↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
自称現実主義者の異世界トリップ〜自称リアリストは異世界で逆ハーの夢を見るか?〜  作者: GUOREN
現実主義者(自称)が異世界トリップ?

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
10/261

10.

幼い頃から世界中を転々として、歴史を抱えた建物や、息を呑むほどの景色をたくさん見てきた。

そのせいか私は、美しいものにめっぽう弱い。


それは物だけに限らず、人間に対しても同様だ。

ただし、私が心奪われるのは、実を伴った美だけで。

張りぼての美しさには、微塵も興味が湧かない。

特に、それが私の脅威になり得る場合には。


……とはいえ、私は現実主義者(周りからは違うらしい)。

それでも、美しいものを見るとテンションが上がるのは事実で。


だからこそ、この世界で出会う男たちが、揃いも揃って美形ばかりであることには、正直いって気疲れしている。


美しいものは好き。

でも、恋愛は相手が美しいからという理由だけでは成立しない。

それは、完全に別物なのだと思う。


左腕にある時計を、指の腹でそっと撫でる。

触れた金属の感触に、胸の奥に沈めていた古傷が、微かに、けれど鋭く波立った。


……落ち着け。

これはただの条件反射だ。

感傷なんて、もうとっくに精算し終えたはずだろう。


◇


「……ああいうのが、好みなのか」


重苦しい沈黙を切り裂いたのは、キースの唐突すぎる、そしてあまりに無遠慮な問いだった。


部屋を去るアークオーエンさんの後ろ姿を、私が"抜き身の日本刀"のようだと見惚れていたのがどうも原因らしい。


「「え゛?」」


私とローアム隊長の声が、ぴたりとハモった。


思わず隊長の顔を見ると、彼もまた「何を言い出したんだこいつは」という驚愕に固まっていた。


アークオーエンさんが去り、囚人の容疑も事実上晴れた今。

ローアム隊長は、いつの間にかキースの隣まで歩み寄っていた。


2人の騎士が並び立つと、その圧倒的な存在感と造形美に、部屋の空気が一段と重くなる。


うっ、眩しい。

2人がなんか発光してる気がする。


ヘイロー?


視線をキースに戻すと、当の本人は自身の発言に1番驚いているような顔で狼狽していた。


まるで、意識の深層にある"何か"が勝手に口を動かしたかのように。


今はまるで、叱られた直後の犬のようにしおれている。


いや、誰だよさっきまで私を殺す気満々だった男は。


わんちゃんかな?


……はぁ、落ち着け、私。

この異常事態のなかで、彼らに情緒の安定を求めるほうが間違っている。


「……あの、彼はいつもああいう、"直球すぎる質問"を投げてくる人なんですか?」


なるべく外来語を使わないように、噛み砕いた言葉で隊長に確認する。


「いや……済まない。さすがに今のは私も予想外だ。……キース、己の立場と場所を弁えろ」


「……っ、失礼しました!私は、ただ……!」


私を囲むように、至近距離まで近づいた隊長。

そして、耳の付け根まで赤くしているキース。


3つの視線が、逃げ場のない空間で交差する。


こういう場面なら、キースの先ほどの質問を大抵は聞き流すのが正解だろう。

しかし、真剣に問われたからには、誠実に答えるのが礼儀だと思っている。


美しいものは美しい。

それを話すだけの話だ。


えー、キーシェ……キーシュ……なんだっけ。

……まあ、キースでいっか。


「……で、キースさん?様?の先程の質問ですが、好みでいえば、好きですよ。あの系統の顔」


淡々と、事実を羅列するように返答すると、今度は2人揃ってギョッとしたまま彫像のように固まった。


キースは目に見えて肩を落とし、顔を伏せた。

さっきまで牙を剥いてた図体のでかい犬が、耳を伏せて尻尾を巻いた子犬みたいになった。


一方、隊長は顔を顰めた後、まるで想定外の機密文書を渡された官僚のように困惑して、暫くしてから腑に落ちないとでもいうように首を傾げた。


この2人、観察していると実に面白い。

さっきまで私の命の灯火を奪い合っていたはずなのに……

この2人の反応、じっくり観察したら見物だな。


こちらの言動ひとつで、反応が目に見えて変わる。

ほんと、観察対象として優秀すぎる。


「まあ、その観点でいえば、隊長もキース……様?も好きですよ。……顔が」


事務的にトドメの追い打ちをかけてみる。

さっき散々脅されたんだし、これくらいの意趣返しは許してほしい。


その瞬間。


キースが弾かれたように顔を上げ、隊長はあからさまに動揺したのか視線を彷徨わせた。


キースの問いたげな視線。

苦渋を滲ませるような隊長の横顔。


2人のそれぞれの仕草が、不自然なほど静かで……


酷く色っぽい。


それらに、私は一瞬だけ目を離せなくなる。


腹立つ、言い出したのは自分だけども。

はぁ、言うんじゃなかった。


そもそもだ、あなたがたほどの美形が今さら称賛されて照れるのは反則では?


