第44話 「見えない脅威」
その魚影は、一種の恐怖を感じるほどに大きい。
「……急ごう。このまま派手にやれば周辺の街も壊しかねない」
キィーッと金切り声を上げて、頭が浮かび上がる。
大きく波を揺らして現れたのは全てを呑み込むような口だった。
白く尖った歯の奥は、深淵そのもの。
「冬夜っ!!」
『分かった、任せて!』
藤の声を聞いて、双樹も飛び出した。
『第三機は敵を東へ引き付けろ! そこでは湖の端に寄り過ぎている!』
『了解!』
藤はわざと敵の口元に近づき、標的が自分になったことが分かるとスピードを上げて焚きつけた。
半身を現わしたセルファも第三機を喰おうと動き出す。
「……大丈夫。……俺なら出来る」
双樹は反対側へ飛び、セルファの意識外まで離れた。
そして迷いなく、水中へ飛び込んだ。
『花棺第七機、呼吸器官起動しました!』
『稼働時間は!?』
『待ってください、……約三分です!』
『双樹、行けそうか?』
花棺から見える視界は深い青。
双樹は小さく頷いた。
「はい」
朝桐はよし、と呟いた。
『これより、作戦主導を第七パイロットに一任する。ただし、責任者は私。緊急時は指揮官の指示に従うこと』
第七機は湖の底を目指す。
『はは、双樹大抜擢じゃん。それで、俺はどのタイミングで撃てばいい?』
「俺がセルファの真下に来た時に。花澤さん、合図をお願いできますか」
『もちろん。任せてください』
藤は明るく笑った。
『それじゃあ、もう少しコイツで遊んでやろうかな』
双樹は第七機をさらに深く潜らせた。
暗く、何も見えなくなるほど。
「敵位置は真っ直ぐ北……」
次に花棺は湖の中心に向かって潜行した。
双樹は先の戦闘で一つ、気づいたことがあった。
敵の攻撃がすぐそこに迫り、動揺で武器を解いてしまった瞬間だけ、核は移動せず双樹の目の前にあった。
つまり、
「敵は脅威だと感知しなければ、核を隠す必要もない」
それは巨大生物としての油断、驕り。
『第七機、標的直下到着まで、あと十秒!』
『よしきた!』
第三機はセルファの攻撃をかわしながら、大剣の切っ先を下に定めた。
『五!』
セルファの白い核がそれをじりじりと睨んでいる。
『四!』
水面は大きく揺れる。
『三!』
大きな龍が、空に飛び上がった。
『二!』
振り上げられる第三機の両腕。
『一!』
双樹が唱えた。
「上がれ!!」
『落ちろ!!』
藤が大剣を振り下ろし、これで何度目か、セルファの頭と胴を切った。
セルファは奇妙な声を上げながら、身は重力に逆らわず落下する。
『やっぱり核は避けられた!』
『身体もすぐに再生するぞ!』
藤と朝桐が叫んだのはほぼ同時だった。
だが双樹にとっては想定通り。
『第三十二生命体、損傷部を修復、水中に落ちます!』
どぼんっ、と派手な音を立ててセルファは側面を打ちながら沈み込んだ。
そのまま水中深くへ逃げようともがいている。
形勢を立て直せばすぐに活動を再開するはずだ。
『っ花棺第七機、核接触圏内!!』
だが、真下で待ち構えていたのは白い球を抱えた第七機だった。
双樹は口角を上げる。
敵の核は、双樹の眼前に曝け出されたままだった。




