40話
水瀬が運転する車は、暗がりの連結部を進んでいた。
双樹はようやく馴染んできたパイロット用スーツを摩りながら、横を盗み見る。
かつて、自分が不格好に来ていた藍色のスーツも藤が着ればとても様になっていた。ブローチの宝石が静かに光っている。
視線に気づいた藤は組んでいた足を戻すと、笑顔を作って話し始めた。
「蓮さんてば、俺たちに着替えさせてさっさと車に乗せるから、双樹は何が何だか分からないよね。急ぎだからって雑なんだから」
「あはは……」
双樹は苦笑いを作る。
出来る限り早く向かえることに越したことはないだろうが、朝桐がそうしたのも藤の面倒見の良さを買ってのことだろう。
予想通り、藤は双樹に分かりやすく現状を説明し出した。
「俺たちは西の鹿丹まで向かわなきゃいけないんだけど、目的地に直結する連結部はないんだ。だからとりあえず、現場から一番近い駐屯地まで移動してるの。ちなみに花棺は空から運んでる」
双樹は小さく相槌を打つ。
「それで気になるのは戦闘だと思うけど、まず始めは俺が易しく攻撃してみて敵の様子を伺うから、双樹は作戦の内容が決まるまで少し離れたところで待っててね。コンディションによっては今日の武器顕現が不安定ってこともあり得ると思うから、あんまり焦らずに」
「うん。分かった」
「藤先生が伝えたいことは二つ。危ないと思ったら逃げること。カイを信じること。いいね?」
約束、と言われて双樹は彼と小指を交わした。
満足げに背中を深く預けた藤の横顔は、暗闇で小さく灯るライトによって一定の間隔で照らされていた。
双樹は一度意味もなく外を見て、結局恐る恐る口を開く。
「冬夜、全然関係のないことだけど、一つ聞いてもいい?」
「いいよ。何でも聞いて。この先はまだ時間がかかるから」
双樹は一つ呼吸を置いてから、藤に尋ねた。
「以前藤が、朝桐さんの家の子って言ってたでしょ? それが気になって……」
「ああ、そんなことも言ったね」
藤は遠くを見つめる。
「小さい頃両親が亡くなってね、貰い手がなかったところを、蓮さんが拾ってくれたんだ。なんだっけ、蓮さんは親父の知り合いのさらに知り合い? とか言ってた」
双樹は藤の穏やかな声に、ぬるま湯に浸かるような感覚だった。
「蓮さんは俺を育ててくれたけど、父親のような感じでもなかった。むしろ父親らしくなることを避けてたんだと思う。ただ俺を、一人の人間として見てくれてた」
少しの沈黙が心地よく広がる。
今この瞬間だけは、無理のない、等身大の藤に見えた。
「ふふ、でもね俺が寮に引っ越してからちょっと寂しそうなんだ。そんな表情は一切見せないけど、よく俺の好きなものを持って遊びにくれるし、案外優しい人なんだよ」
「……冬夜のことが大切なんだね、きっと」
「そうかな……そうだといいな」
藤は照れくさそうに笑って言った。
「あの人は、俺の戦う意味だから……」
車は長い暗闇を抜け、月夜が窓ガラスを照らした。