このレベルの騎士なら、道を歩けば老若男女問わず視線を奪い、令嬢たちからひっきりなしに声が掛かるのが日常だろうに。


何を今さら私ごときに言われて初々しい反応をしているんだか。


今の反応、普通に可愛かったけども。


思わぬ2人の反応の"可愛さ"に、私はつい、クスリと笑ってしまった。


いやいやいや、待て。


……かわっ、可愛い?


脳裏に浮かんだ単語に、私は戦慄した。


大の男を捕まえて可愛いって何だ。

それも、自分を殺しかねない騎士を前にして、可愛い?

何を考えているんだ私は。

いけない、いけない

絶対に、ぜーったいにっ、いけない。

私の脳みそ、今日だけで何回バグってるの。


私はもう、恋愛はしないと誓ったはずだ。

その決意の結晶が、日本に残してきたあの分譲マンションだったというのに。


あの努力が一時の感情で全部パーになるなんて嫌すぎる。


「今の私はおかしい」


そう冷徹に分析し、結論付けて、暴走しかけた私の心拍数を無理矢理ねじ伏せる。


つい先ほどまで死の恐怖に晒されていた異常な環境。

これは吊り橋効果の一種だ。

一時的な脳のバグにすぎない。


そう、自分に言い聞かせた、その瞬間──


扉に乾いたノックの音が響いた。


「アークオーエン様より、レイ=タダノ=オカシズキー=ド=ジャポン様へ、"御託け(おことづけ)"がございます」


……っ!


その仰々しい、呪いのような偽名が響いた瞬間。

私の体温は沸点を超えた。


羞恥心が怒涛の勢いで押し寄せ、視界の端がチカチカする。


この場で土に還れたらどれだけ楽か。

むしろ今すぐ埋めてほしい。


顔が真っ赤に火照り、耳鳴りがする。


あまりの気恥ずかしさに、私は思わず口をパクパクさせてしまった。


部屋の空気が、一気に変質した。


無防備に弱みを晒してしまった私の仕草に、2人の視線が鋭く、執拗なまでに吸い寄せられたのが分かった。


その刹那、部屋の温度がわずかに上がった錯覚を覚える。


言葉もなく立ち尽くす私を、2人の騎士が同時に絶句しながら見つめる。


至近距離で、火がついたみたいに赤くなった私を凝視したまま、キースの喉仏が大きく上下した。


「……っ」


それまでの不機嫌な仮面が剥がれ、そこにあったのは、読めない眼差しだった。


その意味を図ろうとして……

失敗した。


キースが1歩、私の間合いに近づいたからだ。


……やめて。

そういうの、ほんと心臓に悪い。


一方、隊長は盛大に咳払いをした。

隊長の咳払いに釣られるように反射的に顔を見ると、磨かれたガラス越しに、逸らされた隊長の瞳とかち合った。


だが、彼の態度からは先ほどまでの冷静沈着さとは異なる、張り詰めた緊張感が漂っている。


そこには、大人の余裕をかなぐり捨てたような……

底知れない何かが湛えられていた。


え?

切羽詰まってる?

敵でもいるの!?


それにしても色っぽ……


いやいや、隊長、黙って立っているだけでその色気は暴力だ。

本当に、この国の騎士はずるいな。


彼らの視線は、私の反応をじりじりと追ってくる。


あ、そっか返事しろと。

そういうことだな。


「……あ。……あ、はい」


動揺のあまり、かんだ。


扉が開き、茶色の髪を上品にまとめた使用人の女性が入ってきた。


その清潔感あふれる、けれど完璧に整った顔立ちを見た瞬間、私は天を仰ぎたくなった。


……はぁ。

本当に、この国は……

隙のない美形しか、いないのか。


かわいい。

文句なしに、清純で、それでいて華やかで、本当にかわいい。


ここに来てから、造形の美しさに心酔し、同時にその波状攻撃に、私の審美眼はすでに食傷気味だった。


私は、これから始まる"御託け"への不安以上に、この逃げ場のない美形包囲網から、どうやって自分の平穏と理性を守り抜くかという、極めて個人的で切実な戦いに、深く深く、頭を抱えていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。