9.
馬車を降りてから、私は裏口らしき所へ回された。
どうやら、人目を避けたいらしい。
あれ?
だったら何故、牢の入口から馬車を回さなかったのだろう?
5分は歩いた気がするんだけど。
「で、何故ですか?」
「えっ?何がだ?」
キースの声が若干上擦っている。
どうした?
「馬車に乗り込んだ場所が気になって。何故あの位置だったのかな?と思いまして」
キースが何故だか脱力している。
キースの様子に苦笑しながら、今度は隊長が答えた。
「君の立場故に、その質問には答えられない」
「はぁ、まぁ、別に構いませんが……」
確かにどうでもいい質問だったので、ここは頷いておく。
でも気になるので、いずれ機会があれば聞いてみよう。
私の立場云々言っているから、いずれ立場が変われば教えてもらえる、かもしれない。
「ここを右に曲がれ」
隊長が、歩を促す。
曲がった先には、扉があった。
裏口っぽい。
というか、使用人用の出入り口?
その様な雰囲気だ。
普段から使われている感じの形跡がある。
ちょっと年季の入った扉を開け、又ひたすら歩く。
宮殿の中はとてつもなく広く、そして入り組んでいた。
その中を、隊長に大人しく付いていく。
扉から入ってから続く通路は、使用人が頻繁に行き来するような雰囲気が漂っていた。
一流ホテルの裏側っぽいなぁ、などと感想を抱きながら進むうちに、段々と雰囲気が変わってきた。
ここからが表側、と判る感じだ。
進めば進む程、じわりじわりと豪華になっていく。
初めは絨毯。
その次壁。
廊下に飾られた調度品もそれなりのものが目立つようになりつつある、そんな一画。
私はある部屋に案内された。
その部屋の扉の前には、二人の衛兵が立っている。
微動だにしない。
衛兵を見つめていたら、中に入るように促された。
入る時、衛兵の視線が刺さって痛い。
不審人物を見る目だ。
そういえば、キースも最初はそんな目をしていたが、今はそんな事がないな。
何でだろう?
隊長は初めから冷静だったが。
中に入ると、20畳位の空間が広がっていた。
天井には絵が描かれていた。
神話か何か?
取り敢えず宗教か何かの絵だろうと見当をつける。
そしてなんといっても、バカラもスワロフスキーも裸足で逃げ出しそうなシャンデリアが、曇り一つないガラス窓から差す日の光に反射し、とても奇麗に輝いていた。
カメラがないのが本当に惜しい。
ここは控えの間か何かなのだろうか。
大きさがあまり広くない事から、それほど重要視もされないという感じだ。
だからか、調度品も小ぶりで小さく纏まっている。
そして申し訳程度に置かれた華奢な椅子2脚とテーブル。
後付けのように置かれたそれらが、この部屋に異和感を放っている。
毛足の長い絨毯の感触を確かめながら、椅子の所まで歩く。
促され、椅子に腰を掛けた。
キースが前に来て言い放つ。
「今から手枷を取る。妙な真似をしたら、首と胴が離れ離れになる事を忘れるな」
脅された。
脅されなくても、しないのにそんなの。
でもここって、そういう国なんだと、頭のメモに書いておいた。
「あの。一体何が始まるのでしょうか?」
今更な質問を私が呟いた時、ノックが響いた。
「アークオーエン様がお越しになりました」
外からくぐもった声が聞こえる。
そしてキースが、扉を開けた。




