第43話 「逆転の気づき」
「俺が前に出る」
『頼んだ』
再び現れた花棺二機を、セルファは視界に捉えた。
不気味な呻き声を上げるが、向かってくる様子はない。
「前進する」
双樹は背に第三機を連れながら、少しずつ距離を詰めていく。
『進行方向から敵の攻撃、来ます!』
花棺の眼を通して双樹もそれを認識し、落ち着いて意識を集中させる。
「っ!」
双樹はすぐに黄金の剣を盾のように構え、迫りくる水を弾いた。
『双樹よくやった!』
藤の嬉しそうな声が響く。
『そのままゆっくり近づいて』
双樹は藤の言うままに、攻撃を押し返しながら進み続ける。
第七機の腕も敵の威力によってわずかに震えていた。
『そう。ぎりぎりまで攻撃方向を悟られちゃいけない』
第三機は右後ろに肘を引いて、両手で掴んだ剣の切っ先を第七機の背中に定める。
セルファとの距離は、数メートルを切った。
『上に飛んで!!』
瞬間、双樹は敵の攻撃を引き受けたままさらに上空へ飛び上がり、入れ替わるように第三機が真っ直ぐ飛び込んだ。
剣はセルファの眉間に刺さり、花棺はそのまま大きな身を割って通り過ぎた。
塊が水に落ちて大きな水飛沫が上がる。
双樹はほっと息をついた。
それも束の間。
突然、藤が叫んだ。
『打ち損じた!! 核に当たってない!!』
双樹は慌てて花棺の視界を下に向けた。
そして、深い青の水面には、大きな口を開けた龍の顔があった。
「ひっ……!」
『狙いは第七機だ!!』
朝桐が声を上げる。
だが双樹は体が固まって動けない。
ついにセルファは身体を現わし、正面複数の穴から水を放つ。
「あ……! っ武器が……!!」
さらに、双樹の精神状態が一瞬不安定になったからなのか、武器が単なる複合核へと戻ってしまった。
敵は、確実に双樹を仕留める気だった。
『双樹!』
セルファが花棺の足元を喰おうとする。
誰もが危機感を覚えた、その時。
「っ……え、」
『双樹! よく避けた!』
第七機が後退し、敵の本体をかわしたのだ。
双樹は指示を出していないのに。
だが、それに気づいているのは双樹だけで、戦闘は続く。
『しかし、第七機、胸部や左腕を破損。内部の呼吸器官もダメージを受けています』
『先ほどの水の攻撃か。もし水中戦になる場合は第三パイロットをメインに』
『双樹、武器は戻せそう? ……双樹?』
双樹は沈黙していた。
怖くなったからではない。
情けなくなったからではない。
ある思い付きに、目の前が明るくなる。
「冬夜。水中の敵を、湖の真ん中で撃ち下ろしてくれないか」
顔を上げた双樹の瞳が小さく光る。
『えっ……』
動揺する藤とは反対に、朝桐は冷静に返す。
『冬夜が撃ったところで、核は避けられ身体もすぐに復活するはずだが、何か意図があるのか?』
だが双樹は焦るように続けた。
『呼吸器官の限界が近いなら説明は後に! 俺が水中に入ります!』
『しかし……』
朝桐は言いよどむ。
『できます! やらせてください』
確信はないのに、双樹は震える声で叫んだ。
『……花澤、呼吸器官システムの状態は』
『損傷が広がりつつあり、使えなくなるのも時間の問題です。使用したとしても、持って三分ほどかと』
数秒の静寂。
『蓮さん。俺がカバーします』
切り出したのは藤だった。
『絶対に双樹を死なせない』
その芯を持った声に、司令室の朝桐は拳を握りこむ。
そして、指揮官として口を開いた。
『……やはり、』
『蓮さん待って』
唐突に発せられた藤の制止はどこか緊張感があり、朝桐も言葉を区切るしかなかった。
『……揺れてる』
藤はコックピットから下を見下ろして呟く。
突然、花澤が悲鳴を漏らしながら立ち上がり、マイクに向かって叫んだ。
『っ第三十二生命体の影が、花棺第三機の下まで再び迫ってきています!! し、しかも、あれは……影が異常なほどに大きすぎる……!!』




