41話
『花棺第三機、第七機、パイロットとの接続を確認!』
双樹がコックピットから見下ろすと、花棺の足元は木々に囲まれていた。
そして、ここからでも見える距離に広大な湖と、そこに影を落として蠢くセルファの姿が。
『双樹、緊張してる?』
少し乗り出した身体を座席へ沈めた時、無線から藤の声が響いた。
「うん、ちょっと。 冬夜は緊張しないの?」
『流石にもう慣れたかな』
「……怖くないの?」
『怖くないさ。たとえどんなことがあったって、カイはずっと一緒だから』
それはまさに、何度も死地を乗り越えてきた者の答えだった。
何食わない彼の声が、何故か背を震え上がらせる。
『二人とも、準備はいいか?』
朝桐の問いに、はい、という声が重なった。
『只今より、第三十二生命体討伐作戦を開始する。花棺第三機、第七機、出撃!』
双樹は無意識に手を握りこむ。
藍と黄金の翼が風を切りながら美しく広がった。
徐々に夜が明けようとする空、小さく呻きながらセルファが湖の上を旋回していた。
先行する第三機は大剣を構えて敵へ一直線に飛んだ。
『第三パイロットは敵に一撃を与えた後、すぐさま後退せよ』
『了解!』
藤は朝桐の指示に従い、迷いなく突っ込んだ。
敵は瞬時にこちらを捉えたはずだが、動く様子は見られない。
『まったく、余裕だな……!』
花棺の白く長い腕が振り下ろされる。
『花棺第三機、敵と接触!』
ついに、花棺とセルファが対峙した。
『っ……!』
だが、切っ先は届かなかった。
敵が正面の穴から水を吐き出し、第三機を襲ったのだ。
「冬夜!」
『大丈夫、心配しないで』
その言葉通り、藤は俊敏に機体を操作して無傷で距離を取った。
一方セルファは、それ以上攻撃を仕掛けなかった。
『なるほど』
朝桐の冷静な声が響く。
『冬夜が攻撃した時、核は第三機の対角線、裏側へ移動した。代わりに核があった元の穴から水を用いた反撃をする』
『ふーん、じゃあ今度は手加減なし』
そう言い切った藤は落ち着く間もなく再びセルファへ向かって行った。
『要は、敵の攻撃位置から真っ直ぐに振り下ろせばいいんだろ』
藍の眼がギラリと光る。
先程よりも遥かに早いスピードで近づいてくる花棺に、セルファはまた威力を持った水を吐き出した。
『二度も食らうかよ!』
第三機は一瞬にして間合いを詰める。
だがその時、様子を見ていた朝桐が声を漏らした。
『……なんだ?』
セルファが突然、攻撃の勢いを弱めたのだ。
危機に瀕したこの状況で。
『そこだ!!』
花棺は勢いよく武器を振り下ろした。
しかし、そこに敵の姿はなかった。
剣が空を切った音と、大きな水飛沫が上がったのはほぼ同時だった。
『っアイツ、逃げたなぁ……!?』
藤は思わず声を荒げた。
なんと、セルファは水中に逃げ込んだのだ。
『冬夜!! 警戒しろ!!』
耳を劈くような朝桐の声に、藤の息を呑む音が重なった。
『一度潜り込まれれば、いつどこから現れるか分からない!!』
暗がりの湖に溶け込んだ影がゆらりと動く。
そして、不意に第三機の左後方から、標的目掛けてセルファが飛び掛かった。
「避けて!!」
敵は大きな口を広げて、まさに花棺を吞み込もうとしていた。




