10.
私が何か言う前に、キースが扉を開ける。
はぁ、心の準備ができていません。
ちょっと不安だ。
だけど、そんな不安を上回る人類の敵がやって来た。
というか、すでに囲まれている事に今気付いた。
美形は滅ぶといいよ!
思わず叫んだ私は悪くない。
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扉が開くと、1人の男が入ってきた。
こちらを品定めするような、そんな目でこちらを見る。
昨日からこの視線に晒された事、幾数回。
正直飽きた。
取り敢えず、じっとその視線に対抗するように見つめ返してみる。
相手が驚いた様な顔をした。
だけど、すぐに無表情を装った。
お~、表情筋鍛えられてるなぁ。
などと感心しつつ、観察を続行。
そしてその男は、どことなく優雅な足取りでこちらに向かってくる。
貴族かな?
貴族なんだろうな。
オーラがセレブだ。
本物は違う。
それにしても、と思う。
この国は、美男美女が多い気がするのは、私の気のせいか?
現に目の前のこの男は、30代前半の怜悧なタイプの男前だ。
そして隊長は、30代の渋みが出てきた、落ち着くタイプの男前。
加えていい声。
キースに至っては、20代独特の青さの残った美形。
この3人を前にすると、男も女も溜息をつきたくなるだろう。
男は嫉妬で、女も嫉妬で。
ともかく、この2日間で出会った人物全てが、整った顔立ちをしているのは確かだ。
これは凄い確率なんではないだろうか?
と言っても3人だけだが。
待てよ?
あの、ロンドン兵よろしく扉の前に立っている2人も、なかなか顔が整っていた。様な気がする。
いやいや、それを言うなら、馬車に乗る前に私をじろじろ見ていた奴らも、美形度高くなかったか?
女の子もやたら可愛いし、美人とかもちらほら見えた。
え?もしかして、私の様な顔って、ここではマイノリティーなのか?
友人曰く私は、数日経つと思い出せなくなるんだそうだ。
いつも「~さんってどんな人?」と聞かれて困るんだそうだ。
ひでぇ。
これでも印象に残るように、ダサい伊達眼鏡して、特徴をつけて努力してるって言うのに。(友人曰く、流行りのファッションとかしていると、逆効果なんだと)
ともかく出会って数秒で脳内消去されてしまうような私は、外回りには向かず内勤だ。
だが名刺の減りは半端ない。
営業でも何でもないのに。
減るわ減るわ私の名刺。
多分、同じ人物に2度渡し3度渡ししてる事がしょっちゅうだからだろうな。
そろそろ名刺代を請求されるんじゃないかと、戦々恐々としている。
さて、何故顔の話をしているかというと、実は2人組の顔をじっくり見たのはこれが初めてだったからだ。
隊長は、顔を見ようと思ってもどうしても逆光になる位置に立っているか、背後に回っているため見る事が出来なかった。
キースも同じく逆光で、一度正面からまともに見たけどすぐに顔を逸らされた。
なので、じっくり見る機会がなかったのだ。
はぁ、改めてこの3人を並べて見ると思わずにはいられない。
この世の美形は滅ぶといいよ!
3人が一斉にこっちを見て、私はギョッとなる。
え?なに?
あっ。
どうやら、声に出していたらしい。
3人の視線が痛い。
非常に痛い。
この2日間の中で、最も居た堪れない。
穴があれば入りたい。
穴がないのでとりあえず俯いておく。
「そろそろいいだろうか?」
アークオーエンという人物が口を開いた。
とっさに顔をあげたら、ひっ、睨まれた。
怒ってらっしゃる?
あーくそ、美人が怒ると本当に怖いなぁ。
しかも他の二人も、なんだか無表情で怖いし。
はぁ、もう何とでもすればいいよ。
腹をくくった。
恐る恐るそろーっと、上目遣い気味に相手の様子を見た。
目があった。
その途端、アークオーエンという人物が、片手で顔を隠し目を瞑って何やら考え込んで動かなくなった。
動かなくなった男の姿を見て、不安が戻ってきた。
どんな質問が飛んでくるんだろう?
お前はどこの国の人間だ?
とか、どうやって入国した?
とか、仲間はいるのか?
とか、どこに所属している?
とか、何を知っている?
とか、すべて吐けば楽にしてやる。
とか、うわー嫌な展開しか思い浮かばないぞ。
背中に嫌な汗をかきながら、表情筋を総動員して無表情を保つ。
とりあえず話を聞く時は目を合わせるのが、私のモットーだ。
姿勢を正し、聞く体制に入った。
もちろん目を合わせる事も忘れない。
アークオーエンという人物が再起動し、空いている椅子に腰かけた。
「私はファイン=クェイネル=デラ=アークオーエンです。まず貴方のお名前をお伺いしてもよろしいでしょうか?」
ん?自己紹介?
しかも言葉遣いが丁寧。
囚人に対する態度ではないような気がする。
ここに入ってから、手枷も外されているし。
もしかして、この人は私が囚人だという事を知らない?
考え込んでいると、小突かれた。
「あ、私はレイ=タダノ=オカシズキー=ド=ジャポンです」
ま、間違ってなかったよな?
ちょっとドキドキした。
「まず、ジャポンさん、貴方に確かめてもらいたいものがあります」
……ジャポンさん。
思わず遠い目をする。
アークオーエンさんが突如人を呼ぶと、部屋の中に誰かが入ってきた。
何やら物体を抱えて。
あれは……
とうとう10話目。
男率が高いですが、今後恋愛に発展するかは主人公とヤローどもの行動如何となります。
皆様の各キャラの応援度にも左右される可能性があったりなかったり。
とりあえず、生温かく見守っていてください。
ここまで読んでいただいた皆様、並びにお気に入りに登録していただいている皆様ありがとうございます!!
では、次話でお会いできるとうれしいです。