八話「 道案内 」
誠と同僚の警官達はいま大変困っていた。
「Entschuldigen Sie! Können Sie mir den Weg zum Bahnhof zeigen? 」
派出所へ駆け込んできた外国人男性が、身振り手振りを交えながら必死に何かを訴えている。
だが誰も聞き取れない。
英語ではない。
少なくとも誠が知る言語ではなかった。
「すまない、もう少しゆっくり――」
「Bitte schnell! Wenn ich mich nicht beeile, verpasse ich meinen Zug」
ゆっくりどころか更に加速した。
焦っているのは分かる。
分かるのだが分からない。
同僚達も揃って頭を抱えていた。
「英語じゃないよな?」
「英語じゃないですね」
「ドイツ語か?」
「俺に聞くな」
誰も答えられない。
外国人男性も必死だが誠達もどう対応するのか必死だ。
そんな膠着状態に陥った時だった。
「まこちゃーん♡」
派出所の入り口より聞き慣れた声に誠が視線をずらした。
「梨紗?」
学校帰りなのだろう。
鞄を肩から提げた梨紗が派出所の前で手を振っていた。
が、派出所内での緊迫した空気に気付いた梨紗は「どうしたの?」と近づき、外国人男性と誠達を見比べる。
「Hey! Hören Sie mir überhaupt zu? Zeigen Sie mir schnell den Weg!」
「Kann ich Ihnen helfen?」
流暢なドイツ語だった。
派出所内が静まり返り、外国人男性が目を丸くした。
そして勢いよく梨紗へ向き直る。
「Also, wissen Sie…!」
捲し立てる外国人男性の言葉に梨紗は何度か頷き、似た言葉を返し、どちらも会話が成立している。
誠だけでなく同僚達も固まって、その光景を見つめていた。
「……話せるのか」
「話せるみたいですね……」
誠も少し驚いていた。
梨紗の両親は共に医師で、幼い頃から海外を飛び回っていたことを梨紗から聞いてはいた。
だが実際にドイツ語で会話している姿を見るのは初めてだった。
梨紗は外国人男性の話を聞き、説明を返す。
それを数回繰り返しただけで問題は解決した。
あまりにもあっさりと。
外国人男性は何度も頭を下げながら帰ろうとして、ふと誠の肩を叩いた。
「Passen Sie gut auf Ihre Frau auf!」
「?」
「Sie haben wirklich eine tolle Frau」
「?」
誠には何を言われたのか理解できなかった。
だが外国人男性は満足そうに笑い、そのまま去っていく。
「助かった……」
同僚が思わず呟き、誠も否定はできなかった。
「彼はなんて言ってたんだ」
誠が梨紗へ尋ねる。
すると梨紗は少しだけ考えて、満面の笑みを浮かべた。
「むふふ♡お幸せにって」
「なんだそれは」
誠のツッコミに梨紗はニコニコするだけ。
本当は『奥さんを大事にしろ』と、外国人男性が言っていたのだ。
でもわざわざ伝えなくても、梨紗にとっては今さらだった。
だって誠は梨紗を大事にしてくれてる、梨紗は十分幸せなのだから。
「梨紗ちゃん、本当に助かったよ」
同僚がそう言うと、梨紗はきょとんと目を丸くした。
そして誠を見上げる。
「私、まこちゃんの役にたったの?」
「あぁ、助かった」
誠がそう答えた瞬間、梨紗の顔がぱあっと輝いた。
ニコーッとこれ以上ないくらい嬉しそうな梨紗に同僚達は思わず笑う。
本人が通訳を褒められたことより、誠の役に立てたことを喜んでいるのが丸分かりだったからだ。
「将来は通訳、目指そうかな♡」
「理由は」
「まこちゃんの役に立てる!」
「そういう決め方はやめろ」
将来くらいは、自分のために選べ。
END
***♡***
最期までお読みいただきありがとうございました。
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※pixivにて小説の一部エピソードを漫画・イラストを公開しています。
どのシーンなのかはお楽しみに°˖✧◝(⁰▿⁰)◜✧˖°
<翻訳>
・Entschuldigen Sie! Können Sie mir den Weg zum Bahnhof zeigen?
➡ すみません!駅への道を教えていただけますか?
・Bitte schnell! Wenn ich mich nicht beeile, verpasse ich meinen Zug!
➡ お願いします、急いでください!このままだと電車に乗り遅れてしまいます!
・Hey! Hören Sie mir überhaupt zu? Zeigen Sie mir schnell den Weg!
➡ちょっと!ちゃんと聞いてるんですか? 早く駅への道を教えてください!
・Kann ich Ihnen helfen?
➡何かお困りですか?
・Passen Sie gut auf Ihre Frau auf!
➡奥さんを大切にしてあげてくださいね!
・Sie haben wirklich eine tolle Frau.
➡ 本当に素敵な奥さんですね。




