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自称現実主義者の異世界トリップ〜自称リアリストは異世界で逆ハーの夢を見るか?〜  作者: GUOREN
現実主義者(自称)が異世界トリップ?

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6.

ガタゴトと、規則的な揺れが尻から背中へと這い上がってくる。

木の板がきしむたび、座面の下から乾いた振動が響いた。


微かに油の匂いが鼻をくすぐった。

そして揺れるたび、窓から差し込む光が座席の革に細い線を描き、影がゆらゆらと揺らぐ。


クッションはそれなりに上等なものだが、サスペンションという概念が未発達そうなこの世界の馬車では、長時間の移動は腰にきそうだ。


私は目を閉じ一旦リセットして、現在の状況を考え始める。


目測だが、この馬車は秒速2メートルほどで進んでいるらしい。

目的地の白亜の建築物までは、残り1キロ。


1000÷2で500秒。

およそ8分。

坂の傾斜や馬車の損失係数まで考えて、やめた。


誰が得するんだ、そんな計算。

やめておこう。


首を振ると、揺れで髪が頬に張りついた。


あぁシャワー浴びたい。


それはともかくとして、到着まではおよそ10分。

暇つぶしにはちょうどいい。


私はこの短い猶予を使って、昨日から積み上げてきた疑問の解消を図ることにした。

これから放り込まれるであろう"未知"という名の戦場に備え、いくつか実験的な質問を投げてみる必要がある。


まずは、言語の壁だ。


「……あの、少々質問よろしいでしょうか?」


「何だ?」


応じたのは隊長だ。

相変わらず、低くて落ち着いたいい声をしている。


私は適当にフランス語を選び、口にしようとした。


その時ガタン、と馬車が大きく揺れて身体が跳ね……


「Merdeっ」


……舌を盛大に噛んだ。


舌をいたわりながら咳払いで誤魔化し、改めて質問する。


Où est-ce (私はどこに) que (いるの) je(です) suis?(か?)


「……何だって?」


隊長が眉を寄せ、訝しげな顔をする。

キースは窓の外を見ていて、聞いていないようだ。


おい監視はどうした……


とりあえず、フランス語は通じないっと。

他の言語なら……無駄かもな。

仕組みがわからん。


とりあえず、なんでも翻訳ではなさそうだ……

便利なのか不便なのか……


「いえ、失礼。……ここはどこかな、と思いまして」


「今、王宮に向かっている」


「……王宮!?」


目的地を見てまさかとは思っていたが、改めて言われるとやはり驚く。

胃のあたりが重くなってきた。


なぜ、身元不明の囚人がいきなり王宮へ?


尋問や裁判を王宮内で行うのがこの国の慣例だとしたら、あまりに非効率的すぎる。

もし問題が起きた時に、他国の貴賓が来訪中だったらどうするつもりなんだろう。


考えるだけで頭が痛くなる事態だ。


「極めて異例なことだ」


隣のキースが、視線を窓に固定したまま言う。

眉間を揉んでいる。


頭痛か?


彼は一瞬だけこちらを見たが、すぐに視線を逸らした。


耳が赤い。


……なるほど、そういうことか。


プライドが高そうなのに感情も隠せない。

職場にいたら面倒そうだ。


不機嫌の理由を察し、私は心の中で溜息をついた。


誇り高き騎士である自分が、素性も知れない囚人──しかも"破廉恥な視線(不本意!)"を送ってくる相手──と肩を並べて座らされている。


それが彼にとっては、耐え難いほどの屈辱であり、同時に……


どうしようもなく戸惑う出来事なのだろう。


これ以上刺激しないよう、慎重に振る舞うのが得策かな?


