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自称現実主義者の異世界トリップ〜自称リアリストは異世界で逆ハーの夢を見るか?〜  作者: GUOREN
現実主義者(自称)が異世界トリップ?

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5.

「道順を覚える時は、目的地の方角と距離を頭の中でマークしておき、ランドマークを把握しておくこと。これ、鉄則な」


昔、小説家志望だった友人が、居酒屋で道順の覚え方を得意げに語っていた。

その時はハイボールを飲みながら笑って流したけれど、今の私はその状況の真っ只中にいる。


いっそきつい酒でもあれば……

現実逃避くらいはできたかもしれない。



カビと湿気の匂いが染み付いた暗い階段を抜けると──


名作ファンタジー映画の冒頭のような、圧倒的な光景が広がる……

と身構えていた。


だが、網膜を焼く光の中で、私は"既視感”を覚えた。


西洋の宮廷建築みたいだ……

だが、どこかが決定的に違う。


空気も石畳も、異様に清潔すぎる

牢で鼻についた潮の匂いも、ここではまるでない。

それに不自然なほどに、生命の気配が薄い。

生活感のなさというか……

まるで映画かドラマの撮影セットの中のようだ。

完璧に管理された"静止画"の中を歩かされているような違和感が、足裏から全身へ駆け抜けた。

 

……いや、異世界だから、で片づけていいのか?


思わず独り言が漏れる。


「……おい。キョロキョロするな。前を見て歩け」


先を歩く隊長が、氷のような声で嗜めてきた。


私は反射的に、現代社会人の必須スキル"にっこり笑って誤魔化す”を発動した。


営業先の無理難題にも耐えてきた、渾身の愛想笑いだ。


「…………」


だが、隊長はぴたりと固まった。

私の笑顔は同僚曰く「目が笑ってない」らしい。

屈強な騎士様を引かせてしまったようだ。

切ない。


まぁ、今回の反応はマシなほうと思い頭の彼方に捨て置く。


「……黙って歩け。余計な表情を作るな」


隊長は不快感を隠さず歩き出した。

私は大人しく従う。

キョロキョロするなとは言われたが、本能には逆らえない。

好奇心が勝る。


左右を屈強な二人に固められ、石畳を歩かされながらも、周りを見た。

広大な敷地だ。

位の高い貴族や高官が集う聖域なのだろう。

遠くでは人々が静かに行き交っている。 

光沢のある上質な衣服を纏い、その腰には例外なく鋭い長剣が下げられていた。


──命を奪うための物が。

飾りでなければ、だが。


その中でチラチラとこちらを見てくる。


……視線が痛い。

細切れにされそう。


この手の視線は知っている。

敵意でも好奇でもない、ただ"異物”を見る目だ。


騎士や高官らしき人々は、私をゴミか外来生物のように見ている。

下手な動きは命取りになりそうだと思った。


その視線から逃れるため、私は必死に地形を脳内の白地図に書き込んでいく。


「樹、木、塀、兵の数……北東に逃げ道なし。南西の壁、高さ3メートル……」


無意識に生存のためのマーキングを繰り返すが、分岐点が多すぎて眩暈がする。


諦めかけた時、目的地の全貌が視界に飛び込んできた。


……あれか。この世界の心臓部。


1キロほど先。

なだらかな上り坂の頂点に、周囲とは格の違う巨大な建造物。


純白の石材と黄金の装飾。

遠近感が狂うほどの規模。


白亜の壁面は朝日を受けて淡く輝き、その光が空気ごと震わせているようだった。


巨大すぎて、建造物というより地平線に突き刺さった"壁”のように見えた。


「1キロか……ちょうどいい散歩になりそうだな」


徒歩15分。

勾配を考えても負荷は最小限。


身体のコンディションも良好だ。

幸いなことに。


周囲の人たちは馬や豪奢な乗り物で移動している。

そういうのを見ると、囚人を移動させるなら殊更何かに乗せた方が効率的だろうに。


危機管理どうなって……いや、危機感が足りないのは私の方か。

この世界の常識に、私の尺度を当てはめる方が間違っている。


兵士の配置、監視の死角、逃走ルート——遠くばかりに気を取られていた。

だからか、すぐ目の前の"壁"に気づくのが、致命的に遅れた。


「ふぎっ……!?」


正面から硬質な何かに鼻をぶつけた。


壁?

