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自称現実主義者の異世界トリップ〜自称リアリストは異世界で逆ハーの夢を見るか?〜  作者: GUOREN
現実主義者(自称)が異世界トリップ?

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8.

心の準備なんて、1秒もできていない。

そんな個人の都合などお構いなしに、扉の向こうから"それ"はやってきた。


不安?

もちろんある。


だが、目の前に現れた存在を視界に入れた瞬間、私の不安は別のものに上書きされた。


美形は滅ぶといいよ。

マジで。


思わず脳内でそう叫んだ私は、決して悪くない。

断じて。



扉を抜けて入ってきた1人の男。

そいつは、私を値踏みするような、冷たく鋭い視線を向けてきた。


まるで舞台の上を歩く俳優のような足取りでこちらに近づき、空いていた椅子に優雅に腰を下ろした。


昨日からこの"品定め"の視線を浴びるのも、もう何度目だろうか。

正直に言って、飽き飽きだ。


私は反射的に、かつてどこかで染み付いた──敵対的な視線には正面から対抗するという、本能に近い癖に従い、じっと男を見つめ返した。


感情を殺し、ただの"観測者"として相手を捉える。


男の形のいい眉が、わずかに跳ねた。

驚いたような、それでいて一瞬の困惑。


くそっ、綺麗なのにかっこいいなんてずるくない!?


だが、彼はコンマ1秒でそれを"無表情"という仮面の下に巧みに隠した。


ふぅん。

表情筋のトレーニングを欠かしていないタイプか、それとも無表情が常態化する環境に身を置かされた哀れな生贄……そんな印象を受けた。


そんな見当違いな感心と、一抹の哀れみを含めつつ、私は男を観察し続けた。


彼の纏っているオーラが、そこらの中産階級とは一線を画していた。

これが本物の"セレブ"というやつだな。


それにしても、だ。


私は、この下級貴族用か何かの控えの間に揃った"3人の男"を順に視界に入れた。


まず、目の前の男──アークオーエン。

30代前半、知性と冷徹さを極限まで煮詰めたような、怜悧なタイプの男前だ。

天井のシャンデリアすら霞むレベルで。


次に、ローアム隊長。

30代の渋みと、包容力のある色気を漂わせる、落ち着いたタイプの男前。

もっとも、キースと隊長はさっきから逆光だったり、私の背後にいたりで、今こうして正面からまともに拝むのは初めてなのだが。

何より声がいい。思わず聞き惚れるくらいには。


そして、隊長の横で私に対して剣呑な空気を放っているキース。

20代特有の、青さと繊細さが同居した、真っ直ぐなタイプの美形。

人形みたいな男前だが、感情がよく出るみたいなので人間くさい。


……地獄かな。


この3人を前にして平常心を保てる人間、存在するの?

思わず遠い目をする。


もし表参道とかロングコート着てこの3人歩いてるのを目にすると、男も女も溜息をつきたくなるだろう。

男は嫉妬で、女も嫉妬で。


行ったことないけど。


あ、なんかのワンシーンみたいに目に浮かんできた。

コマーシャルかよ。


それだけじゃない。

よく考えたら扉の前に立っていた衛兵たちも、馬車に乗る前に私を見ていた兵士たちも、そして遠目に見えた使用人たちも、揃いも揃って造形が整いすぎている。


もしかして、私のこの顔は、この国ではマイノリティーなのでは?

……え、ここで生きていける?


