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十話「 俺の女に手を出すな 」


「響、駐車違反だ」

「はいはーい」

昼下がりの住宅街にて、パトロール中の誠と響は路肩に停められた車へ駐車違反の確認票を貼り付けていた。

「毎回思うんだけどさ、違反する奴って『ちょっとだけだから』って顔して停めるよな」

「実際そう思っているんだろう」

「だろうなぁ」

「あっ!まこちゃーん♡」

他愛もないやり取りをする誠と響の背後から聞き慣れた声。

2人が振り返るとそこには学校帰りらしい梨紗が嬉しそうに駆け寄ってくる。


「梨紗」

「偶然だね!」

「そうだな」

自然と柔らかくなる誠の表情に、響は肩を竦めた。


「ねね、梨紗ちゃん」

「なんです?」

「俺とお茶しない?」

「仕事してください」

キッパリと即答する梨紗に、響は込み上げてくる笑いに喉を鳴らす。

これでも結構モテる方なんだけどなぁ、と梨紗の塩対応が楽しくて仕方ない響だった。


「酷くない?」

「勤務中ですよね?」

「あー、ですね」

ぐうの音も出ない、とはこのことか。


「まこちゃん、この人サボろうとしてる」

「知ってる」

「酷いなぁ」

誠の作業を邪魔しない程度にピッタリくっつく梨紗と当たり前のように受け入れてる誠に響は笑う。

ふと背中に違和感が走り、響は何気なく後ろを振り返った。


住宅街の道路、通行人が数人。

ただそれだけ。

気のせいか、そう思いながら視線を戻した。


「じゃあ私帰るね。まこちゃん、お仕事頑張ってね♡」

「あぁ」

梨紗は誠に手を振りながら去っていく。

勿論、誠はその姿が角を曲がるまで見送った。


そしてその横で、響だけが見ていた。

電柱の影から現れた男を。

男は一定の距離を保ちながら梨紗の後ろを歩き始める。


偶然にしては不自然で、響の目が細くなる。


「誠」

「なんだ」

「ちょっといいか」

響の声音に、誠は僅かに眉を動かした。



その日の夜、玄関を開けると梨紗が出迎えてくれる。

いつも通りの光景だ。

笑顔も、声も、仕草も変わった様子はない。

夕食の席でも梨紗の様子は変わらない、だからこそ誠は尋ねた。


「最近変わったことはないか」

「?」

誠の問いかけに梨紗は箸を止め、不思議そうに首を傾げたものの、すぐに眉間に皺を寄せて過去を振り返る。

やや唸りながらも、梨紗なりに真剣に思い出した結果。


「お野菜が高くなった、くらいかなぁ?」

「そうか」

違う。

誠は内心で溜息を吐いた。

どうやら本人は本当に気付いていないらしい。

響の見間違いで終わればそれが一番だ。

だが、もし違うのであれば。


誠は静かに箸を置いた。



翌日、誠と響は学校帰りの梨紗の後を追っていた。

もちろん本人には内緒だ。

学校帰りの女子高生を尾行する男2人、その姿は完全に…

「これ、俺らが職質案件だな」

「・・・」

「誠、顔怖いぞ」

「黙れ」

真剣な顔で周囲を警戒する誠に、響は肩を竦めた。


「あ」

ふと先に気付いたのは響だった。

バス停前でバスを待つ梨紗から、少し離れた位置に一人の男がカメラを構えていた。

カメラの先には梨紗に向けられ、男は慣れた手付きでシャッターを切った。

何枚も、何枚も、執拗にシャッターを切る。


「黒だな」

「あぁ」

二人は同時に動いた。

ポン、と響の手が男の肩に触れる。


「お兄さん、ちょーっといいかな?」

振り返った先には警官が2人。

ギョッと慄くも男が異変に気付いた時には遅く、逃げ道は塞がれていた。 


「な、なんですか?」

「警察だ」

誠の声が冷たく響き、男のカメラが押収される。

中を確認すると出てきたのは梨紗の写真ばかりだった。


梨紗の横顔、笑顔、慌てた顔、と遠くから盗撮された写真が何十枚も続く。

そして最後の一枚で誠の手が止まった。

映し出された画像を見た瞬間、誠が持つカメラにパキッと微かなヒビが入る。


誠の反応に違和感を覚え、響も画面へ視線を向けた。

画面に映っていたのは、学校の更衣室で着替えている下着姿の梨紗だった。

無断で撮影された大量の写真。

その最後の一枚を前に、誠の表情が消えた。


「あらら、これはアウトだね」

響は地面に座り込む男の前へしゃがみ込んだ。


「お兄さんの行為は迷惑防止条例違反に該当してます。画像は削除して二度としないこと」

背後から夥しい負の圧を感じる。

このまま放置すれば何が起きるかくらい、響には分かっていた。

だからこそ、先に警察官としての仕事だけは終わらせなくてはいけない。


「それが守られなければ書類送検も含めて処理しますよ」

少しだけ早口になってしまったが、男は捕まりたくない一心なのか、気づく事なく怯えたように頭を上下に振っている。

バカな奴だ。

これからもっと恐ろしい男が待ち構えているというのに。


「さて厳重注意は終わったよ、誠」

「・・・そうか」


誠は静かに警察帽子を脱いだ。

響は知っている。

この男が本気で怒る時を。



バキッと激しい音を立てて、誠は男の目の前でカメラを粉砕する。

ヒッと男が息を呑む声が聞こえたが、響は何も言わなかった。

足元に散らばる破片へ一瞬だけ視線を落とし、静かに溜息を吐く。

本来なら証拠品として扱うべき物だ。

だが、今さら誠を止めても意味はない。



「ここからは警察官ではなく

あの子の旦那として忠告してやる」


握り潰されたカメラの破片が男の目の前に落ちていく、だがそれよりも男を射抜く誠の視線から目が離せなかった。



「俺の女に二度と、手を出すな」


男はすでに顔面蒼白で、今にも失神しそうな顔で頷いた。


「あーらら、大変だ」

不意に誠の後ろから響が顔を出し、粉砕されたカメラをみて声をあげる。

その声に男が恐る恐る誠から響へと視線を移した。


「カメラが爆発しちゃいましたね」

「へ?」

「勝手に”爆発”したんですよね?」

満面の笑みだった、だが目は決して笑っていない。

男は即座に理解した。


「は、はい!勝手に爆発しました!」

「そうかそうか。では危ないので我々が責任をもって処理をしておきますね」

響は満足そうに笑うと男は逃げるように去っていく。

完全に見えなくなったところで、警察官として戻った誠が口を開く。


「すまん」

「いーってことよ」

警察官らしくない行動をしてしまった詫びの言葉に、響は肩を竦める。


「でもまあ」

「なんだ」

「旦那が本気でキレると怖いな」

誠は答えなかった。

ただ一人の少女の無事を確認するように、バスに乗る梨紗の姿を見つめていた。



END

***♡***

最期までお読みいただきありがとうございました。


梨紗と誠の日常を今後も応援していただけるのでしたら、いいねや下の⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎(全部入れると10pt)で評価していただけると、いろんな方に読んでいただけるようになるのですごく嬉しいです。

※pixivにて小説の一部エピソードを漫画・イラストを公開しています。

どのシーンなのかはお楽しみに°˖✧◝(⁰▿⁰)◜✧˖°

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