)

 半ブロックほど先を、イチカが一人で歩いているのが見えた。


 うわぁ、どうしよう。声をかけてみるべきなんだろうか? 先日のあの出来事の後だし……彼女が僕の顔を見たいと思っているとは到底思えない。


 本当は彼女と話したい気持ちは山々だけど……今はまだ、距離を置いておいたほうがいいのかもしれない……。だけど、どうしても考えてしまう……どうして彼女は僕を嫌うんだろう? なぜあんな風に僕に接するんだ?


 過去に起きたことについて、僕がどれだけ後悔しているか、彼女には見えていないんだ……。どれだけ伝えようとしても……彼女は話す機会さえくれない。


 彼女の機嫌を直してあげたい。あるいは、僕に何かできることがあるだろうか? うーん……分からない。早くこの問題を解決できたらいいんだけど……。僕は大切な友達を失って、本当に寂しいんだ。イチカ……寂しいよ……。


 僕は彼女のほうを一度も見ないまま、歩き続けた。


(そうだ……今の僕には、もっと大事な心配事があるんだ。他に誰を誘えるか考えなきゃ。考えろ、考えろ……僕たちの知り合いで、もう一人男子のメンバーがいるはずだ……。急がなきゃ! きっとみんな、部室で待っているはずだ!)


「ほら来た! カメみたいに遅いわね!」と、サキが言った。


「レンジ、こんにちは」

「*はぁ*……*はぁ*……みんな、こんにちは。遅れてごめん」と、僕は答えた。

「それで……新しい男子の部員はもう見つかったの?」サキが尋ねる。


「え、あ、それなんだけど……」

「まさか……難しかった?」

「ちょっと、嘘でしょ!? まだ見つかってないの!?」

「うん……」

「一体、何の騒ぎだい?」と、ある声が響いた。

「え?」


「誰、あいつ?」サキが尋ねる。

「誰かと思えば……レンジじゃないか」

 その声は、入り口の敷居をまたぎながら言った。

「え? ナツキ?」僕は驚いて問い返した。

「ナツキ?」


「おっと、失礼。自己紹介をさせておくれ。僕の名前はナツキ。でも、スキって呼んでくれていいよ」


 彼はそう言うと、女の子たちに向かって丁寧に会釈をした。彼の後ろには3人の友達が控えていて、挨拶代わりにニヤニヤと笑っている。


「レンジと僕は少し前からの知り合いでね……同じ中学校に通っていたんだ」

「あら、そうなの? 見た目はそんなに悪くなさそうね」


「何だって?」

「ううん、何でもないわ」

「スキ……ここで何をしてるんだ?」

「さあね、それは僕が君に聞きたいセリフだよ。まだそんな演劇部なんてものにしがみついているんだね」彼はあざ笑った。「もういい加減、諦めたらどうだい?」


「ちょっと、私の友達に失礼なこと言わないでよ!」

「サキ、いいんだ……」


「ハハ。落ち着きなよ。ただの冗談さ。ただ、僕が最後に聞いた話じゃ、君のところはあまり上手くいっていないようだったからね。メンバーを探しまわっているとか何とか……」

「言っておくけど、僕たちはもう正式な部活になったんだ!」


「そうよ! 本物の部員だっているんだから!」

「へえ? 本当に? どこにいるんだい?」

「あの……今、君の目の前にいるけど……」


「待って、何だって? 君たちかい? レンジ、つまり君は、二人の可愛い女の子を自分の部活に引き入れることに成功したってわけか! ハハ! やるじゃないか。感心したよ」


「当然でしょ! あんたも、そこまで絶望的なわけじゃないみたいね」

「さて、それじゃあ僕はこれで失礼するよ」

 ちょうどその時、僕の頭にあるアイデアが閃いた。

「待ってくれ……スキ!」

 彼が振り返る。

「何だい?」


「あの……無理な相談かもしれないけど……僕たちに加わってくれないか?」


 スキの目が丸くなった。


「僕が? 君たちに加わるだって?」

「ほら、部活を続ける承認は貰えたんだけど……まだ、力強い男性の役が足りないんだ。僕は……その役に君がぴったりだと思うんだよ! どうかな?」


「フン。君の褒め言葉や、僕を力強い男の役として見てくれたことには感謝するけれど……残念ながら、お断りさせてもらうよ」


「え? どうして? 私はレンジに賛成よ、あんたはまさに私たちが求めているタイプに見えるわ!」

「ありがとう、お嬢さん。だけどね……」

 彼の表情が曇り、僕の方へと向き直った。

(ビクッ!)