かつて、友人がうんざりした顔で私に言い放った言葉が蘇る。


『あのさぁ……いつも「あの人ってどんな人?」って聞かれるんだよね。もう説明するの疲れたよ』


友人のあの辟易した様子を思い出すたび、私は申し訳なさと情けなさでいっぱいになる。

確かこのときにメガネを勧められたんだっけ。


きっと、数日経つと私の顔も名前も思い出せなくなるから、みんなわざわざ友人に"あの特徴のないやつ"の正体を確認しに来るのだろう。


記憶に全く残らない……悲しい。


そのせいで、職場でも散々な目に遭った。

名刺はなぜか減る一方だし、私だけ名指しで呼び出されるし(仕事ができるからではない)、最終的には"部署の和が乱れる"という理由で他部署送りになった。


営業やるより断然楽しかったけど。

残業は多いけど。


ああ、思い出しただけで泣けてくる。

私のこの存在感ゼロな顔が恨めしい……


いやいや……

それよりも、だ。

芸術品のような目の前のこの人たちについてだな。


コンプレックスの塊である私にしてみれば、目の前の3人は、存在そのものが暴力だった。


視界のどこを向いても美形。

逃げ場がない。

脳が処理を諦めた。


改めて、この"3種の美形盛り"を至近距離で突きつけられた結果。


胸の奥がじわじわ熱くなる。

脳がキャパオーバーを起こして、処理落ちしているのが自分でも分かった。


理性が、最後の砦を放棄した。

私の脳内ダムが決壊した。


「……美形滅べ」


3人が一斉に私を見た。


……あっ。


やってしまった。

どうやら、心の声がだだ漏れていたらしい。


ひいっ。


心臓が嫌なリズムで跳ねる。

手のひらがじっとりと汗ばむ。


3人の視線が刺さる。

痛い。

この2日間で浴びたどの視線よりも、居た堪れない。


穴があれば入りたい。


穴がないので、私はとっさに素数を数えた。


「2、3、5、7、11……」


落ち着かなくて、眼鏡のブリッジを押し上げたり、無意識に腕時計のベゼルを指でなぞったりする。


チクタクという規則的な感覚だけが、今の私の唯一の救いだ。


「…………そろそろ、いいだろうか?」


アークオーエンと呼ばれた男が、氷の張った水底のような声を出した。


とっさに顔を上げると、睨まれた。

怒ってらっしゃる。

当然だ。

いきなり"滅べ"と言われたのだから。


……ああ、やってしまった。


恥ずかしさと情けなさ、そしてこれから下されるであろう処罰への恐れ。

ぐわっと込み上げてくる感情を必死に抑え込もうとした。


涙が出たわけではないが、ドライアイの私に少し潤いが戻ったのが分かった。


私は恐る恐る、上目遣いに相手の出方を伺った。


視線が、再び真っ正面からぶつかる。


視線が絡んだまま、数秒だけ世界が静止したように感じた。


その瞬間、彼の喉が、かすかに上下した。

そして呼吸が、ほんの一拍だけ止まったように見えた。


彼は、突如として片手で顔を覆い、目を瞑って動かなくなった。


その反応は、怒りとも困惑ともつかない。

ただ1つ確かなのは、彼が"正面から飛んできた何かを直撃で受けたような反応だった"ということだけだった。


そのまま何やら深く、石像のように固まって考え込んでいる。


うわっ、どんな質問が飛んでくる?

どこの国のスパイだ?

とか、全部吐けば楽にしてやる、とか?


……え?

私の残念な頭じゃ拷問コースしか思い浮かばない。


背中に嫌な汗が流れる。


私は表情筋を総動員して、感情を殺した"鉄の無表情"を再構築した。

伊達メガネの奥で、まだ少し潤んでいるであろう瞳を隠すように。


せめて対面時には目を逸らさない。

それが私の、せめてもの矜持だ。


アークオーエンと呼ばれた男が、不意に再起動した。

彼は1つ咳払いをした。


「私はファイン=クェイネル=デラ=アークオーエンです。……まず、貴方のお名前をお伺いしてもよろしいでしょうか?」


……ん? あれ? 自己紹介?

しかも、言葉遣いが驚くほど丁寧だ。


囚人を扱う態度ではない。

考えたら手枷も外されている。


私が考え込んでいると、後ろからキースに軽く小突かれた。


「……おい。答えろ」


「あ。私は、レイ=タダノ=オカシズキー=ド=……ジャポン……です」


舌がうまく回らず、語尾が震えた。

自分の声が、やけに遠く聞こえる。


「では、ジャポンさん。貴方に確かめてもらいたいものがあります」


──ジャポンさん。


苗字はそっちか。

ははっ。


私は思わず、天井画に描かれた神々の戯れ(?)に意識を飛ばした。


ジャポンさん。

響きがシュールすぎる。


今すぐどこかの温泉にでも浸かって、この理不尽な現実を洗い流してしまいたい。


あぁ、おんせんにいきたいなぁ。

……現実逃避。


アークオーエンさんが合図をすると、控えていた誰かが部屋にしずしずと入ってきた。


足音が近づくたび、部屋の空気がじわりと重くなる。


恭しく抱えられた、布に包まれた"何か"。


その物体が私の目の前のテーブルに置かれた時、空気の密度が一段、跳ね上がった。


あれは──

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