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自称現実主義者の異世界トリップ  作者: GUOREN
自称現実主義者、従騎士になる

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255/256

255.

「ルイ、前へ」


セラ小隊長の言葉が、静寂を切り裂く。


私はパチン、と乾いた音を立てて扇を広げた。

貴婦人の嗜みを模したその動作は、鉄と血の匂いが漂うこの軍議の場において、あまりにも唐突で、場違いな空気を放つ。


扇の陰で、私は”極上の笑み"を作った。

頬を引き上げ、口角を鋭く吊り上げる。

隊長たちの面白がる視線を、この”変顔(これでも笑顔!)”で叩き潰してやるつもりで。


部屋中が、凍りついたように静まり返った。

誰もが息を呑み、微動だにせず私を見つめている。


……よし。

狙い通りだ。


——斜め上の方向で、だが。


私は満足して扇を閉じ、そっと立ち上がった。

無数のつぶてを浴びるような圧を受けながら、そそと──しかし、気品だけは崩さずに前へ出る。


私の歩みに合わせ、座していた隊員たちが波が引くように身を強張らせるのが分かった。


セラ小隊長がわずかに目を見開き、動揺を押し隠すような仕草を見せた後、私の手を取ってエスコートし始める。

その手の震えは、この異様な光景への困惑だろうか。


壇上へ。

五十の視線が、一斉に私へ向いた。


視界が開けた瞬間、シンヴァーク様の視線が、物理的な衝撃を伴って私に突き刺さった。

深淵のような、あの瞳が。


……あ

また、あの”熱”が……


私は、そのまま壇上で優雅に一礼した。


この場にいる全員の様子がおかしいが、いつものことなので気にしないことにした。

ほんとに失礼な人たち。


こうなったらノリに乗ってやる。

ナリアッテに仕込まれた淑女カーテシーを披露し、口を開いた。


「ごきげんよう、皆様。此度こたび卑賤な身ながら殿下の身代わりを務めることになりました、ルイと申します。何卒よろしくお願いいたします」


なんとかかんとかそれらしいことを並べ立て、挨拶に変えた。

扇で口元を隠し、目を細めて挑発して見せる。


だが、返ってきたのは予想外の”反応”だった。

嫌悪でも嘲笑でもなく、もっと根源的な、得体の知れないものを見るような沈黙。


えぇ、なんかめっちゃ引かれてる……


セラ小隊長に助けを求めたが、無視された。

11番隊長に至っては岩のように押し黙っている。

怖っ。


「……ルイ、席へ戻れ。詳細を詰める」


「はっ」


敬礼をし、普段よりはキビキビと戻る。


重いドレスの裾を捌くため、大げさに膝を使い、腰を回して歩かねばならない。ナリアッテの言いつけどおり、大輪の花のごとく王女然として人々の視線を自分に集め──

ひたすら優雅に歩く。


背後で、ため息がいくつも落ちた気がした。


ふと見たナリアッテの自慢げな表情。

今の歩行が及第点だったことに、心底安堵した。


セラ小隊長がようやく張り詰めた沈黙を破り、指示を続けた。


「身代わりの目的は二つ。『視線の誘導』と『決断の遅延』だ。敵の狙撃手が矢を放つ際、迷いを生じさせ、一瞬でも躊躇ためらえば、──我々の勝利だ」


セラ小隊長の声が、今まで以上に鋭く響く。


「ルイ、お前はロイミオ殿下と同乗し、イシンゾイア嬢(ナリアッテ)と共に控えてもらう。本来、護衛対象と身代わりは引き離すのが鉄則だが……これは殿下たっての強いご希望だ。受理された以上、我々はこれに最適解を出す」


セラ小隊長が、卓上に広げられた図面の一点を指し示した。


「4両の馬車のうち、どれに殿下が搭乗されているかは、出発直前まで伏せる。だが、どの馬車を襲撃されてもいいように、窓には『防矢加工』を施した。おそらく襲撃は矢より剣が主となるだろうが。ルイ、お前の役割は、襲撃があった際に窓際で『殿下がそこにいる』と敵に誤認させることだ」


淀みない説明。

だが、その内容はあまりに苛烈だった。


「敵が馬車を包囲した瞬間、その偽りの影に攻撃を集中させる。その隙に、近衛の精鋭が逆側から一気に殲滅せんめつする。万が一のことがあれば──自身が車外へ出て引きつけろ。お前の命で時間を買え」


「……つまり、私は動く標的まとになれと?」


私が淡々と問うと、セラ小隊長は冷徹な瞳を向けた。


「左様。お前がどれだけ華麗に『殿下』を演じ、敵の判断を狂わせ、その命をひきつけられるか。それがこの作戦の『要諦ようてい』だ」


「了解しました」


その瞬間、しんと凍りついていた広間にザワッと波紋が広がった。

私に対して隠そうともしない、痛々しいものを見るような”哀れみ”の視線が集中する。


……同情するなら酒をくれ!


思わず心の中で毒づいた。

命を張るのは、今に始まったことじゃない。

そんなもの、とうに慣れている。


その時──

シンヴァーク様の射抜くような視線が、再び私を絡め取った。


その瞳の奥底で、何かが静かに、けれど激しく燃え始めている。

怒りか、悲しみか、それとも。


弱ったな……

その熱がどれほど真摯でも。


今の私には、応える術なんてない。

それが答え──











だ。

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