4.
これまで生きてきて、まさかこんなセリフを吐く時が来るなんて思いもしなかった。
「ここはどこですか?」
目的地を聞くでなし、目的地の道順を聞くでなし、国や地名その他諸々の情報を問うた超アバウトな質問。
「ここはどこですか?」
このセリフが有効なのは、誘拐された時と、拉致された時と、致命的な迷子になった時だけだと思ってた。
まさかこの自分が言うなんて、このうん十年考えた事もなかった。
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「キース、待たせたな」
開いた扉から、もう一人出て来た。
「あ、隊長」
「どうだ、何か話したか」
後から出て来た隊長とやらは、キースという男に話しかける。
キースとは、現実逃避中だった私にずっと何か話していた嫌な目付きをする男だ。
「それが何も。妙な事を口走っては、変な動作をしていました。かなり怪しいです」
んなっ。
ただ頭が痛くて呻いただけだし。
頭痛に耐える事が出来なくて、頭抱えただけだし。
誤解だし。
怪しいって。
人が大人しくしていれば、言いたい事言って。
まぁ、だからといって何が出来るってわけでもないので、大人しくしている。
くそっ。
あらやだ、うっかりスラングが。
「そうか。それより少し気になる情報が入ってきている」
隊長は声のトーンをひとつ落としてキースに話し出す。
何々、情報?
今はどんな事でも知りたいぞっと。
聞く体制はばっちりだ。
「情報ですか?」
そうそう、聞き出せキース。
人から話を引き出すのは、社会人として必須スキルだぞ。
頑張れキース。
いけいけキース。
「一旦あちらに戻るぞ」
一瞬こちらを見ながら言う隊長。
あちゃー、賢明な判断だ。
最低限心得てるわ、この人。
だけど、情報が入って来た事を洩らすのは-1だ。
おしい。
「了解しました」
あぁー、行ってしまった。
こういう状況の判らない時というのは、何でも良いから知りたいのだけど、残念だ。
さて、これからどうなるのやら。
不安が、二人の歩き去る音と反比例して大きくなる。
「あれはどうしますか?」
最後に聞こえた、聞き捨てならないキースの言葉に反応する。
あれと呼ばれた私。
正直不快だ。
「明日戻……その……に……んする」
不明瞭な声だけを残して二人は去って行った。
遠く離れているであろうこの場所でも、話声はかすかに聞こえた。
3つの月に照らされた、牢屋と私。
浸っていたところで、私の腹の虫は大きく”めしー!!”と喚き散らした。
「……ぷッ」
物音一つしない空間の中で、遠くにいる二人の内のどちらかが吹き出したらしい。
まだ居たのか、失礼な奴らめ。
「明日こ……に来る……に、……くを持って……てやれ」
やった……って明日かぁ。
こういう時は、寝る。
寝るに限る。
そして、気付いた。
ここがどこかという質問には答えてもらってなかった事に。
はぁ~
結局今日一日何回溜息ついてんだろね?本当に。
また、また名前が…
男の名前なんてどうでもいいから、主人公…
なかなかキャラが名乗り上げようとしなくて、逆に自己主張の激しい奴が名乗ってしまった。
本当にすみません。
しかも展開が遅い。
それでも、見捨てずお付き合いくださいませ。
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