3.
先にあったものをこちらに移動しました。
……結局、朝が来た。
処刑も尋問もなく、ただ眠ってしまったらしい。
どんな状況でも定時に起きる私の体は、我ながら逞しい。
そういえば、夢を見た。
妙な夢だった。
突然男がやって来て、開口一番に謝られたのだ。
謝られる理由がないから頭を上げてくれと言っても、謝り倒された。
ひたすら謝り続けるこの男、名前をジオイ……なんだっけ?
まぁ、ジオでいいや。
で、なんで謝っているのか?と聞くと、「君を元に戻せないかもしれないからだ」との事だ。
思わず、顔が引きつった。
ジオの話によると、落雷のエネルギーを利用した、省エネ転送法を使って、誰かをここに送る予定だったのだという。
だが予想外な事にその時間は雨が降り、後ろを走行中の私の車が側撃雷をうけ、一時的に極の役割を果した為転送フィールドが広がったとの事。
何だそれ?
一体どういう……
ん?
待って、雷と雨はたいていセットじゃないか?
予想外でもなんでもないだろうに。
「いやぁ、雷って便利なんだよね」
いやいや、便利とかの問題じゃない。
「で、送りこむ為、設定質量を余裕を持って140Kgに設定していたら、60Kg程余っていて転送フィールド内にいた君と君の荷物がこちら側に送られてきて。もし60Kgを超えていたら、君の体か荷物が削られていたかもしれない」
「待て」
「ん?」
「今さらっと恐ろしいこと言わなかった?」
「言った?」
「言った」
「大丈夫大丈夫」
「何が大丈夫んだよ」
「無事じゃん?」
おい!?
まぁ、いい。
よくないけど、一番肝心なことを聞いていないから。
元の場所にはやはり戻れないのかと聞いたら、判らないという。
戻れたとしたら、時間はかなりずれるとの事だ。
もちろんジャストで戻れるかも?とも言っていた。
マーキング済みの謎人物ならともかく、イレギュラーには難しいそうだ。
「やっぱり、そういう落ちか」
と、思わず呟いてしまった。
「詫びにオプションを付けておいた」
「で?」
なんだよオプションって。
ジオは、にやりと笑う。
う、なんだか嫌な予感がする。
「運気上昇と、あらゆる生物に好かれる性質だ」
なんだか得意げだ。
イラっとくるのは私だけ?
「いらない!」
即答した。
「え?」
「いらん。頼むから元に戻してくれ」
私の脳裏に、ハーメルンよろしくぞろぞろ湧いて来るつちのことゴキブリ。
うっ……
無理……
足元にゴキブリ……
無理、絶対無理。
「えー?変わってるな。確変モテ期最強状態、又の名を"俺のターン"なのに喜ばないって、枯れてるとか言われない?」
「と・に・か・く、元に戻せ!」
冗談じゃない。
私は目立たず、おとなしく日々過ごすことを望んでいる。
「まぁ、元に戻せというのなら、元の状態に戻すけど。俺ならそのままにするけどな。いいじゃん、ハーレム」
いや、そういうのに興味ない。
というか、元に戻るなら何でもいい。
「じゃあ、オプション他に希望とかあるか?」
「ない」
「飛行能力とか?」
「墜落死させる気?」
「剣聖」
「権力者に利用されるだけだよ、あれ」
「無限収納」
「整理できなくなって終わる」
「ドラゴン変身」
「人間に戻るとき社会死するでしょ、それ」
「君、人生楽しい?」
「楽しいと思う?」
「え〜?ここは、考えうるあらゆる能力を言う場面じゃないのか?おかしいな、皆すっごいの頼んでるの何かで見たんだけど」
何情報?
「な・い」
「……よし、決めた。じゃあ、加護をやろう。君にここにおけるあらゆる祝福と加護を。ちなみに拒否は不可だ」
なんだかもやもやする。
同意してないのに有料オプション付いてくるやつみたいな……
それ副作用とかあったら嫌だな。
とか思っていると、朝の6時になったのか目が覚めた。
変な夢だ。
希望も何もあったものじゃない。
すると、左手に小さく痛みが走った。
何だ?と思っていると、一瞬模様が浮かんですぐに消えた。
もう1度見たが、そこには何にもなかった。
……気になるので夢を反芻してみる。
あらゆる生物に好かれる性質。
確変モテ期。
え?
いや待って。
昨日、キースや隊長が妙にこちらを観察していたのは……
いやいやいや。
んな馬鹿な。
ただ職務上、警戒されていただけだろう。
どちらにせよなぜあんな夢を見たのか、よくわからないが、あの男が言っていた加護とか言うのは迷惑すぎる。
夢でよかった。
本当に。
窓から風が入る。
風に乗って、小さく声が聞こえたような気がした。
『君に加護と祝福を。行く先に幸多からんことを』
は!?
——夢、だよな?
なのに、殴ってやりたい衝動がおさまらない。




