228.
「とにかくもう許してくれ」
いまだかつて聞いたこともないシンヴァーク様の切羽詰まったような声を聞いた。
と言っても、シンヴァーク様とはそれほど話したことがない。
それでもシンヴァーク様の表情を見てなんだか申し訳なくなってしまった。
こちらが迂闊だったばかりに、見たくもないだろうにあんな貧相なものを見せてしまった。
シンヴァーク様への申し訳無さ満載で見つめていると、いつも姿勢がいいのにお腹が痛むのだろうか姿勢が前かがみになりそうになっていた。
お酒飲みすぎた?
顔も赤いし、酔ってるのかな?
それとも怒ってるんだろうか。
まあ、怒って当然なんだけど。
はぁ。
頬に手をやって溜息をつくと、シンヴァーク様がビクッとなった。
「ルイ様、今すぐお召し替えしましょうね。こちらへ」
有無を言わさぬ声で侍従用の部屋へ誘導された。
ナリアッテがちらりと後ろを振り返ったのが横目でわかった。
後ろで小さくヒッとひきつる声がしたような気がした。
「ルイ様、大変申し訳ありませんでした」
部屋に入るやいなや、泣きそうな顔で突然の謝罪が始まる。
原因はきっとドレスのことだろうと推測する。
でもこれに関しては、私自身がどう考えても悪い。
絶壁なのもカップが足りないのも女性らしく出来ないのもきっと何もかも。
「いやいや、ナリアッテの謝ることではないよ。きっと本来の動きをしなかったからドレスがずれちゃっただけだし。普通お嬢様が立ち回りなんかしないだろうし」
「それでもです。特殊な状況下に置かれた貴人の安全安心を守れなかったのは私共の手落ちです。謝意を表すだけでは済まないのです。もし他のお嬢様方が男性に肌をさらしたなどとなるとその方は良くて修道院行きか、運がなければひっそりと儚くおなりになる場合もあるのです。貴人の素肌というのは人生がかかる程の重みを持つのです。それをあろうことか一介の騎士ごときがルイ様の」
私のために怒ってくれているので何も言えなかった。
後2、3人怪しいのがいるが、言わないでおく。
お口にチャック、大事。
「こほん、ルイ様はその、大丈夫なのでしょうか?先程その柔肌を……」
ナリアッテが心配そうに聞いてくる。
その表情だけでも私を労ろうとしてくれているのがわかった。
彼女の優しさに触れて温かい気持ちになる。
「不快でなかったわけじゃないけど、怒りとかはもうないかな?そもそも迂闊だったのは私だから。それよりも、これから顔を合わす時がちょっと色々不安というか、どういう顔して会えば……」
本当にどういう顔をして顔を合わせればいいのやら。
次に会う時が気まずい。
会わないわけにもいかないし。
困ったな。
「返す返すも申し訳ありません。この件につきましては命に変えましても収拾にあたりたいと思います。幸いこの件を知っているのは我々3人だけ……」
なにか深く考え込むナリアッテ。
頼むからそんなことで命かけないで。
思い詰めないで。
「かくなる上は闇に葬り……」
闇に葬る!?
え!?
闇!?
どうやって??
どうやって闇に?
待ってナリアッテ、闇に葬るって言った時物理的にやってやるぜみたいな顔してなかった?
相手は曲がりなりにも騎士だよ!?
「こう、プスッと」
それ絶対あかんやつや。
「駄目です駄目です。ナリアッテ穏便に、穏便にいきましょう。ね?」
前から思ってたけど、ナリアッテ過激すぎない?