12.
幼少期に、ヨーロッパからアフリカに至るまで色んな国に行った事があった。
そこかしこで見た、芸術品や壮大な自然の美しさ古代遺跡群に心を奪われ、いつしか芸術品並みに綺麗なものに目の無い人間になった。
それは物だけに限らず、人間に対しても同様だった。
張りぼてには興味がわかない。
実を伴う内面の美しさにこそ心を奪われる。
とにかく、私は美しいと思うものには目がない人間である。
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「ああいうのが好みなのか?」
と、キースは言った。
「「え゛?」」
私と隊長が同時にハモる。
思わず隊長の顔を見る。
すると、隊長も困惑気味だ。
なので、キースの方を見た。
キースも何故か狼狽している。
まるで、口が勝手に動いたかのように。
「アー、彼はいつもあんな感じなんでしょうか?」
取り敢えず、隊長に聞いてみる。
「いや、今のは予想外だ」
「はい、私もです」
2人して、キースをじーっと見る。
見られたキースは慌てた様子で、こちらに向かって何やら言っていたが、何を言っているのか解らなかった。
隊長を見ると、苦笑しながら首を振る。
隊長も、よく解らなかったらしい。
さっきまで、あんなにお互いシグナルで会話していたのに、さすがに今のは解らなかったみたいだ。
「で、キースさんのさっきの質問ですが、好みでいえば、好きです」
外見は。
今度は隊長とキースがギョッとする。
まさか、私がまともに返答するとは思っていなかったらしい。
まー、普通は流すか何かするだろうけど、ここは敢えて流さず質問に答えてみる。
私が答えた時の2人の反応は様々だった。
キースは肩を落とし顔を俯け、隊長は顔を顰めた後首をかしげ、不思議な表情に変わった。
この2人観察すると、結構面白いかもしれない。
「まー、その観点でいえば、隊長もキースさんも好きですよ」
顔が。
キースが顔をパッとあげ、隊長は照れたのか落ちつかなげに視線を彷徨わせている。
ふむ、なかなか面白い反応を見せるな。
言われ慣れてるだろうに。
それに言われた相手が私じゃ、カウントにも入らんだろう。
何を慌ててるんだか。
思わぬ2人の反応の可愛さに、思わずクスリと笑ってしまう。
そしてハッとした。
可愛い?
大の男捕まえて可愛い?
何を考えているんだ私は。
いけない、いけない。
もう恋愛はしないと誓ったではないか。
その為のマンション購入だったし。
所謂、生涯独身宣言。
こんなところで恋愛なんぞしたら、購入代金全額パーだ。
この数年の、お金を貯める為に使った時間と労力が無駄になる。
こんな事でふいにできる、時間と金額ではなかったはずだ。
それに、なんでちょっと可愛いからとか、色っぽいからとかで恋愛に結びつく?
もう、それだけで恋愛できる歳ではないというのに……
異世界という異常な環境で、精神状態が少しおかしいのかもしれない。
つい先ほどまで、私は緊張状態にあったのだ。
吊り橋効果か何かで、きっと影響があったに違いない。
そう、今の私はおかしい。
そう精神状態を分析し結論付けた。
はぁ、ここにきてから私は何度溜息をついたことか。
ともかく冷静になろうか。
そう考えた所でノックが鳴った。
「アークオーエン様よりレイ=タダノ=オカシズキー=ド=ジャポン様へ御託がございます」
フ、フルネーム……項垂れる。
挙動のおかしい私を一瞥したキースが一瞬動揺したが、気を取り直して中に入って来るように促した。
すると、茶色の髪をアップに上げたとても可愛らしい使用人が、優雅な所作で礼をし中に入ってきた。
はぁ、本当にこの国美形しかいないんだな。
何ともいえない気持ちになった。
キースのとんでも発言で微妙な空気に包まれた今作ですが、生温かく見守っていただけたら嬉しいです。