「僕が、君がイチカにしたことを忘れたなんて、微塵も思わないことだね」

「っ!? 」

「え……?」


「僕はそんなこと――」


「君が運営するような部活に仲間入りできるほど、僕は君を信用していないんだ。それでは、良い午後を」


 そう言い残し、彼は去っていこうとする。


「ねぇ、レンジ? どういう意味……あんた、イチカを傷つけたの? 一体全体、なんであんたは嫌われてるわけ? レンジ……あんた、本当にあの女の子を傷つけるようなことをしたの?」


「何だって? そんなわけないだろ! ただの誤解なんだ」


 スキがくるりと向き直り、僕のところへ戻ってきた。


「誤解だって? 中学校で何があったか覚えていないのかい? 僕たちはみんな、あの演劇部で一緒だった……。君は、それが彼女にとってどれほど大きな意味を持っていたか知っていたはずだ……。それなのに、君は彼女から夢を奪ったんだ……」


「僕が彼女から夢を奪った? どういう意味だ……僕は彼女を応援していたんだ……イチカは、僕の親友だった。あんなに大切な人を、僕が傷つけるわけがないだろ」

「大切な人……? 君と彼女の本当の関係は、一体何だったんだい?」


「僕たちの関係……? 本当のことを言うと……あの頃、なんとなく彼女のことが好きだったんだ」


「やっぱりね。好きだったんだわ」サキが声をあげた。


「いや、違うんだ。今は全然そんなんじゃない。僕が言いたいのは……あの頃、本当に彼女に憧れていたんだ。完全に純粋な気持ちだった。それ以上に、彼女は僕の親友だったんだ」


「だけど、彼女の心を傷つけたのね?」


「違う……そんなことになってない。僕は一度も、彼女が好きだなんて伝えていないんだ。彼女が僕を嫌うようになったのは……別の理由があるんだよ」


「じゃあ、彼女をそんな風に傷つけるような、一体何があったっていうんだ……? 彼女の秘密を知っていながら、どうしてそんなことができたんだい?」


「秘密? つまり……君は何が起きたか知っているのか?」


 彼は、今言ったことを後悔したかのように視線を落とした。


「一部だけね。彼女は僕の友達でもあったから。あの後、彼女は僕を信頼して、君のことは二度と信用しないと言ったんだ。君たちの関係を知らなかったから、深くは問い詰めなかったけれどね。でも彼女は言っていた……君が彼女の夢を盗んだと。そして、裏切られたとね。あの後、彼女がどれほど悲しんでいたかを見た時……」


「私はあんたを良い奴だって信じたいわ……。でも、もし彼の言うことが本当なら……女の子の信頼をそんな風に裏切るような奴と、これからも友達でいられるかどうか、私には分からないわ」


「裏切る? 違うんだ……そんなんじゃない……。でも……彼女がそう思ってしまう理由も、僕には分かる気がする」


 僕は言葉を飲み込んだ。


(みんなにどこまで話すべきだろう? 彼女たちの信頼まで失うわけにはいかない。部活のためにも……いや、イチカのためにも……みんなに僕を信じてもらう必要があるんだ! だけど、もし話してしまったら……みんな納得してくれなくて、僕が悪いことをしたと思うかもしれない……)


「お願いだ、聞いてくれ……全部話すよ。あの時に起きたこと……僕は彼女を傷つけるつもりなんてなかったんだ……。でも、彼女を守るためには、そうするしかなかったんだよ。ただ彼女が傷つくところを見たくなかったんだ、でも……彼女を傷つけようとしていたあの女の子は……イチカの秘密を知らなかったんだ!」


「『彼女』? 『彼女』って誰のこと?」


「イチカを……脅迫した女の子だよ」


「誰かが……イチカを脅迫したの?」


「そうなんだ。あ、直接じゃない。その子は僕たちの仲が良いことを知っていたから……代わりに僕を脅したんだ。もし僕があれをやらなければ、イチカにひどいことをするって言ったんだ……」


「何をするって? なんでそんなことをする人がいるわけ? あんた、何をしたの?」


「僕は……彼女をロッカーに閉じ込めたんだ。丸一日もの間……」


「やっぱりね。あんたがやったんだわ」


「でも、傷つけるためじゃなかったんだ! 他に選択肢がなかった……そうするか、さもなければ……本当に大変なことが彼女の身に起きていたかもしれないんだ……」


「誰のせいで? 誰が彼女を傷つけるっていうんだ?」


「そんなことをして、彼女を傷つけていないとでも思っているのかい? それに、君は彼女が持っているものを知っていたはずだ……」


閉所恐怖症クラウストロフォビア。知っているよ。そのことを知っているのは、僕ともう一人だけだった。それは……僕たちの秘密だったんだ。彼女はそのことを恥ずかしがっていたから」


「閉所恐怖症の女の子をロッカーに閉じ込めたの? それはかなり最悪ね……」


「僕にそれをやらせた女の子は……イチカにものすごく嫉妬していたんだ」


「嫉妬? なんで誰がそんな……?」


「イチカは……その子が欲しがっていたものを持っていたんだ。そして、その子がそれを手に入れる唯一の方法は……イチカがしばらくの間、いないことだったんだ。あの女の子が彼女に危害を加える計画を立てているなんて、イチカに話せるわけがなかった。だから、僕がすべての罪を被って……彼女をしばらく閉じ込めることで救ったんだ。だけど、僕は知らなかったんだ……その後に何が起きるかなんて……」


「イチカの身に……そのあと何が起きたんだい?」


 スキが言葉を遮るように問い詰めた。


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