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39話


 「なんだ、沙菜と芽久もいたか。……恰好を見るに、間が悪かったようだな」

 「本当よ。私たちは今花棺に乗れないのに、収集がかかると来なきゃいけない」


 エレベーターから降りると、朝桐が様々な資料を広げて作戦を練っているようだった。

 沙菜はすぐに一つの座席へ向かい、深く腰を下ろした。その横に芽久が着く。


 「冬夜も双樹も来なさい。今回は君たちが出ることになる」

 

 朝桐に言われて、二人も机を囲んだ。

 花棺第五機と第六機は先の戦闘で損壊、その他の機体もそれぞれの事情で動かせなかったはずだ。


 「第三機はもう大丈夫なの?」

 「うん、薊さんが調整を急いでくれたからね。さすがに双樹一人では行かせないよ」


 藤がいるだけで心強い。

 少なくとも前回のように仲間内での言い合いにはならないだろう。


 「第三十二生命体の出現地はここ」


 朝桐はそう言うと赤いマーカーで地図の一部を囲った。

 そこはぽっかりと青く塗りつぶされている。


 「もしかして……」

 「西風宮(せいふうぐう)鹿丹(かたん)の名所である喜砂湖(きさこ)


 藤は腕を組みながら嫌そうな表情を作った。


 「水辺はかなり面倒くさいな。以前もそうだったけど、水中に身を隠されると厄介だ」


 朝桐はそれに同意しながらも、階下へ声を投げた。


 「花澤! 映してくれ」

 「はい!」


 司令室の液晶に現れたのは、まさに空を駆ける龍だった。


 「これが第三十二生命体か」

 「うげー気持ち悪い」


 確かにセルファの身体には目のように閉じた無数の穴があり、沙菜が嫌悪感を覚えるのも分かる。


 「あれ、でも核が見えてる」


 尾の側にあった眼だけが開かれており、眼球の代わりとでも言うように白い球が穴から半身を現していた。

 第三十一生命体では核を出させるのにかなり苦労したが、これでは簡単に決着がつきそうだ。

 だが朝桐は双樹の思考を読み取ったかのように、花澤へ次の映像を促した。


 「これは軍部が初めて攻撃をしかけた時だ」


 画面の中では空をゆっくりと進む大型の戦闘機が、距離を取りながらセルファに銃撃を放った。


 「えっ……!」


 確かに銃弾は核を狙っていたが、敵は沈黙するどころかすぐに裂けた身体を修復し始める。

 花澤が映像をもう一度スローで再生すると、その理由がはっきりと分かった。

 攻撃が当たる直前、セルファは核を瞬時に仕舞い、今度は違う眼へ突出させたのだ。


 「このように敵は核本体を自在に移動させる」

 「……やっぱり一筋縄ではいかないよな。それでどうする? 蓮さん」

 「現段階では敵の攻撃パターンが割れていないんだ。今回の個体は視力も良く回復も早いことで、軍部には敢えて反撃しようともしてこない。よって作戦詳細は花棺への反応を見てから決めたい」

 「了解」


 朝桐と藤の会話に、それまで黙って聞いていた沙菜が混ざりだした。


 「敵の進行はどうなの?」

 「徐々に東へ向かいつつあるが、未だ湖の上だ」

 「遅いわね。水辺が不利になるなら、いっそ陸まで移動させればいいと思ったんだけど」

 「奴にとってはあの環境が有利だからこそ、こちらを警戒して動いてない可能性もある。それに、できれば湖で殲滅し、周囲への被害は最小限に抑えたい」

 「なるほどね」


 双樹は何とか情報を脳内で整理しながらも、自分が上手くやれるのか不安でどこか落ち着きがなかった。

 それに、同じパイロットとしてこの空間にいる自分がなんだか情けなくもある。

 

 その時ふと、軽い掌が自身の肩に乗ったのを感じた。


 「双樹くん」


 振り返ると、いつの間にか背後に芽久が居た。


 「大丈夫だよ」


 凪いだその声は、ただ一言だったにも関わらず双樹のざわめきを静めた。

 芽久はまた、自分の席で彼らのやり取りを傍観している。

 彼女は案外と、人の機微に聡いらしい。

 

 双樹は何も言えないまま、先に会議が終結した。

 朝桐が立ち上がって、藤と双樹を見る。


 「では改めて。朝桐より第三十二生命体討伐作戦へ第三パイロット、第七パイロットの出動を要請する。二人とも、頼んだぞ」

   

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