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自称現実主義者の異世界トリップ〜自称リアリストは異世界で逆ハーの夢を見るか?〜  作者: GUOREN
現実主義者(自称)が異世界トリップ?

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7.

馬車を降りると、私はすぐさま建物の裏手へと回された。

どうやら、この"不審な囚人"を公道や正面玄関で晒し者にするつもりはないらしい。


ん?

だったら、なぜ牢屋のあった場所から外れた位置に馬車を停めた?


人目を避けるのが目的なら、ピックアップポイントを牢のすぐそばに設定するのが、不測の事態に備えるロジスティクスの基本だ。


「あの、1つよろしいでしょうか」


「……なんだ?」


隣を歩くキースに声をかけると、彼の声がわずかに上擦った。


……まだ引きずってるのか。

私のためにも忘れてくれ。


「馬車に乗り込んだ場所についてです。なぜ、あんな私のいた場所から外れた位置だったのかな、と思いまして。牢の入口まで回した方が、逃走のリスクも兵の配置の手間も少なかったはずですが」


私の問いに、キースはなぜかガクッと肩の力を抜いた。

安堵したのか、あるいは私の"職業病"じみた質問に呆れたのか。


どちらにせよ、彼はそのまま黙り込んでしまった。


代わりに、前を行くローアム隊長が、肩越しに苦笑を投げかけてくる。


「君の今の立場ゆえに、その質問には答えられないな。囚人を乗せた馬車は通ってはいけない道がある」


「……なるほど。まあ、別にいいんだけど」


軍事機密か、あるいは何らかの儀礼的な理由か。

深追いしても無駄だと判断し、私は大人しく頷いた。


だが、「立場が変われば教えてもらえる」というニュアンスを含ませた隊長の言い回しは、私の脳内メモの"重要項目"にしっかりと追記しておいた。



「ここを右だ」


隊長の指示に従い、角を曲がる。

そこにあったのは、装飾を削ぎ落とした実用本位の扉だった。


これぞ宮殿の裏口というような、使用人や出入り業者が使う通用口だろう。


扉の周囲には、頻繁に人が行き来している生活の形跡と、わずかに染み付いた油や埃、そして上質な石鹸が混ざり合った特有の匂いがしていた。


通用口の奥からは、使用人たちの足音や、遠くで食器のような何かが触れ合う微かな音が響いている。

それはまるで宮殿という巨大な生き物が、静かに呼吸しているようだった。


1歩、中に入る。


——空気が、変わった。


外にあった油と埃の匂いが、境界線を引いたように消えている。

音が遠い。

皮膚に触れる空気の密度が、明らかに違う。


内と外で世界が切り替わる感覚といえばいいか。

肌で感じ、目で見る情報の量が圧迫感を持って変わった。


一流ホテルのバックヤードを彷彿とさせる、効率と機能性だけを追求した石造りの通路。


だが、壁の隅々に至るまで塵1つ落ちておらず、松明の煤汚れすら見当たらない。

掃除が行き届いてるなんてレベルを超えている。


……いや。

清潔なんじゃない。


存在がなかったことにされているような……


──やめよう。

考えてはいけない気がしてきた。


と、そんな事を考えていたら2人はどんどん前へ進んでいく。

見失う前に2人を追いかけた。


この複雑に入り組んだ道を覚えるのは、骨が折れそうだ。


通路を進むにつれ、周囲の質感がじわりじわりと変化していった。


荒削りの石が、しっとりとした光沢を放つ大理石になり、壁にはいつの間にか滑らかに磨かれた木材の腰壁が回されている。


足下には、足音を完全に吸い込むほど毛足の長い、深いワインレッドの絨毯が敷かれていた。


廊下に飾られた調度品も、初めは実用的な真鍮のランプだったものが、進むごとに金細工を施した燭台や、素人目にも"それなり"だと分かる巨大な油彩画へとグレードアップしていく。