こんな開けた場所に壁なんて──


涙目で見上げると、それは壁ではなく、いつの間にか前にいたキースの背中だった。


岩盤のような広背筋。

服越しでも密度が伝わる。


「おい。前を見て歩けと言われただろうが。それとも、わざとか?」


呆れとも警戒とも取れる声。

それにしても、さっきから「おい」「お前」としか呼ばないこの男の将来を、私は静かに案じた。

名前を呼ばず、”飯”と”茶"で会話が成立すると思っているタイプは危険だ。

結婚してたら熟年離婚一直線である。

ソースは何かの熟年離婚特集だが……


「……なんだ、その目は。憐れむような薄気味悪い光を向けるな」


「いえ。何でもありません。ただ、貴方の行く末を案じただけです」


すかさず「鉄壁の愛想笑い」を最大出力で発動。


キースは苦虫を十匹噛み潰したような顔で横を向いた。


……ん?

耳が赤い。

怒ったのか。


感情が顔に出やすいタイプらしい。

彼は扱いにくいが読みやすい。

心の中でそうメモをつける。


「これから、この馬車に乗る。中で騒ぐなよ」


隊長が豪奢な馬車の扉を開けた。


先に隊長が乗り、続いて私──と思ったら。


「乗れ。足元に気をつけろ」


隊長はちょっとした気遣いを見せつつ、私に横の席を促した。


前はガラ空き。

当然キースがそこに座ると思った。


だが、なぜかキースは対面を無視して、私のすぐ隣に腰を下ろした。


狭い。

サンドイッチ再び……


革張りの座席は上質だが、閉ざされた空間に車輪の振動がこもり、逃げ場のない密室感をさらに強めていた。


無駄にがっしりした体温が、厚い生地越しに伝わってくる。

腕が触れ合い、圧迫感が増す。


まだ怒っているのか。

もし暴れられたら、この距離……


脳内で、いつものシミュレーションが静かに展開される。


手枷を鈍器ではなく”楔”として使う。

狙うのは男としての最大の急所。


全体重を乗せて手枷の角でそこを強打し怯んだ隙に──


「…………」


私は無意識に、キースの股間付近を凝視していた。


最小限の力で最大のダメージを与える角度を探る。


「っ……な、何を……どこを見てるんだ……っ!」


キースは弾かれたように膝を閉じた。

耳まで真っ赤になっている。

身を捩って私の視線から逃げる。


「……別に、"急所”を確認していただけですが」


「きゅう……!?き、貴様……なんて"破廉恥”な……!?」


キースは絶句し、肩を震わせながら窓際へ逃げた。


……破廉恥?


急所を狙うのが破廉恥なら、実戦はどうなるんだ?


心外な罵倒に首を傾げつつ、ようやく空いたスペースに身を預けた。


車内に、先ほどとは違う種類の、ねじくれた沈黙が流れる。


キースは二度とこちらを見ようとせず、しかし耳たぶは真っ赤なままだった。


隊長は一瞬だけこちらを見た。

その視線に、説明のつかない揺らぎが混じっていた。


私は狭い車内で隣り合うキースの、どこか落ち着かない呼吸音を聞きながら、窓の外を流れる白亜の宮殿を眺めた。


そこで待ち受ける理不尽と、逃れられない運命。

それでも、足を止めるという選択肢は最初から存在しない。


止まれば、そこで終わる。


手枷の鎖を小さくジャラリと鳴らし、無意識に眼鏡のツルに触れたとき、めくれた袖口からちらりと時計が見えた。


自嘲気味な笑みを飲み込み、私は再び表情を"無"へ戻した。

https://ncode.syosetu.com/n7638mj/

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