私はキースの心境を推測しつつ、次の質問を繰り出した。


「そうですか。それにしても、随分と……その、アナログな移動手段ですね?」


「アナロ……何だって?」


「あ、いえ。独り言です」


にっこり笑って誤魔化すと、隊長は「またか」という顔で黙り込んだ。


よし、次だ。

自分の価値を少しでも高く見積もらせておく必要がある。


「そういえば、自己紹介がまだでした。私は……レイ=タダノ=オカシズキー=ド=ジャポンと申します」


異世界では、名前が長いほどいい身分に見える気がする。

漫画やら小説なんかの知識によると。


直訳すると「日本のただのお菓子好きのレイ」になるが、適当に貴族風にしてみた。


ま、まぁなんとかなるだろう……

たぶん……


「変わった名だな。髪も瞳も黒い……やはり、遥か東の異国の出か」


隊長は私の特徴的な容姿を確認するように目を細め、思案げに顎を撫でた。

その視線には、珍しい標本を見るような好奇心が含まれていた。


それにしても、だ。

出たよ、東の国……


ここでもか。

日本の創作物では、東の国といえば何故か黒髪黒目になる。


南じゃ駄目なんだろうか。


「……それで、あなた方のお名前は?故郷では、名乗りを受けた後は返すのが礼儀とされておりまして」


全力で自分の話題をスルーし、話題を転換する。


「ああ。私はローアム=フォンジッニ=デラ=ウナオイア。王都守護騎士団の一翼を……」


「キーシェング=フィオーナ=ぺオリ=ジュマオイアだ」


隊長の言葉を遮るように、キースが早口で名乗った。


やはり名前が長い。

そして、やはりキースは苛立ちなのか目線が合わない。


だが、不機嫌なくせにちゃんとフルネームを名乗るあたり、彼の根が生真面目であることが透けて見える。


私は少しだけ、口角が上がるのを抑えられなかった。


ふと、馬車の速度が落ちた。


窓の外を見れば、そこには軍事的な中枢エリアらしき整然とした建築群が広がっていた。


白い石材で組まれた建物は、どれも無駄のない直線で構成され、軍事施設らしい冷たさを放っていた。

鎧を着た衛兵たちが規則正しく並び、胸元の紋章が陽光を反射して眩しい。


これらの中枢エリアを抜け、いよいよ王宮の本宮へと近づいているらしい。


ゆっくりと、馬車が停車した。


停車特有のガタンという振動に身体が揺れ、バランスが崩れて隣のキースにもたれてしまう。


よほど嫌だったのか、「なっ」とか「うっ」とか声が漏れ、わずかな狼狽が滲んだ。

身体が硬直し、必死に手を挙げるのを我慢しているように見えた。


「すみません」


申し訳程度に謝っておく。

反応はなかった。


「着いたぞ」


ローアム隊長の渋い声が車内に響く。


ああ、時間切れだ。

まだ聞くべきことは山ほどある気もするが、いつものごとくその場で状況判断して動くことにする。


結局慣れた行動をとるのが一番だ。


降りようとして、私はふと、ずっと気になっていた"不自然な光景"に目を向けた。


「……あの、最後にもう1つだけよろしいですか?」


「なんだ」


「結局、前の席ってなんで空いてたんですか?」


私が空席の対面シートを指差して尋ねると、車内に奇妙な沈黙が流れた。


なぜ、わざわざ3人が片側に固まって座る必要があったのか。

私はてっきり誰か乗り込むのかと思っていたのだが……


ローアム隊長は、何とも言えない含み笑いを浮かべてキースを見た。


一方、キースは「っ……!」と短く息を呑むと、弾かれたように顔を背けた。


「…………うるさい。いいから降りろ!」


怒鳴られた。


彼の剣幕に首をすくめる。


……やはり、彼は相当お怒りらしい。


弱ったなぁ。

そんなに怒ること?


……いや。

冷静に思い返してみる。

馬車の中で、男の股間をじっと見ていた囚人。


うん。


これ、どう見ても──





変態だ。








私が。

あぁ。


それにしても、こんな情緒不安定な騎士に付き添われ、変態だと誤認された状態で果たして私は無事に王宮を出られるのだろうか。


私は手枷を揺らしながら、肩をすくめた。


考えても仕方がない。


石畳は磨かれたように滑らかで、靴底に冷たさが伝わる。

外気は牢の中よりも澄んでいるのに、胸の奥が妙に重い。


王宮の巨大な影が、私の上にのしかかってくるようだった。

逃げ場のない現実が、足元からじわりと迫ってくる。


私は息を整え、豪華な石畳の上へともう一歩を踏み出した。

旧版の7話8話が今話と被っていますので、移動させてます。次話は改稿版でき次第公開となります。9話以降は旧バージョンのままです。

7話、8話空いてますので、ルイ視点の登場人物メモを公開していこうかと。

8話の部分あきますね……

おいおい考えます

引き続きよろしくお願いします

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