裏から表へ。

私たちは今、この世界の"中枢"へと確実に登り詰めているのだ。


やがて、重厚な扉の前に2人の衛兵が立つ一画に辿り着いた。


衛兵たちは彫像のように微動だにせず、私たちが近づくと、射殺さんばかりの鋭い視線を突き刺してきた。


相手を人間ではなく"排除すべき不確定要素"として処理しようとする、研ぎ澄まされた冷酷さ。


はいはい、不審者が通りますよっと。


だが、今の私にはそれがどこか心地よかった。


何をすればいいか、どう動くべきか。

「歩け」「座れ」「黙っていろ」。


プロフェッショナルな彼らの厳しい規律の中に身を置き、その絶対的な命令に従っている間だけは、余計なことを考えなくて済む。


その方が楽だ。


本当に……

何をすべきか考えなくて済むし、少なくとも今だけは、自分で判断し続ける必要がない。


ふと横のキースを見れば、彼はもう、あの"刺さるような目"を私に向けてはいなかった。


出会った当初のような鋭さはどこへやら。

今の彼は、私と目を合わせることすら避けるように、真っ直ぐ前方だけを見つめている。


……こんな不審者に慣れたくない、ということかな?

賢明な判断だ。


案内されたのは、優に20畳はある広さの部屋だった。


天井を見上げれば、そこには神話の一幕を描いたのであろう、緻密で壮麗な天井画が広がっている。


そして、部屋の中央でそれなりの存在感を放っているのは、中規模なシャンデリアだった。


バカラやスワロフスキーの"普及モデル"といったところか。

とはいえ、現代の高級ホテルのラウンジにあれば、十分に主役を張れるだけの輝きがある。


曇り1つない窓から差し込む陽光を受け、カットされたガラスが虹色の火花を散らしている。


現代の芸術誌であれば、これ1枚で特集が組めるほどの美しさだ。


だが、部屋の規模や設えからして、ここは下級貴族かなんかを待たせるための"控えの間"といったところだろう。


この空間に対して、隅に置かれた華奢な2脚の椅子とテーブルだけが、後から急いで用意されたような微妙な違和感を放っていた。


「座れ」


隊長に促され、私は絨毯の重厚な感触を確かめながら、指示された椅子に腰を下ろした。


すると、キースが私の正面に立ち、低く、重圧をかけるような声で言い放った。


「今から手枷を取る。……いいか、1ミリでも妙な真似をしてみろ。その瞬間に、貴様の首と胴が離れ離れになることを忘れるな」


直球の脅迫だ。


1mm……ね。

細かいな。


首と胴がサヨナラ。

非常に分かりやすくてよろしい。


だが、これほど厳重な警備に囲まれ、丸腰の私が暴れるメリットなど、考えるまでもなく"ゼロ"だ。


私は心の中で

『メモ:この国は、話し合いより先に剣が出るタイプ』

と書き記し、神妙な面持ちで頷いた。


カチャリ、と乾いた音がした。

手首を締め付けていた鉄の輪が外れ、じわりと血が巡る。


「……承知しました。抵抗するつもりはありません。ところで、一体これから何が始まるのでしょうか?」


私の呟きのような質問が、静まり返った空気の中に溶け込んだ、その時だった。


重厚な扉の向こうから、くぐもった、しかし凛として通り、周囲を圧するような声が響いた。


「──アークオーエン様がお越しになりました」


その声が響いた瞬間、部屋の空気が一気に張りつめた。

まるで空間そのものが息を潜めたようだった。


キースの表情も、一瞬で「ただの男」から「命を賭した騎士」へと引き締まった。


彼は無言で扉へと手をかけ、儀礼的な動作でゆっくりとそれを押し開いた。


足音はないのに、確かに"近づいてくる"気配だけが迫ってくる。


背筋が、無意識に正される。


逆光の中、開き始めた扉の向こう側から、この部屋の酸素濃度さえも一変させてしまうような、強大な”誰か”が姿を現そうとしていた。



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