3.
3つの月は輝いていた。
月を見ていると、急に頭痛が起り思わず蹲る。
それと同時に腹が鳴った。
そう言えば、昼から何も食べていない事に気が付いた。
頭痛と空腹で身悶えしていると、通路の向こう側の扉が開く。
中から一人の人物が出て来て、こちらを向いて立ち舐めまわす様に私を見ていた。
嫌な眼だ。
「異世界か~」
口に出して呟いてみた。
言葉は扉の奥に吸い込まれる様にして消えていく。
向こうの部屋の壁には、赤い花が生けてあった。
萎れていた。
「お前は何者だ?」
そう言えば、昔友人に借りた小説や漫画の中で、異世界トリップを題材にした物があった。
異世界にも関わらず、何故か主人公の言葉が通じるというオプションが付けられていた。
どうやら、私の場合もそれが付いているらしい。
言葉の通じ方って一体どうなっているんだろう?
まぁ、落ち着いてから考えれば良いか、っていやいやいや何を認めてるんだ?
おかしいから、どう考えても。
一体何だって言うんだ。
それにしても社会人になってから、小説や漫画を読まなくなった。
毎日のルーチンワークをただ只管にこなし、余計な事をしなくなって7年も経つ。
そりゃ老けるはずだわ。
まるで、あの花の様だ。
と思った所で、眉間に皺が寄っているのが判った。
赤い花を見て、数年前の苦い思い出が蘇える。
その事を思い出すと、漫才を見ながらでも泣ける自信が有る。
ふっ切ったつもりなんだけどなぁ。
その考えを振り払う様に、頭を振る。
頭の走った痛みに、思わず呻いた。
独りで悶えて居る様を他人に見られるのが恥ずかしい。
かなり、恥ずかしい。
「おい!?」
そう言えば、認識すると現実になると、ある人が言っていた。
シュレーディンガーの犬だか猫だか忘れたが、ともかくその人物は風邪を例に出して熱く語っていた。
『いいか!?風邪は気合いだ。シュレーディンガーの犬ってあるだろ?あの話はな、己自信が何らかの形で認識したとたん現実になるってー話だ。つまり俺が言いたいのはな、風邪は気付くな働け』
どんだけだよ。
それにその理論、何だか間違っている様な気がする。
激しく間違っている様な気がする。
だが、あえてその理論でいけば、私は今、確実に年を取った。
何せたった今、自分が年をくった事を認識してしまったからだ。
そして先程、認識してはいけない物まで認識してしまった。
思わずあの窓を見て頭を抱える。
「何をしている?」
はぁ~
思わず、目を瞑って溜息をついてしまった。
涼しい風が私の頬をかすめる。
労わる様に、慰める様に。
8月なのにまだ涼しい風は吹くのかと、無理やり思い込もうとした。
出来なかった。
もう一度溜息を吐いた。
石造りの部屋だからとか、海の近くまで無理やり拉致られたとか、色々言い訳をして思い込もうとしたが、どうにも上手くいかない。
自分の性格の融通の利かなさがここにきて堪える。
「聞いているのか?」
はぁ~
もう何度目かの溜息を吐いて、ようやく目の前に居る人物に焦点を合わせた。
はぁ~
もう一度溜息をつき、私は初めてこの世界のものに対して言葉を発した。
「ここはどこですか?」
ここは異世界である、と私の脳も心も認識し受け入れようとした瞬間だった。
誤字脱字とかなかったでしょうか?
指摘がありましたらよろしくお願いします。
主人公の名前を出してあげたいのに、まだ出ないですね。
もうしばらくお待ちください。




