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十六話 「 変わらない日々 」

朝起きたとき、梨紗は身体が重い違和感を感じた。

熱を測れば37℃とやや微熱。

「風邪かな?」と確信はないが、念のためにと薬箱から風邪薬を出して飲んでおいた。

そろそろ誠が夜勤明けで帰ってくる。

梨紗はなんてことのないようにパジャマから着替え、キッチンへ向かった。


9時過ぎたくらいだろうか、玄関の扉が開き誠が返ってくる。

「おかえりなさい」といつも通り誠を出迎えにやって来た梨紗だが、誠は違和感に気付いた。


梨紗が離れている。

たったそれだけなのだが、何かがおかしい。


「どうした」

「なにが?」

「離れてる」

「え?」

「いつもより」

誠の指摘に梨紗も気づいた。

そう、いつもの梨紗なら迷わず誠に抱き着いていたことを。

でも今日だけは、いつものように誠に飛び付けなかった。


「そう、かな?気の所為じゃない?」

笑って誤魔化す梨紗だが、誠の目にはそうは映らない。

梨紗の顔色、声、動きをみて誠はなにかを確信する。


「梨紗」

「なに?」

「こっち来い」

「え?」

誠の言葉に無意識に一歩引いた梨紗へ、誠は距離を詰めて額へ手を当てた。


「熱があるな」

誠に距離を詰められて思考停止状態になった梨紗を抱きかかえて、寝室へ連れていく。

最初呆然としていた梨紗だったが、看病体制になろうとする誠をみて我に返り「大丈夫だよ」「薬も飲んだし」「寝たらすぐ治るから」と夜勤明けの誠を休ませようとするのだが。

「いいから」

「・・・でも」

「頼むから、寝てくれ」

懇願するような誠の声に梨紗は、それ以上何も言えなくて大人しくベッドに横になるしかなかった。

必要な物を確認しに部屋を出入りする誠の姿に、梨紗は自然と「ごめんね」と声が出た。

冷却シートを片手に、誠の動きが止まる。


「何がだ」

「・・・え、と仕事明けなのに迷惑かけて」

梨紗の言葉に誠は冷却シートを置き、梨紗の傍に膝をついた。

「迷惑じゃない」

「でも」

「俺が傍にいるのが迷惑か?」

「そ、そんなことない!!絶対にない!」

慌てて起き上がって全力で否定する梨紗に、誠も驚いたが口元を微かに緩ませた。


「なら寝てろ」

「・・・はい」

梨紗は誠に言われるがまま着替え、水分を補給し、食欲があるならとご飯を作ってもらい。

更には冷却シートを替えてもらったところで、ようやく気付いた。

誠が全然休んでいないことに。

慌てて時計に目を向ければ、帰宅して数時間経っているではないか。


「まこちゃん」

「ん?」

「寝て」

「後で寝る」

「だめ、今すぐお部屋に戻って寝て」

「俺も同じことを言った」

んぐ、と梨紗は言葉に詰まった。

どうにか誠を休ませる方法はないのか、少しだけ反応の疎い頭をフル回転させる。


「わかった」

「ん?」

「私も寝るから、まこちゃんも寝て」

「は?」

本来なら病人の傍で寝させるなんて、梨紗はしない。

が、熱で朦朧としている頭では精いっぱいの案だった。


梨紗はベッドの端に寄りバンバン、と隣を叩く。

誠は少しだけ思案するも、頬を膨らませ火照った顔で睨んでくる梨紗に根負けしたのか隣へ寝転んだ。


「これでいいか?」

「うん」

むふー、と満足げに笑う梨紗に、誠は思わず笑みが零れた。


普段自分が眠るベッドとは違い、暖かくて梨紗の匂いに包まれる。

先ほどまで全く眠気なんて来なかったのに、いまはどうしてか酷く眠い。


誠は梨紗の方へ体を向けて、少しだけ熱い梨紗を腕の中へ抱き寄せた。


「寝るぞ」

「う、ん・・・おやすみ、なさい」

微かに聞こえる寝息はまるで子守歌のようで、誠は目を閉じた。




不意に聞こえるヒグラシの鳴き声に、梨紗の意識は浮上する。

目を開ければ、オレンジ色の夕陽が部屋を染めていた。


時間を確かめようとして、体を起こそうとしたが何かが乗っていて動けない。

いや乗っているだけではない。

何かが梨紗を後ろから抱き込んでいる。


梨紗はゆっくり後ろを振り返れば、安らかに眠る誠の寝顔があった。

咄嗟に叫びそうになったのを寸前で抑え込む。

一体どうして誠が自身の部屋に居て、尚且つ一緒にベッドで寝ているのか思い出せない。


いや、思い出したわ。

まこちゃん無理矢理ベッドに寝かしつけてた。


熱があったとはいえ、普段の自分には考えられない行動に梨紗は頭を抱えたくなった。

もしまこちゃんに風邪が移ったらどうするんだ、馬鹿!梨紗のおバカ!と自身を罵り続ける。


「・・・梨紗」

「うっひゃい!!」

僅かな振動で目が覚めたのか、寝起きの誠の声に梨紗は声が裏返る。

誠の寝起きの声とか色気が半端なさすぎて、梨紗の心臓は今にも破裂しそうだ。


「熱は?」

「あ、さより・・・楽、です」

「そうか」

スリ、と誠の頭が梨紗の後頭部にすり寄る。

普段の梨紗であれば、甘えるようにすり寄ってくる誠という特大供給に耐え切れず、既に限界突破している頃だった。

けれどその仕草に、梨紗は小さな違和感を覚えた。


「まこちゃん」

「ん?」

「ちゃんと寝れた?」

「お前のおかげでな」


そう返した誠の声は、いつも通りだった。

けれど梨紗を抱く腕は少しだけ強い。

その仕草はどこか安心したようで、それでいて何かを確かめるようでもあって。

言葉では上手く説明できない何かが胸に引っ掛かり、梨紗は小さく瞬きをした。


「まこちゃん」

「ん?」

「ありがとう」

「何がだ」

「看病してくれたから」

「当たり前だ」

「ふふ」

梨紗は抱きしめる誠の手に自分の手を重ねた。

するりと誠の指が梨紗の指と絡み、強く、強く握りあう。


「お腹すいたなぁ」

「熱が下がった証拠だな」

「うん」

「何が食べたい」

「まこちゃんの作ったご飯」

誠は小さく息を吐くと、ようやく梨紗を腕の中から解放した。


「待ってろ」

そう言い残しキッチンへ向かう背中を追いかけて、梨紗はダイニングテーブルの椅子に腰を下ろす。

朝に比べれば、随分と身体は楽だった。


しばらくして誠が盆を持って戻ってくる。

湯気の立つ雑炊からは優しい出汁の香りが漂っている。

誠はテーブルへ器を置き、梨紗の前へと差し出した。


「熱いぞ」

「うん」

フー、フー、と雑炊を冷ましながら口に運ぶ。

じんわりと体へ染み渡る出汁の美味しさに梨紗は顔を綻ばせた。


「美味しい」

「そうか」

「うん」

「おかわりあるぞ」

「やった」




END

***♡***

最期までお読みいただきありがとうございました。


梨紗と誠の日常を今後も応援していただけるのでしたら、いいねや下の⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎(全部入れると10pt)で評価していただけると、いろんな方に読んでいただけるようになるのですごく嬉しいです。

※pixivにて小説の一部エピソードを漫画・イラストを公開しています。

どのシーンなのかはお楽しみに°˖✧◝(⁰▿⁰)◜✧˖°

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